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中山功太が語る今と、憧れの存在への思い

中西正男芸能記者
今の思い、そして、憧れの存在への思いを語る中山功太さん

 「R-1ぐらんぷり2009」で優勝し、2010年から拠点を地元の関西から東京に移した中山功太さん(41)。今年に入りTBSテレビ「爆笑!ターンテーブル」などで歌ネタ「芸人やめてぇな」が注目されてもいますが、10月12日にはイベント「中山功太の淀み大喜利~芸人やめてぇな~」(東京・ルミネtheよしもと)も開催します。ピン芸人としての栄冠を勝ち取り、東京での日々で感じた思い。そして、目指し続ける憧れの存在への思いを語りました。

「芸人やめてぇな」

 久しぶりに全国ネットのゴールデンタイムでネタをやらせていただくということで、まずはTBS「爆笑!ターンテーブル」のスタッフさんには感謝しかないです。

 さらに、このネタを選んでくださったこと。内容も決して優しいものではないネタに「どうぞ」と場を与えてくださったこと。本当に、どこまでもありがたいことだなと思っています。

 このネタには自分なりにルールを決めていて、特定の個人とか団体、企業さんを悪く言うということはしていないので、攻撃性が高いように見えるかもしれないんですけど、実は“怒ったもの負け”という形になってもいるんです(笑)。

 ユーチューバーだったら「キャンプの火起こし見せるだけ」とか、ゲーマーだったら「ゲームでゾンビにビビるだけ」とか、特定の“人”を示しているわけでなく僕がイメージする“領域”を示しているだけなんです。

 なので、怒った人は思い当たる節があるということで、怒った人がその時点で自動的に負けになるというシステムにもなってるんです(笑)。それにしても、よくこのネタを選んでくださったと思います。感謝です。

「R-1」優勝からの日々

 09年の2月に「R-1ぐらんぷり」で優勝して、大阪から東京に拠点を移したのが10年の4月でした。

 大阪で帯番組の司会をさせてもらっていたというのもありましたし、すぐに東京に出ることができず、周りの人からは「タイミングが遅かった」みたいなことを言ってもらったりもしました。本当だったら優勝の流れで出ていたであろう番組も100本以上あったと思います。

 実際、東京に来た時には何も仕事も決まってませんでしたし、ネタで優勝したので劇場出番は少しいただいたりはしていたものの、収入もほとんどなかった。なので、9カ月ほどで家賃も払えなくなりましたし、アルバイト生活に逆戻りするのもすごく早かったんです。

 ただ、その帯番組にもすごくお世話になっていましたし、タイミングがどうこうよりも、僕が思っていることはハッキリしていて、単純に実力不足やったと思っています。

 結局、当時の自分がやってきたのは「baseよしもと」だとか若手の舞台でのことのみ。その手法しかなかった。その頃はピン芸人でMCをやるような人間があまりいなかったというラッキーもあって、いろいろな場での経験や知識を活用するということではなく、実は自分の手法だけでやってたんですね。

 あと、根本のところですけど、人の気持ちを考えるということが足りてなかったと思います。

 番組でも、なぜスタッフさんがこういうVTRにしたのか。こういう台本にしたのか。そこにはスタッフさんが考える意味があったはずなんですけど、僕は自分が面白いと思うものを優先していた。そこに悪気があったわけではないものの、今考えると、すごく申し訳なかったと感じています。

 今そう思うということは、自分の中にも主には東京に来てからの10年ほどで、ある種の変化があったと思うんです。

 言葉にするのが難しい部分でもありますけど、我々の身近なところだと「千鳥」さんは本当に“キレイに”売れた。そう見られてると思うんですけど「千鳥」さんですら何回もマイナーチェンジを繰り返してきたと思うんですよね。

 テレビに出たての頃は「怖い」という意見もあったと思うんです。大阪でやってらっしゃる時、大悟さんはヒゲを生やして、前歯がないまま情報番組をやってらっしゃいましたからね。

 ま、歯は入れるべきやったと思うんですけど(笑)、でも、そういうところから根本は変わってないけど「ちょっとだけ変えた」。これを実は繰り返してこられて今があると思うんです。そういう部分の必要性は、感じた部分だと思います。

 実際、今は歌ネタで番組に出してもらったりもしてますけど、元来、僕はカラオケでも、人に歌を聞かせるのがすごく恥ずかしい人間なんです。基本的に音痴ですし、ましてや後輩の前で歌うとかは本当にイヤで。

 音痴であったとしても、歌い終わったら気を使って何か誉めてくれたりするじゃないですか。それがもう、イヤで、イヤで。この後、それを言われるのかということを考えるだけで恥ずかしくてへたり込むというか。

 でも、それをいろいろな形で変えていく。根本は変わらないけど、少しずつ変化させる。今の歌ネタも、そういうものの一つなのだと思います。

憧れの存在

 そういう変化もしながら、もう20年以上この仕事をやってきました。改めて考えると、いろいろな方々に支えてもらった時間だったなと思います。

 まずプロとして芸人を始める前、養成所の頃からライブに呼んでくださったのが「バッファロー吾郎」さんでした。

 当時からハッキリと他とは違うコントをやろうと思っていて、実際、そういうネタばっかりやっていました。なので、オーディションではなかなか結果が出ない。そんな中でも、お二人はライブに呼んでくださる。

 その状況が「間違ってはないんだ」ということを教えてくれるというか、確認させてもらったというか。先も見えない、結果も出ない中で早々と認めてくださったのは本当に大きかったです。

 あと、芸人としてキャリアを積んでいく中で、今もですけど、親身になってくださっているのが「メッセンジャー」のあいはらさんです。

 「メッセンジャー」さんはお二人ともすごく尊敬してるんですけど、自分が「もうさすがに本当にアカン」という時にあいはらさんがイベントに呼んでくださったり、あらゆる形でそんな時に手を差し伸べてくださるんです。

 あいはらさんご自身がシニカルな視点というか、人の弱点をきっちり見抜いて笑いにするというところがある方で、先輩に対して失礼な物言いですけど、そこも本当に好きで。僕がいないところででも「あいつは面白いから」と言ってくださったり。あらゆる形で「もうアカン」の時を支えてくださった方です。

 あと、こちらが勝手に憧れているというか、ご本人も尊敬していることはお伝えしたこともあるんですけど、ずっと憧れているのが月亭八方師匠なんです。

 ピン芸人というか、ま、噺家さんをそこに巻き込むのはどうかと思うんですけど、ここから先を考えた時に、これは本当におこがましいんですけど、憧れというかずっと尊敬しているのが月亭八方師匠なんです。

 ピン芸人というか、噺家さんをその領域に巻き込むのはどうかとも思うんですけど、要は人ひとりが舞台に出るタイプの芸人で言うと、僕の目指すところは八方師匠であり、八方師匠の存在感なんです。

 何回か「なんで、自分が息子じゃなかったんだろう」とクレイジーなことを思ったこともあるくらいで。逆に月亭八光さんを見ていて、八光さんがキラキラされている時に胸が痛くなるくらいの思いにもなりました。

 男前というのもあるんでしょうけど、本当に特殊な存在やと思うんです。顔も笑ってるのか怒ってるのかも分からないし(笑)。

 今から10年以上前なんですけど、忘れられない瞬間というか、心が震えたことがありまして。朝の番組で共演者の方から「阪神タイガース、負けてますね」と阪神ファンの八方師匠に言葉が投げかけられたんです。

 そこで八方師匠はたっぷりと間を空けて、モニターに出ている勝敗表をゆっくり眺めて「…これ、阪神が、負けとるねぇ…」って言ったんです。全員、爆笑です。そして、はにかむんです。その瞬間、すさまじい色気が出るんです。

 これは、ビートたけしさんもそうだと思うんですけど、はにかんで色気が出るというのはやっぱり“裏付け”がそこに出るんですよね。やってきたものが出る。

 それは芸であり、遊びであり、モテてきたことであり、その人が生きてきたことがそこからあふれると思うんです。これって、すごいことだなと。

 自分があの年齢になった時に、実は若い頃にちゃんといろいろなネタも作っていた人となってテレビのあそこに座っていたい。そして、ニコニコでもない、怒ってるでもない顔で出ておきたいなというのがすごくあるんです。

 そのためには、今のうちにもっとやっておかないといけないことがあるとは思うんですけど、周りを見ても、例えば同期で言うと「とろサーモン」の久保田とか「南海キャンディーズ」の山ちゃん、そして「ダイアン」とかはホンマに天才ということが当てはまるような人たちで本当に面白い。

 一方で、信じられへんくらい面白くない人もいて、僕らくらいのキャリアになったら、結局20年面白くなかったことになるわけです。

 それでも頑張ってテクニックを磨くから、しゃべりだけは変にうまくなって、余計おもんなさが浮き彫りになっていく(笑)。研ぎ澄まされていくんですよ。裸のおもんなさなんですよ。

 僕が思うに、これは事実として最初に面白かった人って、そんなに面白くなくなることはない。逆に、面白くない人はなかなか面白くはならない。

 売れてて面白い人が一番偉いと思いますけど、40歳、50歳になったからといって根本の考え方や、トークだったら差し込み方が変わるわけではない。結果が出てなかったら、それは努力を怠っているだけじゃないかなと思うんですね。結局、またこんなこと言うてますけど(笑)。そして、同時に僕自身についても、売れてないことに関しては何の言い訳もできません。

 あと、八方師匠を目指すためには、恐らくですけど、自分にはモテが足りないと思います。若い頃は僕も遊びましたけど、それもすっかり枯れきったので、ここからもう一回頑張ってモテないといけないなと。

 …ま、どこまでも僕が考えてる勝手な予想なんですけど(笑)、なんとか、これからも思う方向に向かって進んでいこうと思います。

(撮影・中西正男)

中山功太(なかやま・こうた)

1980年6月24日生まれ。大阪府出身。吉本興業所属。大阪NSC22期生。「R-1ぐらんぷり2009」優勝、「歌ネタ王決定戦2015」優勝など受賞多数。10年から活動の拠点を大阪から東京に移す。歌ネタ「芸人やめてぇな」がTBSテレビ「爆笑!ターンテーブル」などで注目されている。YouTubeチャンネル「中山功太のYouTube」も展開中。10月12日には東京・ルミネtheよしもとでイベント「中山功太の淀み大喜利~芸人やめてぇな~」を開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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