フジ・テレ朝・NHKは順調…主要テレビ局の直近視聴率をさぐる(2020年3月期通期)
全日もゴールデンも日テレがトップ
テレビ局の番組や局のメディア力のすう勢を推し量るのに、一番明確な指標が(世帯)視聴率。キー局における最新となる2020年3月期(2019年4月~2020年3月)通期の視聴率を確認する。
各種データはTBSホールディングス・決算説明会資料集ページ上で発表された「2020年3月期 決算資料」からのもの。なお「キー局」と表現した場合、一般的にはNHKは含まれないが、よい機会でもあるので同じグラフに収める。
テレビ東京は区分の上では在京キー局の5局に収められているものの、他の4局と比べれば放送エリアの問題や放送内容の特異性の都合上、視聴率で他局と比べて低めの値が出るのは、ある意味やむを得ない。その特異性を考慮し順位精査の際に除外すると、フジテレビが主要キー局では視聴率が一番低迷している。これは同年上半期から変わらない。数年前まではフジテレビとTBSの立ち位置が逆だったことを思い返せば、フジテレビの凋落ぶりがよく分かる。
視聴率が低迷しやすい昼間や深夜を除いていることから、全日と比べて高い視聴率が期待できるのがゴールデンタイム(19~22時)とプライムタイム(19~23時)。その時間帯で10%を切っているのは(テレビ東京以外では)、TBS、フジテレビ、NHK(プライムタイムのみ)。
今件で選択したテレビ局の中ではやや特異な動きを示しているのがNHK。NHKではゴールデンタイムとプライムタイムの差異が他局動向と比べるとかなり大きい。これは以前からの傾向で、ゴールデンタイムよりもプライムタイムの方が低いことから、その違いとなる時間帯、22~23時における視聴率がとりわけ低く、平均値を下げてしまっていることになる。もっともこれは各テレビ局の番組構成上、民放ではこの時間帯に番組のクライマックスや人気の高い番組が入ることが多いのに対し、NHKではそうとは限らないこともあり、仕方のない面もある。
それぞれの局のゴールデンタイムとプライムタイムの視聴率を比較すると、おおよその局でプライムタイムの方が低い値を示しているが、唯一テレビ朝日だけが高い値となっている(TBSは同率)。これは22~23時の時間帯で放送される番組の人気が影響を与えていると見てよい。具体的には同局の「報道ステーション」がプライムタイムの値をけん引しているのだろう。
前年からの変化を確認
視聴率の変移を前年(2019年3月期)との比較で表すと次のようになる。
昨今巷で話題に上っている、各キー局のすう勢が色々とにじみ出る結果が出ている。堅調なのはフジテレビとテレビ朝日とNHK、軟調は日本テレビとTBS、テレビ東京。
いくつか気になる局の動向を各社の決算短信資料なども合わせ確認する。日本テレビは前年度に続き、通期における前年度比の視聴率動向ではマイナスを記録。同社の決算時の公開資料で確認すると、今年度は個人視聴率の3冠を獲得した、広告主の需要が高い若年層へのウケがよかったなどの話はあるが、視聴率そのものは低迷中(今記事で取り扱っている視聴率は世帯視聴率)。もっとも現在進行年度の編成方針としても、引き続き個人視聴率に重視を置く、若年層へのアプローチを積極的に行う「次世代視聴者開拓」、地上波中心に「マルチプラットフォーム戦略」を推進するなど、将来を見据えた方向性を打ち出しているのが目に留まる。一方で番組制作費は前年度比でマイナス2.5%の削減を示しているなど、リソース面の注力の仕方が気になるところ。
TBSは主要局内では最大の下げ幅を示してしまっているが、決算期も含む各四半期の決算短信資料を確認しても、番組そのものに対する言及はさほどなく、あったとしても既存の視聴者へのアプローチが確かなものであるという話程度に留まっており、放送事業以外の多角的なビジネス展開への注力が大きくなっている感がある。「総合メディア戦略の多様化」を掲げており、そのための施策方針であることは容易に想像できるが、肝心の放送事業が振るわないのでは困りもの。一応現在進行期ではコンテンツ制作力の強化を目指すなどの文言は見受けられるが。
堅調さを見せたテレビ朝日だが、開局60周年ということもあり「ドクターX~外科医・大門未知子~」(平均視聴率18.5%)「相棒season18」(平均視聴率14.8%)など数々のドラマを投入し高視聴率を確保、また大型特番や大型スポーツ中継が好評だったことに加え、レギュラー番組では「報道ステーション」が好成績をはじき出したとのこと。他方、同局の番組制作費は前年比でマイナス3.0%とマイナスを示しており、不安要素が無いとは言い切れないのも気になるところではある。
この数年は各局ともターニングポイントを迎えている気配を示している。ある局はVの字回復を見せ、ある局は低迷を続け、ある局は下落傾向が継続している。単発のヒーロー的番組やイベントのおかげで一時的な盛り返しを見せることはあっても、根本的な体質、視聴者への姿勢の部分がしっかりとしていないと、次第に低迷さが顕著になる。
中にはそのドーピング的効果に味を占め、魅惑に取りつかれ、繰り返しその効果を望んでいるような行動を示す局も見受けられるが、「待ちぼうけ」の歌にある通り、常に切り株にうさぎがやってくるとは限らない。それを期待するどころか、切り株を増やすべく樹の伐採を繰り返し、かえって地道な努力の成果である果実の収穫量を減らすような動きすら見受けられるのは残念な話(昨今の「報道」番組では特にその傾向が見受けられる)。
なお各社の決算短信および補足資料では、複数社において現在進行期(2021年3月期)の業績予想について、新型コロナウイルス流行の影響によって合理的な予想は不可能として、未定とする発表をしている。視聴率にはどのような影響が生じるのか、今後の動向が気になるところだ。
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