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日米同盟強化は中国のオウンゴール――歴史認識攻撃とAIIB

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

安倍首相の米議会演説に中国は不快感を示した。日本への歴史認識攻撃により日米同盟離反を狙ってきたが、それが功を奏していない。米国の弱体化と中国の強大化が日米の距離を縮めたという中国のいら立ちを読む。

◆スマートだった安倍首相の米議会演説

4月29日、安倍首相は日本の歴代総理で初めて米上下院合同会議における演説を行った。よほど練習したのだろう、英語による演説は、ときどき単語の切り場所をまちがえたり、またWARなどの発音に多少の違和感を覚えたが、なかなかのものだ。

特に70年前の2月、23歳の海兵隊大尉として中隊を率い、硫黄島に上陸したというローレンス・スノーデン海兵隊中将と、当時の栗林忠道大将・硫黄島守備隊司令官を祖父に持つ新藤義孝国会議員を並ばせて「和解」の象徴として見せたのは、うまい演出であったと思う。

それは少なくとも、第二次世界大戦で戦った日米が、今では互いに未来を見据えて同盟を強化しようとしていることを世界に訴えるのに十分な効果を持ったであろう。

先の大戦に痛切な反省を抱いていることと現在の友情を強調することにより、「謝罪」という種類の単語を使わなくとも、悔恨を表現できたのは、スマートだった。

中国や韓国、および在米チャイナ・ロビーやコリアン・ロビーは、アメリカの「民主と人権」を重んじる文化に訴えて、日本の戦争犯罪を糾弾する姿勢をやめないが、それをただひたすら「謝罪」あるいは「お詫び」という単語の欠如に求めるには無理がある。

もちろん安倍首相が「謝罪します」「お詫びします」という言葉を発するのは、そうむずかしいことではない。それを音として発すればいいのだから。しかし、その言葉を使ったところで、「心が伴ってない」とか「言動不一致だ」として、次の非難の言葉は用意されているだろう。

要は、「謝罪」「お詫び」という単語を使うか否かではなく、いかなる「心」を持ち、どのような姿勢で今後アジアと付き合っていくかが問題なのだ。

少なくとも、米議会における米国人を対象とした謝罪と反省の思いは、十分に伝わっただろう。

スタンディング・オベーションは、一種の議会儀礼だ。

1943年2月18日、当時の「中華民国」の宋美齢(そうびれい)・(蒋介石)総統夫人は、同じ壇上で演説をしている。

知性と美貌の持ち主であった彼女は、華麗な英語で「日本と戦っている中華民国への援助」をアメリカに訴えた。うまくアクセスできるかどうか分からないが、彼女の声を聴きたかったら、http://v.youku.com/v_show/id_XMjgzNTc5ODQ0.htmlをクリックしてみてほしい(「広告をスキップ」をクリックすると、宋美齢の肉声が聞こえてくる。パソコンの設定によってはダウンロードまでに時間がかかったり、場合によってはアクセスできないこともある。その節はお許し願いたい)。

演説が終わると、拍手は鳴りやまず、スタンディング・オベーションで彼女の演説を讃えた米議会議員たちは、いつまでも座ることをしなかった。

ときのルースベルト大統領は「神が許す最高の速度で、中国を支援する」と宣言し、日本を敗戦へと追いやったのである。

その日米が怨讐を越えて、こうして和解しているのは、意義深いことである。

◆肩透かしを食らった中国

アメリカにおけるアメリカ人を対象とした演説ではあったが、安倍首相は「みずからの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目をそむけてはならない。これらの点についての思いは、歴代総理と全く変わるものではありません」とアジアについても触れた。 「歴代総理と全く変わらない」という言葉は、河野談話と村山談話を引き継ぐということを言ったのと同様だ。

特に河野談話に関しては、「紛争下、常に傷ついたのは、女性でした。私たちの時代にこそ、女性の人権が侵されない世の中を実現しなくてはいけません」という表現で「慰安婦問題」を表したものと考えられる。この問題はストレートな言い方をしてしまうと、朝日新聞の報道や河野談話を導いたプロセスなどにも抵触し、デリケートだ。それを避けるために、あえてこの表現にとどめたものと思う。

しかし中国としては(韓国にとっても)、不快でならない。

中国は安倍首相が「歴史を正視しない」ことを批判し、韓国は「謝罪しない」ことを批判した。

中国もバンドン会議における日中首脳会談直前まで、「謝罪」という言葉を安倍首相がインドネシアのジャカルタにおけるスピーチで使うか否かによって、首脳会談をやるか否かを決めるといった報道が流布したが、「謝罪」という言葉がなかったのに、日中首脳会談は行われた。もっとも習近平国家主席は安倍首相のスピーチが始まると会場を抜けたので、「謝罪」という言葉を使ったか否かに関して「関知せず」という逃げ道を作ったのではあったが……。

この前例がある限り、中国はもはや「謝罪をしないのなら」という前提の攻撃はできない。そのカードはバンドン会議で失ってしまった。

これまで習近平政権が歴史認識に関して激しい攻撃姿勢に出たのは、日米を乖離させたかったからだ。習近平政権誕生前から、筆者はそのことを指摘してきた。アジア回帰したいアメリカを牽制するため、日米同盟がある日本を歴史問題で攻撃すれば、アメリカの立場が弱くなる。だから反日は加速しても、日本はターゲットではなく「手段だ」と説明してきたのである。

その視点からすれば、習近平政権の戦略は、少なくともこの問題に関しては失敗したとみなしていいだろう。

◆中国のオウンゴール――中国主導のAIIBがアメリカに抱かせた危機感

中国は中国主導アジアインフラ投資銀行によって世界57カ国をリードし、中国を中心とした世界秩序を形成しようとしている。このことがオバマ大統領に焦りと危機感を抱かせ、未だかつてない勢いで日本を礼賛し、安倍首相を厚遇した。

この流れの中で、安倍首相はオバマ大統領の期待をほぼすべて叶えてあげようとしているのである。

その結果、日本がどこに突き進んでいくのか、ここには疑問符が残る。

これからが問題だ。

しかし少なくとも、かつてないほど日米同盟を強固にしたことだけは確かだと言っていい。

中国は日米同盟と安保体制は冷戦時代の残渣だと非難している。

その程度のものでしかなかった日米同盟を、戦後体制を覆すほどの大転換をもたらす同盟に持っていってしまったのは、実は中国自身なのである。

これは中国のオウンゴールだと断言しても過言ではないだろう。

あのしたたかな「紅い皇帝」習近平も、ここを見落としたのではないのか――。

中国外交部報道官の、日本の歴史認識を攻撃する表情に、いら立ちがにじんでいる。

中央テレビ局CCTVの安倍首相演説批判も、心なしか「精彩」を欠く。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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