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松本白鸚、長女・松本紀保、次女・松たか子への“襲名宣言”

中西正男芸能記者
松本白鸚さんと長女・松本紀保さん

 歌舞伎のみならず幅広いフィールドで活躍する松本白鸚さん(75)。プロデュース公演「Farewell」(東京・サンモールスタジオ、4月6日~15日)を手がけるなど、女優のみならず作り手としても存在感を見せる長女の松本紀保さん(46)。今年、長男・松本幸四郎さん(45)、孫の市川染五郎さん(12)とともに三代そろっての襲名を果たした白鸚さんですが「これは初めて申しますが、息子には名前を渡しましたが、紀保にも、そして(次女の)松たか子にも、もう自分の中にあるものを手渡したと思っています。名前ではありませんが、僕としては娘たちにも、すでに襲名を行った気持ちでいます」と胸の内にあるものを開放するように語りました。

一人の俳優として

 白鸚:もうあれかね、(デビュー作となった)デヴィット・ルヴォーさん演出の「チェンジリング」から20年以上経ったんだよね。もちろん、父と娘ではあるんですけど、もうこれだけ役者同士の時間が過ぎると、今や、親も娘もなくなりましたね。

 紀保:良くも悪くも、私たちは同じ世界にいるので、お互いの芝居を観に行ったりすると、自分なりの感想が出てくるんです。自分なりの分析もしちゃいますしね。そうなると、どうしても互いの考えが先に立ちますからね。家の中で芝居をやっていないのは母だけ。母は何を言ってもお客さんとしての率直な意見ですからね(笑)。母がいるから、父もだし、みんなバランスが取れているんじゃないかなと思います。えっ、家での父ですか?う~ん、どんな感じだろなぁ…。

 白鸚:粗大ごみです(笑)。ま、舞台だけでなく、家庭もしっかりとやらないといけない。大変だからといって、それを最初から投げ出すのは違うだろうなとは思って、ここまでやってはきたつもりです。そして、やってきた中で思うことは、僕は歌舞伎役者ですけど、ブロードウェイで英語の芝居もさせてもらったり、本当にいろいろなことをやってきましたけど、結局、芝居というのは言葉だと。言葉のおもしろさ、言葉の力、言葉というものが主になっていないといけない。おもしろい芝居って、観終わった後に何がおもしろかったって、言葉がおもしろかったんですよ。魅力的な俳優さん、華やかな舞台、たくさん要素はありますけど、行きつくのは言葉。ただ、昨今、それ以外のビジュアル的なおもしろさ、電気的なものを使ってのスペクタクル。そういったものに紀保がやっているような小劇場的な芝居が押されている感じもある。ただ、僕はそれに憧れて三谷幸喜さんらと組んで、演劇企画集団「シアターナインス」という試みもやったりした。親と娘ということを抜きにして、魅力的な作品を紀保がやっていたりもするので、それは純粋にうれしいですね。

 紀保:ありがとうございます(笑)

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名前ではない襲名

 白鸚:例えば、大正天皇を描いた「治天ノ君」という作品。皇室というもののバックにある日本の脈々たるものを紀保は感じさせるんです。僕も、いろいろなお芝居をやってきましたけど、そういうオーラを感じさせる女優さんって何人かしかいない。だからこそ、今回もこのようなインタビューを一緒にさせてもらい、そして、このような場をいただいてますので、あえて申しますね。これは僕の気持ちだけれども、バトンは渡したと思っています。歌舞伎の方では、私、息子、孫と同時に襲名をさせていただきましたが、僕は息子だけでなく娘たちにも伝承ができたらと思っているんです。松本紀保に言わせれば「私は私」。松たか子に言わせても「私は私」というでしょうけど、今、息子に自分の名前を渡した。名前を渡すのは歌舞伎の世界の話ですけど、僕の中では、紀保に自分の中の小劇場という部分を手渡したつもりです。これはね、今、この場で初めて申すんですが。あ、これはここに松本紀保がいないつもりで聞いてください(笑)

 紀保:なるほど、いないつもりで(笑)

 白鸚:今回彼女が手がける「Farewell」もそうだけど、観てくださった方が「この芝居を観て、自分の人生、得したなぁ」と思えるような芝居をこれからもとにかくやってほしい。僕はそれを見ながら、死にたいと思っていますから(笑)。これも、今、初めてお話をするんだけど、歌舞伎以外のミュージカルとか歌とか映像の世界は松たか子に手渡したつもりです。彼女も紀保同様、そんなこと思ってないだろうし「そんなこと私は知らない。私は私でやっている」と言うに決まってますけど、私の中では勝手にそう思っています。おそらく、このお話をするのは今日が最初で最後だと思ってます。

 紀保:たまたま横に居ちゃったので(笑)、言わせてもらうならば、そういう風に父が思っているということはうっすらと感じる部分もありましたけど、ここまでとは思ってませんでした。ただ、さらに、私がこんなことを言うのも変な話ですけど、父は歌舞伎俳優であり、ミュージカルもやり、映画もやり、ドラマもやり、音楽もやる。父と娘云々なく、一人の俳優さんとしてすごいなと思うんです。弟も妹も同じ世界ですけど、自分は小劇場から入って、通ってきた道としては小劇場を中心にやってきました。弟の本筋はもちろん歌舞伎。そこから派生する道も歩んでいる。妹はテレビでデビューして、そこから舞台も、そして音楽もやっている。そう思うと、ふと、気づくところがあって、それぞれ自分たちが好きで、自分たちがその都度選んで進んできたつもりだったんですけど、よく考えたら、それは全部父が通ってきた道だったんです。それはとても不思議に感じます。

 白鸚:これも松本紀保はいないつもりで(笑)。襲名というのは名前を、形を継ぐわけじゃないですから。襲名は魂を、心を継ぐんです。だから、いずれは僕がやっている「アマデウス」とか「ラ・マンチャの男」の演出とかもやってくれたらとは思っています。これも彼女はイヤと言うでしょうけど、そういったところも渡していければなと思っているんです。勝手ですけど、これは嘘偽りのない気持ちです。

 紀保:私がいないところで、すごい話を言われていますけど(笑)、私がどう関わるのか、それはいったんさておき、自分が出会ってきた素晴らしい人たちが「アマデウス」や「ラ・マンチャの男」に関わってほしいという思いがあるのは確かですね。この人が出たらどうなるのか。この人が松本白鸚と出会ったらどうなるのか。そんな景色を見てみたいと思う気持ちは自分の中にあります。

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俳優という仕事

 白鸚:とにかく紀保がいい仕事をしてくれたら、それが僕にとっての襲名ですから。俳優ってのは苦しみを苦しみのまま、悲しみを悲しみのままにしておくんじゃなく、苦しみを勇気に変える。悲しみを希望に変える。そのために我々はやっているです。それだけです。だからこそ、もっと、もっと良い芝居をしていってほしい。まずは次の「Farewell」をいいものにしてもらいたいなと。

 紀保:今まさにけいこ中だし、今はそこを頑張ります。

 白鸚:ま、親離れ、子離れしていないわりには、いい仕事してますよ(笑)。結局は「いい芝居を観たな」と。その一言のために我々は汗水流して、七転八倒していくわけです。人生ってのは、僕はそうだと思うんだけど、七転八倒した人に限ってさわやかな顔をしてますよね。それをどこまでやり続けていけるか。“ぶるな。らしくしろ”という言葉があって。ナニナニぶるってのは自分に自信がないから、そんなようなフリをして、ぶっちゃうんです。アスリートの人たちは、ぶってちゃできない。本当にその領域に自分がいないと、ごまかしようもないですから。我々も、ぶってるだけじゃ声も出ないし、歌も歌えない。らしく生きないといけない。それが紀保の襲名に添える思いかなと思います。

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 紀保:ありがとうございます。

 白鸚:ただ、こんな言葉、親である僕が言ったってね(笑)。本当は僕以外の紀保の周りの尊敬できる人からもらった方が染みていく言葉なんでしょうけどね。いろいろ思うがままにお話をさせてもらいましたけど、あとはどうか筆の力で、素敵な言葉を言っているような二人にしておいてやってください。

(撮影・中西正男)

■松本白鸚(まつもと・はくおう)

1942年8月19日生まれ。東京都出身。本名・藤間昭暁。早稲田大学第一文学部中退。歌舞伎俳優として存在感を示しつつ、現代劇やミュージカルでも幅広く活動。ニューヨーク・ブロードウェイで「ラ・マンチャの男」、ロンドン・ウエストエンドで「王様と私」に英語で主演を果たす。映像の世界でもNHKの大河ドラマ「山河燃ゆ」、フジテレビ「王様のレストラン」などに出演。また、97年に演劇企画集団 「シアターナインス」を立ち上げるなど、プロデューサー的な活動もしている。81年、九代目松本幸四郎を襲名。2018年、父の名跡である松本白鸚を二代目として襲名した。紫綬褒章、文化功労者など受賞・受章多数。69年、 藤間紀子と結婚。長女・松本紀保、長男・松本幸四郎、二女・松たか子に恵まれる。

■松本紀保(まつもと・きお)

1971年10月15日生まれ。東京都出身。本名・川原紀保子。女子美術大学短期大学卒業。95年、TPT公演「チェンジリング」(演出:デヴィット・ルヴォー)でデビュー。主な出演作品に「マトリョーシカ」(作・演出:三谷幸喜)、ミュージカル「ラ・マンチャの男」、「虹を渡る女」(作・演出:岩松了)など。また「アマデウス」、「ラ・マンチャの男」では、父である現松本白鸚の演出助手を務める。2013年、劇団チョコレートケーキ公演「治天ノ君」で読売演劇大賞優秀女優賞受賞。2014年には初プロデュース公演「海と日傘」を上演し、主役も務める。また、第2回プロデュース公演「Farewell」(東京・サンモールスタジオ、4月6日~15日)を上演する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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