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千葉沖地震でマンション見学キャンセルも。東日本大震災後、同じ状況だった湘南の今は

櫻井幸雄住宅評論家
住宅地として人気の高い湘南も、津波が怖いと敬遠された時期が……。(写真:イメージマート)

 この3月、千葉市内、JR京葉線稲毛海岸駅から徒歩6分で販売中のマンションで、見学のキャンセルが増えた。モデルルームを見に行く予定だったのだが、購入を検討し直すことにしたので、見学も見合わせるというのだ。

 それは、2月下旬から活発化した千葉県東方沖地震の影響である。

 マンションの建設地は稲毛駅から徒歩6分。稲毛海岸からは1.8キロメートルなので、海が目の前というわけではない。それでも、海岸までまっすぐの道に面してマンションが建っているため、「地震による津波」を連想しやすい立地のようだ。

 1月には能登半島地震が起き、3月11日には東日本大震災の記憶がよみがえる。地震関連の報道も増えたので、「津波が怖い」と思う人は「海岸」の名前が付く駅のマイホーム購入を一時見合わせ、見学もキャンセルしたと考えられる。

 マイホーム購入は、自然災害の影響を受けやすい。たとえば、台風で川の氾濫が起きると、川に近い住宅が敬遠される。2011年の3月、東日本大震災が起きた後も、海に近いエリアで大きな影響が生じた。

 首都圏で海に近いマンションの売れ行きが落ちたのである。といっても、海側のマンションすべての売れ行きが落ちたわけではない。

 海に近いマンションの一部で売れ行きが落ちた、というのが正確なところ。たとえば、東京湾の中に位置する都心湾岸エリアでは影響がほとんどなかった。

 房総半島と三浦半島という“自然の防波堤”で囲まれた東京湾沿岸は、もともと津波被害が発生しにくいとされ、そのことを冷静に受け止める人が多かったからだろう。

 一方で影響が大きかったのは、神奈川県の湘南エリア。東京湾の隣に位置する相模湾に面した三崎から葉山、鎌倉、江ノ島、茅ヶ崎、平塚あたりまでの場所だ。

 東京湾と比べると、相模湾は入り口が広く、外海の影響を受けやすい印象がある。さらにいえば、大正12年(1923年)に起きた関東大震災が相模湾内を震源地にしたこともあり、湘南エリアのマンション、一戸建ては一気に売れなくなった。

 じつは、2011年の3月当時「湘南の海に近い」ことを長所として打ち出すマンションが複数分譲されていた。湘南でも海が目の前というマンションは数が少ないため、それらは大人気になったはず。ところが、地震の影響で海に近いことが裏目に出て、気の毒なくらいに問い合わせが減った。

 当時、首都圏では内陸に位置する「武蔵野台地」の人気が爆上がりした。世田谷区や杉並区、多摩ニュータウンのエリアである。安心なのは内陸部で、海に近い場所のマイホームを買う人など、これから先もいないという極端な意見まで生まれた。

海に近い湘南は、今人気住宅エリアに

 「買う人などいない」とされた湘南エリアは、その後、どうなったか……いつしか人気が戻り、湘南の辻堂や茅ヶ崎、平塚は今、住みたい街を選ぶ各種調査で上位にランクインすることが多くなった。以前より人気が増しているのだ。

 湘南エリアでは、今、海に近いマンションが高値で取引されている。その背景には、湘南で海に近い場所に時間貸しの駐車場が極めて少ないことも影響している。夏、マイカーで遊びに行きたくても、それがしにくい。だから、シーサイドまで徒歩圏の場所に住むことに憧れる人が多いわけだ。

 人気が戻ったことで、マンション価格も上昇した。2011年当時、なかなか売れなかった湘南の分譲マンションは、今、中古でどのくらいになっているのか。調べてみると、新築分譲時価格と比べて、軒並み5割から7割値上がりしていた。

 新築で5000万円程度だったマンション住戸が、今は7500万円から8500万円出さないと買えない水準である。10年余りで7割上昇というのは、神奈川県内においてトップクラスの上昇率。横浜駅周辺やみなとみらい21地区といった中心地と同等の上がり方だ。

 そうなると、東日本大震災の後、海に近いマンションが敬遠されたときに購入を決めた人はよい買い物をしたことになる。

海に近い場所には凝ったマンションが多い

 東日本大震災の後、千葉県の海に近い場所でも、マンションの売れ行きが落ちたケースがあった。

 それは、JR京葉線の新浦安駅周辺や海浜幕張駅周辺。駅のまわりで液状化が生じ、道路に凸凹が生じたことが何度も報じられた。それで、敬遠する動きが出た。

 この新浦安駅周辺も海浜幕張駅周辺も、今は人気マンション多発地帯に戻り、住宅価格も再び高くなっている。湘南と同じ現象が起きているわけだ。

 首都圏において、海に近い場所には人気住宅地が多い。それは、大阪、名古屋ではみられない現象だ。

 首都圏において海辺の人気エリアは東日本大震災で一時的に敬遠されたが、やがて人気は戻っている。

 その理由として、海沿いエリアには、建物のつくりに力を入れた分譲マンションが多いことも挙げるべきだろう。

 たとえば、2021年に第1工区が完成した「ザ・パークハウス新浦安マリンヴィラ(三菱地所レジデンス、近鉄不動産)」は、目の前が海という立地条件でも短期間に完売した。それは、低層4階建て、平均専有面積約96平米という建物の魅力が支持された結果だろう。

JR京葉線新浦安駅からバス利用の立地で、目の前に海が広がる「ザ・パークハウス新浦安マリンヴィラ」(全戸完売)。2022年1月に完成したばかりの建物を筆者撮影
JR京葉線新浦安駅からバス利用の立地で、目の前に海が広がる「ザ・パークハウス新浦安マリンヴィラ」(全戸完売)。2022年1月に完成したばかりの建物を筆者撮影

 もうひとつ、海に近く、魅力的なマンション例となるのが、2019年に完成した「レ・ジェイド 辻堂東海岸 SEA-SIDE VILLA」(日本エスコン・全戸完売)。湘南の海から歩いて4分に建設され、中庭にサーフボード置き場と屋外の温水シャワーを備えるマンションだ。

「レ・ジェイド 辻堂東海岸 SEA-SIDE VILLA」の中庭に設置された温水シャワー。サーフボードを洗うこともできる。2020年夏に筆者撮影
「レ・ジェイド 辻堂東海岸 SEA-SIDE VILLA」の中庭に設置された温水シャワー。サーフボードを洗うこともできる。2020年夏に筆者撮影

 魅力的なマンションが次々に登場するため、首都圏の海に近い場所は人気住宅地であり続けるのか。それとも、人気住宅地だから、建物に力を入れた物件が出るのか……理由はわからないが、立地の魅力と建物の魅力、2つの相乗効果で海に近い場所に住みたい、と考える人が絶えないと考えられる。

 冒頭で紹介した「千葉沖地震で、見学キャンセルが出た」マンションも、建物の魅力が多い。なにより駅に近いし、設備仕様がよい。キッチンにはディスポーザー(生ゴミ粉砕処理機)と食器洗い乾燥機が標準設置となり、引き出しがゆっくり閉まるソフトクロージング機構も設置される。リビングの床暖房、浴室のミストサウナ、バルコニーのスロップシンク(外部水栓)などひとクラス上の設備を網羅し、すべての住戸にウォークインクローゼットが2つと納戸が付く。

 いずれも、昨今の建設費上昇で省かれやすい設備仕様である。このように質を高めたマンションを、見学もしないであきらめるのはもったいない話だ。

不安をあおる報道の弊害も

 じつは、マイホーム購入者は風評に惑わされやすい。

 たとえば、「東京湾に大津波の被害」といった記事の見出しをみるだけで、東京湾に面した場所のマンションは怖いと思ってしまう。

 記事の中身は「東京湾は大きな津波が来ない場所だが、実際に大地震が起きたら、何が起きるか分からないので備えが大切」と書いてあるだけでも、見出しで怖いと思ってしまう。

 それは、「マイホーム購入は大きな決断が必要」であるからだろう。大きな金額のローンを長期間の返済で組む……本当はそんなことしたくない、と思う人が多いため、「やめときなさい」の意見が気になってしまうのだ。

 気にする読者が多いので、同様の大げさな見出しが絶えない。かつて頻発した「東京五輪の後で、マンション大暴落」も同様だ。そのおかげで、マイホームの買い時を逃す人が増えてしまう。なんとも残念な話である。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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