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「母は強し」忙しいママさん棋士がタイトルを獲得した理由とは

内藤由起子囲碁観戦記者・囲碁ライター
タイトルを奪取した鈴木歩新女流棋聖=2019年2月10日、筆者撮影

全棋士が出場できる一般棋戦「竜星戦」で準優勝するなど活躍する高校生棋士・上野愛咲美女流棋聖(18歳)を、鈴木歩七段(36歳)が2勝1敗で破り女流棋聖のタイトルを獲得した。

鈴木七段のタイトル獲得は13年ぶり3つ目(女流最強位2回)。

これまで鈴木新女流棋聖が獲得したタイトルと大きく違うのは、結婚し、2人のお嬢さんのママになっての栄冠という点だ。

女性棋士は母親になるとタイトルを獲ることが多く、囲碁界ではよく「母は強し」と言われていた。

子育てに忙しいはずのママさん棋士がなぜ、頂点に立つことができるのだろうか。

強さは折り紙付きの鈴木新女流棋聖

鈴木女流棋聖は17歳でプロになって2年目に女流最強戦で優勝。2011年にはあと1勝で棋聖戦リーグ入りまで迫るなど、一般棋戦でも活躍する棋士だ。とくに読みの力が強く、張栩前名人ら名だたるトップ棋士の評価も高い。

実力は折り紙付きだったが、最近は上野女流本因坊、藤沢里菜女流三冠ら20歳前後の活躍の陰にかくれていた。

緊張する暇もない生活

今回、女流棋聖の挑戦者まで勝ち上がったときも「愛咲美ちゃんが強いのはわかっていましたので、勝負になるのかな?と思っていました。碁を楽しく打てればいいと思い、臨みました」という。そして、「精神的な要素がすごく大きく、いかに平常心で打てるかが重要だと思います」と勝因を挙げてくれた。

鈴木女流棋聖は2011年に林漢傑八段と結婚。現在は5歳と2歳の女の子のママとなって、日々、育児に追われ忙しく過ごしている。

「毎日が精一杯。夜、ベッドに倒れ込むように寝ています」

これまでの対局は、大きな舞台になればなるほど緊張していい碁が打てなかった。

しかし最近は、子ども2人と賑やかに目まぐるしく生活しているので、緊張する暇もなかったのが、功を奏したようだ。

頼りになる子煩悩の夫

ふだんは子ども達が保育園に行っている4、5時間が勉強時間になるが、以前の半分以下になった。その、貴重な4、5時間も、子どもが熱を出すなどすると帰宅してなくなってしまうこともよくあるという。

そんな中、たよりになったのが、夫の林漢傑八段だ。鈴木女流棋聖曰く、「100人に1人に輪をかけたほどの子煩悩」という林八段。

ここ数ヶ月は「一緒に勉強しよう」と積極的に声をかけてくれ、研究する時間を共有した。

また、対局の前日、前々日は「何をしていてもいいよ」と、子ども2人を連れて出かけてくれた。

相手の気持ちがわかる棋士夫婦

囲碁界は、棋士同士の夫婦が多い。

私も何組もの棋士夫婦に話をきいたことがあるが、うまくいっている夫婦が多い印象がある。

同じ勝負師。囲碁界のことがわかり、相手がどういう状況か、理解がしやすい。とくに対局前後、ナーバスなときの気持ちがわかり合えることが大きいと思う。

対局前日は心を落ち着けることができるよう、込み入った話はしないとか。

対局から帰ってきたときは、勝ち負けなど本人が言うまで聞かないとか。

お互いが、して欲しい声かけができ、されて嫌なことはしないなどの気遣いができる。

そんな理想的な夫婦関係が、林漢傑八段・鈴木歩女流棋聖夫妻の間でも育まれているのだろう。

囲碁観戦記者・囲碁ライター

囲碁観戦記者・囲碁ライター。神奈川県平塚市出身。1966年生。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学囲碁部OG。会社員を経て現職。朝日新聞紙上で「囲碁名人戦」観戦記を担当。「週刊碁」「囲碁研究」等に随時、観戦記、取材記事、エッセイ等執筆。囲碁将棋チャンネル「本因坊家特集」「竜星戦ダイジェスト」等にレギュラー出演。著書に『井山裕太の碁 AI時代の新しい定石』(池田書店)『囲碁ライバル物語』(マイナビ出版)、『井山裕太の碁 強くなる考え方』(池田書店)、『それも一局 弟子たちが語る「木谷道場」のおしえ』(水曜社)等。囲碁ライター協会役員、東日本大学OBOG囲碁会役員。

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