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投手陣が苦境の中でリック・バンデンハークができること

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
WBCでもオランダ代表でエース格として活躍したリック・バンデンハーク投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 昨年2年ぶりに日本一の座を奪還したソフトバンクが、今シーズンは開幕から厳しい戦いを強いられている。その大きな要因になっているのが、昨年はプロ野球最高の防御率を誇った最強リリーフ陣の崩壊だ。特に確固たる“勝利の方程式”を形成していた岩崎翔投手、デニス・サファテ投手の相次ぐ戦線離脱は、チームにとってこれ以上の痛手はないだろう。

 右ヒジを手術した岩嵜投手は復帰まで3ヶ月、米国で右股関節唇の修復手術を受けたサファテ投手も同4ヶ月と、すでに長期離脱が発表されている。2選手の離脱中は現有勢力でカバーしていくしかないが、残されたリリーフ陣も昨年はフル回転を余儀なくされており、森唯斗投手、リバン・モイネロ投手らもここまで盤石な投球とはいえない状況が続いている。

 現時点で苦境に立たされたリリーフ陣を救えるのは先発陣だろう。彼らが少しでも長いイニングを投げることで、リリーフ陣の負担を減らしていくしかない。そうした期待がかかる1人が、昨年はローテーションをしっかり守りながら25試合に先発し、1試合当たりの投球イニングも6回以上と安定感抜群だったリック・バンテンハーク投手だろう。

 「間違いなく少しでも長いイニングを投げることが求められている。基本的には効果的な投球をするということ。1球ごとにしっかり自分投球をしていくしかない。

 ただどんな状況に関わらず、自分が登板前に心がけることに変わりはない。自分がやるべき仕事をしっかりやり、長いニングを投げブルペンに休養を与え、さらにチームに勝つチャンスをもたらすことだ。自分が登板に臨む時はそこだけに集中している」

 バンデンハーク投手が話す通り、先発投手はすべての試合に出場できるわけではない。だからこそ自分が投げる試合で常に長いイニングを投げるという強い責任感が要求される。エース級の投手ともなれば尚更だ。

 普段の練習をみていてもバンデンハーク投手からそんな責任感が滲み出ている。150キロを超える速球を武器にするパワー派投手の姿とは裏腹に、試合前の練習では投手陣の誰よりも遅くまでグラウンドに残って調整を続けている。キャッチボールにしても1球1球丁寧に投げ、スタッフと話し合いながら常にバランスの確認を行っている。強いプロ意識があるからこそ準備にも細心の注意を払っているのだろう。

 繰り替えになるがソフトバンクにとってサファテ投手の抜けた穴は相当に大きい。守護神としての存在感もそうだが、それとともに外国人ながら投手陣のリーダー的な役割も果たしていた。現在和田毅投手や五十嵐亮太投手らのベテランが2軍で調整中ということもあり、32歳のバンデンハーク投手への期待も一段と増しているように思う。その辺りについて本人はどう感じているのだろうか。

 「そう(自分が投手陣を牽引していく)とは思わない。現時点でも我々の投手陣は素晴らしいと思っている。経験を積んだ投手が揃っているし、才能溢れる若手投手もいる。もちろん長年チームを支えてきたデニスとイワサキがいないのは大変なことだが、だがその分若手投手が経験を積める最高の機会を与えられ、彼らが代わりに頑張ってくれるだろう。とにかく今は投手みんなが自分の投球をしながら試合をつくっていくことに集中していくしかない」

 その発言は最後まで生真面目なオランダ人だったが、彼が率先して投手陣を牽引しなくても、彼が投げるごとに好投を続けていくこと自体が投手陣を支えていくことを意味する。東浜臣投手、千賀滉大投手、武田翔太投手らの若手先発陣とともに、今こそバンデンハーク投手の真価が問われる時なのだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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