Yahoo!ニュース

日本代表、その先へ―。ハットトリック&1アシスト。ザルツブルク南野拓実が示した『圧倒的な結果』の意義

安藤隆人サッカージャーナリスト、作家
ザルツブルクで圧倒的な存在感を放っている日本代表FW南野拓実(写真:ロイター/アフロ)

◎オーストリアから飛び込んで来たニュース

『レッドブル・ザルツブルクの南野拓実、ハットトリック&1アシストの活躍』

オーストリアからこのニュースが飛び込んで来た。

「圧倒的な結果を残して、日本の皆さんに自分のニュースが届くようにしたい。そうすれば日本代表や、よりステップアップに繋がって行くと思う」。

2月上旬、リーグ再開前に彼はこう決意を語っていた。この言葉の裏には彼の2017年に懸ける想いと、自らの現状が反映されていた。

自身が所属するオーストリアブンデスリーガは、スペインのリーガエスパニョーラ、イングランドのプレミアリーグ、ドイツのブンデスリーガ、イタリアのセリエAといったヨーロッパ4大リーグと比べるとマイナーで、フランスのリーグアン、オランダのエールディビジやポルトガル・プリメイラリーグなどと比べても、日本ではさらにマイナーな部類に入る。

だからこそ、彼は自分が日本に自らの情報を届けるために、何より目標である日本代表に定着し、さらにレベルの高いリーグへステップアップをするために―。

ただの結果ではなく、『圧倒的な結果』が必要だと強調をしていたのだ。

◎宣言通りの『圧倒的な結果』

そして、冒頭で述べたように、中断開け2戦目となる2月19日の第22節・SVリート戦で『圧倒的な結果』を残した。

この試合、右サイドハーフとして先発出場をした南野は、1−1で迎えた23分に左サイドのDFアンドレアス・ウルマーにボールが展開されると、右サイドを猛スピードで駆け上がった。右手を目一杯伸ばしてボールを要求すると、足下に届いたクロスを鮮やかなワントラップから右足ハーフボレーで突き刺し、2017年公式戦初ゴールをマーク。

これで勢いに乗った南野は、直後の24分に左サイドでボールをキープしたMFヴァロン・ベリシャの動きに合わせて、ペナルティーエリア内でポジションを取り続けると、ベリシャの突破からの折り返しを、左足ダイレクトでゴールに押し込んだ。

そして58分にはFWジョナタン・ソリアーノの左からの折り返しを冷静に蹴り込んで、試合を決定付ける4点目を挙げ、ハットトリックを達成すると、71分には5点目のアシスト。

この活躍で南野は今季リーグ9得点と、リーグ得点ランキング2位タイに浮上し、チーム内では単独のトップスコアラーになった。チームも首位をキープと、3連覇に向けてさらなる加速体勢に入った。

◎FW南野拓実の凄さはすでに実証済み。右サイドハーフでの結果であることこそが大きな意義。

この『圧倒的な結果』は、日本への絶好のアナウンスになっただけでなく、彼にとってより多くの重要な意義を持つものであった。

その意義は、この結果が右サイドハーフで叩き出したものということにある。

ザルツブルクにおいて南野は、FWと右サイドハーフで起用されているが、今季、チームを率いるオスカル・ガルシア監督は、彼のポジションのプライオリティーを右サイドハーフに置いている。

だが、南野自身は「右サイドハーフは問題なく出来ますが、自分の良さはゴールに直結するプレー。ゴールから遠ざかるほど、僕の良さは出ないと思う」と語ったように、FWでのプレーを望んでいた。

現に彼は昨年11月にガルシア監督に直談判し、途中出場ながらFWでのプレー機会を得ると、中断前の12月17日のホーム・ウォルフスベルク戦でFWとして先発出場。開始6分で先制弾を挙げると、2分後の8分に2点目を挙げ、85分までプレーし、勝利に貢献をした。

さらに再開直前のノルウェーの強豪・ローゼンボリとの親善試合では、右サイドハーフとしてスタメン出場し、途中からFWにポジションを移すと、チームの2点目をマーク。『FW南野拓実』を大きくアピールをした。

◎指揮官の期待は右サイドハーフでの爆発

しかし、再開1戦目のザンクト・ペルテン戦はベンチスタートで、69分から右サイドハーフとして途中出場だった。そして、今回のリート戦はスタメン出場を果たすも、やはり右サイドハーフ。

この起用で分かるように、ガルシア監督はFWでの能力は十分に理解しているが、あくまで右サイドハーフとしての彼の躍動に大きな期待を掛けていた。だからこそ、このポジションできっちりと結果を出すことこそ、彼がチームの中で絶対的な存在になり、圧倒的な結果を出し続けるために、必要不可欠なことであった。

「求められる守備をきちっとした上で、自分の持ち味であるゴール前のアイデア、勝負強さを発揮する。やっぱりどのポジションでも自分が変えていないのはペナルティーエリア付近でボールをもらったときにゴールに向かうプレーとか、ゴールに直結プレー。自分の特徴でもあるアジリティーを90分間、どれだけラストの時間でも質の高さを維持出来るか。そこが勝負だと思います」。

これはローゼンボリ戦後の彼のコメントだ。この言葉の中には、『右サイドでも目に見える結果を出さなければいけない』という彼の想いがにじみ出ていた。

FWとしてのプライドを持ちつつも、与えられたポジションで、監督の要求に応えながら、きっちりと自我を出す。これを実現することこそが、自分が2017年の進化するためのベースであることを理解していた。

「ブレイクする手応えは自分でも感じているし、それを自分が出来ることを信じています」。

右サイドハーフで叩き出した『圧倒的な結果』。

南野拓実がオーストリアの地でフルアクセルで切った、ステップアップに向けての本格的なリスタートのエンジン音は、必ずやハリルホジッチ日本代表の耳に届いたはずだ。

彼が日本代表の前線とサイドをフル馬力で駆け上がる姿を見慣れる日も近い―。

サッカージャーナリスト、作家

岐阜県出身。大学卒業後5年半務めた銀行を辞めて上京しフリーサッカージャーナリストに。ユース年代を中心に日本全国、世界40カ国を取材。2013年5月〜1年間週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』連載。Number Webで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。全国で月1回ペースで講演会を行う。著作(共同制作含む)15作。白血病から復活したJリーガー早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯27試合取材と日本代表選手の若き日の思い出をまとめたノンフィクッション『ドーハの歓喜』が代表作。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼務。

安藤隆人の最近の記事