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帝国ホテル「30泊36万円」は高いかお得か?

瀧澤信秋ホテル評論家
帝国ホテルが始めるサービスアパートメントが話題に(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

帝国ホテルがサービスアパートメント!?

驚きのニュースが飛び込んできた。「帝国ホテル 東京」(東京都千代田区)-以下「帝国ホテル」とする-がサービスアパートメント事業を始めるというのだ。タワー館3フロアを一部改修、900超ある客室の内99室を充てるとのこと。まずは3月15日から7月15日までの予約を2月1日から受け付けスタートした。気になるお値段は30泊で36万円(約30平方mの客室/税・サ込み)~といい、客室の広さや利用期間によって料金は異なる。

帝国ホテル(サービスアパートメント)公式サイト

帝国ホテルといえば、泣く子も黙る日本を代表するホテル。ホテル評論家である筆者にとっても“様々な意味”でハードルが高い。近年、訪日外国人旅行者の激増によりホテルの差別化も進み競争は激化、新しい斬新なスタイルやサービスを提供する施設が増えた。ゆえに、約130年の長きにわたり伝統を堅持し続ける帝国ホテルは別格の存在感を放っている。一方、伝統といえば一種保守的なイメージもあるワードだが、常にクオリティを高め続ける先取的ホテルという一面もまた魅力だ。

一方で、コロナ禍の牙はそんな帝国ホテルへも容赦なく襲いかかった。報道によると2020年4~12月期の連結決算は、最終損益が86億円の赤字(前年同期30億円の黒字)、売上高は前年同期比62%減の166億円で、緊急事態宣言も影響し1割前後まで稼働率も落ちこんでいたという。今回のサービスアパートメント事業についても、コロナ禍による宿泊をはじめバンケット・ウエディング等の需要激減が要因という点は想像に難くない。

日本経済新聞「帝国ホテル、客室をサービス付きアパートに転換」

サービスアパートメントとホテル

帝国ホテルの話から少し離れるが、(コロナ禍前の)近年の“ホテル業界とインバウンド活況”は切り離せず、激増した訪日外国人旅行者とその多様化に呼応するかのように、実に多彩なホテルが誕生した。伝統的なシティホテル/ビジネスホテルというスタイルにはカテゴライズできないようなホテルも増え、たとえば住まうようなステイというような宿と住のボーダレス化も指摘されてきた。

ホテルサービスとレジデンス(高級感のあるマンション)は親和性が高い。相応の賃料を支払うことでホテルライクなサービスも享受できることは居住者にとって魅力だ。最近ではレジデンスホテル(実際そのような名称のホテルもある)といったスタイルも増えた。すなわち、宿泊できる客室と居住できる部屋が一体となった施設である。最近、と書いたが、こうしたスタイルはかなり前から外資系などで進出しており、大阪で筆者が初めて宿泊利用したのも2011年、確か外資系の施設だったと記憶している。

フレイザーレジデンス南海大阪(筆者撮影)
フレイザーレジデンス南海大阪(筆者撮影)

一般のホテルと異なった部分は、客室にドラム式洗濯乾燥機やIHクッキングヒーター、電子オーブンレンジ、調理器具、食器などを備えていた点だ。レジデンス利用者のためのジムやサウナといったパブリックスペースも充実しており、宿泊者も利用可能であった。ジムやサウナなどは一般ホテルでも見られる設備であるが、住まう者にとっても充実した都市生活に資するものだ。

上記の施設は別として、近年増加しているレジデンス&ホテルというスタイルを不動産の側面からみると、レジデンス部分を分譲することによる投資資金の回収、建築コストのリスク緩和という点に着目されてきたケースが多い。また、ホテルとして利用される客室を居住者向けに、またその逆など需給に応じてフレキシブルに対応できる点も運営側にとっては魅力であろう。リスク分散という点では、そもそも一般的なマンションとして建てられているハードをホテルとして運営しているケースも多く見るようになった。

宿泊施設かマンションかといえば、街中で見かける短期滞在者向けのマンション(マンスリーマンションや短期賃貸マンション)も気になるところであるが、法律的な部分も含め本記事では文量の関係で省略する。これらについては筆者の記事でまとめている(有料記事で恐縮です)。

本記事のテーマからは逸れるが、ホテルとサービスアパートメントを時間軸で捉えた場合、短期:長期とも換言できる。ホテルの利用時間もコロナ禍においてこれまでの常識に変化をもたらせていることが指摘できる。ホテルのテレワークプランに代表されるように、いわゆる宿泊需要が激減する中で、チェックイン/チェックアウトは特に時間指定せず、○時間利用可能といったようなスタイルがこのところ高級ホテルでも急増している。そもそも、こうしたスタイルの伝統的な十八番といえば、レジャーホテル(ラブホテル)であるが、こうした業態の先取性にも着目してきた筆者としては目下興味深い宿泊業界の現況でもある(これらについては別途記事でまとめる予定)。

帝国ホテルのサービスアパートメントは高いかお得か?

サービスアパートメントという点からホテルを見てきたが、ここで帝国ホテルの話に戻ろう。今回の帝国ホテルのサービスアパートメントは、客室に洗濯機やキッチンなど一般的なサービスアパートメントで見かける設備は備えないものの、各フロアに共用スペースを設け洗濯乾燥機や電子レンジなどを設置するという。また、フィットネスルーム、プールをはじめ、駐車場などの利用に際して別途料金はかからない。別途、食事や洗濯などの定額サービスも選択可能だ(食事1カ月6万円(ルームサービス)/洗濯1カ月3万円など-その他アメニティなど提供サービスの詳細は公式サイト等で確認されたい)。

今回の帝国ホテル30泊36万円という料金面から都心の高級サービスアパートメントと比較してどうであろう。たとえば、高級サービスアパートメントとして知られるオークウッドをみると、35平方m弱で35万円ほどといい勝負!?といった感もあるが、いずれにせよ都心でこのような高級サービスアパートメントの需要は確固として存在するということだ。

帝国ホテルに泊まろうとすれば安く予約しようとしても1泊3万円は下らないであろう。30泊36万円といえば1日あたり1万2000円。こうした見方をすれば“これは安い!”と感じる人もいることだろう。

写真:アフロ

バリューという面からみても、やはり名門ホテルという途轍もない付加価値は最大の魅力だ。一方で、サービスアパートメントというスタイルは、伝統ホテルの持つブランドイメージ毀損に繋がらないかという懸念もある。

再度料金面からみると、一般的な(高級)ホテルの料金設定で時々みかけるのが、新規開業から一定期間はたとえ稼働率が低くてもラックレートで売り続けるというもの。ホテルの料金は繁閑等で変動させるのが一般的だが(ダイナミックプライシング)、正規料金で売り続けることでブランドイメージを定着させる狙いがあるという。

こうした例のように「稼働率が低ければ料金を下げて集客すればいい」という単純なものでもない。ブランドイメージが確立しているようなホテルでは「料金を下げまいが来る人は来るし来ない人は来ない」という話も聞く。そもそも、帝国ホテルが1万円で売り出したらそれこそブランドイメージの毀損であろう。何ものにもフェアプライス(適正価格)というものがある。

こうした点からみると、帝国ホテルは1万円に下げなくとも宿泊とサービスアパートメントという新サービスの提供で(話題となり)結果として1万2000円で売り、ブランドイメージの毀損という点でもベターな選択になっているという点に筆者は注目する。ホテルもさまざま、それぞれのスタイルでコスパかバリューか、消費者の視座も変わってくる。

早速申し込もうと…

さて、“30泊36万円”が高いか安いかであるが、筆者から見るとこれは安い以外のなにものでもない。ホテルを予約、チェックインして客室で仕事をすることが多いホテル評論家を生業とするだけに、帝国ホテルで1ヶ月仕事ができるのは、まさに一挙両得感!?も高い。

早速申し込もうと公式サイトに書かれた専用番号へ架電してみると…何度かけてもず~っと話し中だった。お得!と感じた人はやはり多かったようだ。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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