1000億円という途方もないスーパーコン補助金(続)
5月10日にアップした記事でさまざまなご意見をいただいた。私の舌ったらずの表現で誤解を生んだ所もあると思う。できるだけクリアにしていきたいと思う。
最大の問いかけは、なぜ100億円ではなく1000億円なのか、という点だ。京では、8CPUコアのSPARC64を基本ユニットにした構成だと思うが、まず市販のインテルやAMDのプロセッサではなぜまずいのか、マルチコアGPU(グラフィックスプロセッサ)も市販ではなぜまずいのか、ボトルネックはどこにあるのか、といった基本的な問いかけから始まっている。
引き合いに出したクレイの研究開発費64億円とは比べられないというご意見があったが、いくらなら妥当なのだろうか。誰もが納得のいく金額であればもちろん、問題はない。ただ、一般論として、お金はたくさんかければよいというものではない。補助金をやりすぎるとそれを充てにするビジネス体質が出来てしまい、国際競争力が弱まってしまうという問題もある。限られた予算で安く設計・製造するために知恵を絞ることこそ、国際競争力を高める。少なくとも成功した米国企業はそのようにしている。
スティーブ・ジョブズ氏は、かつてアップルを追われてNEXT Computer社を設立した時に設計・製造した高性能コンピュータは全く売れなかった。1990年前後の話だが、価格が1台100万円以上もしたからだ。彼は、この失敗を教訓として生かし、アップルに戻されたあとに、iMacという低価格なコンピュータを世に出した。スケルトンという斬新なデザインにこだわると同時に、ユーザーが購入できる10数万円という手ごろな価格の製品に仕上げた。この製品は爆発的に売れた。その後のiPodやiPhone、iPadも手ごろな価格にこだわり続けた。その上で、斬新なデザイン、あるいはあっと驚くようなGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)やビジネスモデルを生み出した。
手頃な価格というテーマは彼のNEXT時代の失敗から来ている。世界市場で売れるスーパーコンピュータ製品を作ろうとするなら、可能な限り少ない予算で高性能のコンピュータを設計する能力が求められている。これを世界のスーパーコン企業が争っている。
開発に必要な予算が少なすぎる場合には、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授のように寄付を呼び掛けたり、企業とのコラボで資金を提供してもらったり、資金調達にも努力すればよい。世界に通用する企業、インテルやクアルコム、ARMといった半導体メーカーからエリクソン、シスコといった通信機メーカーに至るまで、無駄なお金は極力減らしている。
シスコシステムズの社長(CEO)が海外出張するのにエコノミークラスを利用する話は有名だ。日本とアメリカを飛ぶ間のわずか10時間程度の間に数十万円ものお金を使うことは有効利用といえるだろうか。例えば、飛行機代をエコノミー、ホテル代を1~2万円アップして1週間滞在してもこの方がコストは安く済む。加えて、ブランドのあるホテルだと顧客を呼んで商談に使える。さらにコーポレートディスカウントを適用してもらうように交渉すれば安く済む。
要は、限られた予算をいかに有効に使うかという問題である。これまで経済産業省の一つのプロジェクトで1000億円という高額のお金が使われたという記憶はない。1000億円は、いわば途方もなく高い金額レベルなのである。
(2013/05/12)