松本人志さん、太田光さんに見る“共演NG”とは何なのか
28日に生放送されたフジテレビの特別番組「FNSラフ&ミュージック~歌と笑いの祭典~」で7年ぶりに共演した「ダウンタウン」の松本人志さんと「爆笑問題」の太田光さん。そのやり取りが話題になっています。
「爆笑問題」が漫才を披露した後、なだれ込むようにスタジオに登場。太田さんがカメラに向かって「共演NG!」と口火を切り、松本さんと丁々発止のやり取りを展開しつつ、そこに田中裕二さんがツッコミを入れる。3分半のやり取りながら大いに盛り上がりました。
松本さんと太田さんには共演NGというワードが付きまとう。それが半ば都市伝説のように醸成され、膨らんでいきました。いったい何が真実なのか。
時間と、感情と、芸人さんならではの粋という要素が重なり合って、その奥底を見ることは長らく芸人さんの取材をしている身であっても極めて難しいことです。もはや見ようすることが無粋という域にもなっているのかと思います。先日の「アメトーーク!」で東野幸治さんに本当に“ケツがあった”のか。それを調べるのと同じニオイがする話なのかと。
これまであらゆる芸人さんを取材し、プライベートでもあらゆる話を聞いてきた中で、芸人さんの中で本当に“共演NG”があるのか。これには僕なりの答えがあります。
「ないことはないが、数はとんでもなく少ない」
若手時代、互いにとんがっていてソリが合わず、そのままあまり付き合いがないまま今日に至り、会っても話す材料がない。
「どちらもオーソドックスな漫才のツッコミ」というように若い頃から芸風が似ているため番組にはどちらかしか呼ばれることがなく、なんとなく接点がないまま「縁遠い二人」だと思われてきた。
周りの人たちの気遣いから同じ場には呼ばない。僕が体感する限りほとんどのケースはそのようなパターンで「仲が悪い」というよりは「接点がない」ということが“共演NG”の根っこにある。それが圧倒的多数だと感じてきました。
純粋に仲が悪い。若手の頃のいざこざが今でもしこりとして残っている。そんな一般的なイメージに近い意味合いでの共演NGも僕が知る限りゼロではない。ただ、非常にレアケースであると僕は認識しています。
これまで23年ほど芸人さんの取材をしてきた中で、いくつか持論があるのですが、その中の一つが「売れてる芸人さん、全員いい人」論です。
人が人を選ぶのが芸能界であり「またこの人と仕事がしたい」と相手から思われることが恒常的に続く状態を“売れる”と言います。またその要素が芸能界の中でも特に強いのが芸人さんの世界だと感じています。
芸人さんとして、野球で言うならばプロ野球の一軍スタメンを目指す。そのために最低限の実力、これがないとそもそも話になりません。
ピッチャーなら、ストレートが最低140キロは出ること。ただ、140キロ投げるくらいのピッチャーはゴロゴロいます。でも、一軍出場枠は12球団合わせても限られています。
では、何がローテーションに入るためのポイントなのか。芸人さんに戦闘力というものがあり、それを公式化するなんてことがあるならば、僕は以下の計算式をイメージします。
実力×人柄
ここから算出されるポイントが芸人さんの戦闘力であり、それが高い人は激戦のイス取りゲームで勝ちやすい。
要は、数多の芸人さんの中から選ばれるほど戦闘力が高い人は人柄の数値も極めて高いことになります。
人柄がいいということは、周囲との摩擦係数が低いということでもある。そんな人が集まっている売れっ子芸人さんたちの中で、ギリギリと音を立てるようないざこざが残り続ける確率はかなり低い。
そして、多くの芸人さんが重視しているモノサシが「面白いかどうか」です。
今の世の中は社会が是とするものの変化によって、笑いの幅が著しく狭められているとも言われます。
ただ、その中にあって今回の松本さんと太田さんのやり取りには強い刺激がありました。その理由は、フリがききまくっていたからにほかなりません。
何十年にも渡って“共演NG”というワードが熟成されてきた。これだけのものは過去にさかのぼってもそうそうあるものではないですし、年月を経て凄まじいまでにたんぱく質がアミノ酸に分解され、薄く切った一切れで寸胴鍋いっぱいの極上出汁が取れる超逸品金華ハムみたいなものです。
これを松本人志さん、太田光さんという日本を代表するシェフ二人が調理するのですから、美味しくないわけがない。そして、それを食べて喜んでくれる人がたくさんいるならば、作り手としてそれを喜びと捉えないわけはない。
人の心はその人にしか分かりません。
その真理にあえて目をつむって、状況証拠と一般的な力学を並べていっても、今回お二人が感じた思いがネガティブなものであるとは考えにくい。
こんな上物の食材、狙って作れるものではありません。そして、今のご時世は“無菌スペース”が増えて、そういう奇跡の熟成が生まれにくい世の中でもあると思います。
そう考えると、今回の味わいはより一層貴重なものになりますが、本来こういう味こそが芸能界の醍醐味でもあるはずです。
10年後、20年後、芸能界にはまだこんな味が残っているのでしょうか。