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年間最多セーブ記録を更新したデニス・サファテの本当の意味での凄さとは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シーズン最多セーブ記録を更新したデニス・サファテ投手

 9月5日のオリックス対ソフトバンク戦は延長戦にもつれ込む接戦となった。それでもソフトバンクが延長11回表に貴重な1点を奪うと、その裏は当然のごとく絶対的クローザー、デニス・サファテ投手をマウンドに送り込まれた。

 先頭から2者連続三振を奪った後、迎えたのは代打の俊太選手。3球目の153キロの外角球を打ち上げた瞬間、サファテ投手は人差し指を立てた右手を突き上げると、打球を追いかけながら自然と両手を挙げ万歳ポーズをとっていた。

 「(最後の球は)いい投球ができたし、打った瞬間打ち取れたとわかったけど、打球がなかなか落ちてこなかったんだ。捕球するまで5分ぐらいかったように感じたよ。ただ打球がグローブに収まった瞬間、ようやく終わったと安堵し、喜びとともにいろいろな感情が入り交じった」

 実際は打球が上がってから捕球されるまでの所要時間は約6秒だった。それだけ今回のセーブはサファテ投手にとっても特別な重みのあるものだった。今シーズン47個目のセーブは、今更説明するまでもなく年間最多セーブの日本記録を更新。日本プロ野球史上に新たな歴史が誕生したのだ。

 「いつもはマウンドに上がって時にセーブを失敗することは意識したことはないけど、今日はとにかく失敗だけはしてはいけないと考えていた。8回までリードしながら追いつかれてしまったので、とにかく今日の試合は勝たないといけないと感じていた。自分の記録というよりこの日の勝利はチームにとってマジックナンバーを減らす意味でも大きかったからね。

 47セーブを達成できて嬉しい。これで記録のことを毎日意識する必要はなくなった。自分の中では(記録は)終わったこと。残りシーズンどこまでいくかわからないがもう気にしなくていい」

 試合後の記者会見で安堵の表情を浮かべたサファテ投手は最後まで個人記録にとらわれることなく、まずチームの勝利を喜んだ。あくまで彼の頭の中は、チームとともに2年ぶりのリーグ優勝を分かち合いたいという思いが最優先なのだ。

 それでも今シーズンのサファテ投手はやはり突出すべきものがある。ここまでセーブ機会での登板48試合で失敗はわずか1回。しかも日本新記録樹立は123試合目でのこと。MLBの162試合で換算すると61.9セーブとなり、2008年にフランシスコ・ロドリゲス投手(当時エンゼルス)がMLB記録を樹立した62セーブに匹敵するペースなのだ。その凄さが理解できるだろう。

 だがサファテ投手の真の凄さはそこではない。毎年クローザーとしてずば抜けた投球を続けていることだ。中日の岩城仁紀投手に並ぶ3年連続40セーブを記録するばかりか、2011年に広島に入団以来7シーズン中5シーズンで30セーブを記録。しかも現在36歳にも関わらず投球スタイルが変わることなく、ずっとトップを走り続けていることがまさに驚異的なのだ。

 かつてサファテ投手はリリーフ投手について以下のような本音を漏らしてくれたことがある。

 「現在のリリーフ投手は本当に厳しいポジションだと思う。もう長期に渡って安定した投球をするのがすごく難しくなってきている。MLBを見てごらんよ。チャプマン(アロルディス・チャプマン投手:現ヤンキース)は昨年まであれだけの活躍していたけど、今年は昨年のような投球ができなくなっている。メランコン(マーク・メランコン投手:現ジャイアンツ)だって移籍してからいい投球ができていない。

 もうリベラ(マリアノ・リベラ投手:通算652セーブ)やホフマン(トレバー・ホフマン投手:通算601セーブ)のように長年活躍する投手は存在できなくなってしまったよ」

 サファテ投手が話す通り、現在のMLBではクローザーに限らずリリーフ投手が長期的に活躍するのがかなり難しくなってきている。リリーフ投手は160キロ前後を投げるパワー派が主流になり、主力リリーフ投手はプレーオフを含めると年間90試合前後に登板するのが当たり前の時代になっている。どうしてもフル回転した後のシーズンは体調維持が難しくなり、それだけ長期的に安定した投球ができなくなってきているし、その分クローザーを長期間全うすることも不可能に近くなってきている。

 にも関わらずサファテ投手は2014年にソフトバンクに入団以来、毎年64試合以上(今シーズンもここまで58試合)に登板し続け、セーブ数に至っては37→41→43→47と年々伸ばしているのだ。現状を考えれば、もう超人の域に達しているといっていいだろう。

 今やNPBにおいても岩瀬投手を最後に、クローザーとして長年に渡って安定した投球を続ける投手は影を潜めているように思う。まさに我々は歴史の生き証人として最後に生き残った“真のクローザー”の勇姿を見守っているのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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