NASA アルテミス計画の月着陸候補地点を発表。「シャクルトン・クレーター」など月南極域に13カ所
日本時間2022年8月20日、NASAは2025年以降に計画している有人月探査計画「Artemis III(アルテミス3)」ミッションで宇宙飛行士が着陸する13カ所の候補地点を発表した。すべて月の南極域にあり、「永久影」と呼ばれる恒久的に日光が当たらないクレーターの探査に適した場所が選ばれた。
1972年のアポロ計画終了から50年以上を経て、NASAは月有人探査「アルテミス」計画で再び宇宙飛行士の月面着陸を計画している。アルテミス3ミッションでは、水の発見など科学目標と将来の月の長期滞在に向けた資源探査の両面から着陸候補地点の検討が行われていた。
アルテミス3の着陸候補地点
ファウスティーニ・リム A ※1
シャクルトン・クレーター付近の高地
コネクティング・リッジ ※2
コネクティング・リッジ・エクステンション
ド・ゲルラッシュ・リム 1
ド・ゲルラッシュ・リム 2
ド・ゲルラッシュ-コーシャー・マシフ※3
ヘイワース・クレーター
マラパート・マシフ
ライプニッツ・ベータ・プラトー ※4
ノービレ・リム 1
ノービレ・リム 2
アムンゼン・リム
※1 リム:クレーターの周壁
※2 リッジ:尾根
※3 マシフ:山塊
※4 プラトー:高原
13の候補地点はすべて月南極の緯度6度以内に集中している。各領域は15×15キロメートルあり、その半径100メートル以内に着陸する計画だ。アルテミス3の月着陸船はヒューマン・ランディング・システム(HLS)と呼ばれ、スペースXが開発中の有人宇宙船「スターシップ」が選定されている。着陸地点の選定には、スターシップの能力も考慮されたという。
アルテミス3は6.5日間月面に滞在する目標で、エネルギー源として太陽光を利用するため、ミッション期間中に継続して太陽光の当たる場所が含まれていることも条件となった。
科学目標と将来の月面長期滞在に向けて重要な目標は水の存在だ。2008年にインド宇宙研究機関(ISRO)が打ち上げられた月探査機チャンドラヤーン1は、1年を通して太陽光が届かない月極域のクレーターの内側の永久影に氷の状態の水が存在することを発見した。北極域では永久影を持つクレーターは広域に点在しているため発見、利用が難しい可能性がある。そのため、水を目標とした探査では南極域が候補と考えられていた。
NASAは2024年以降に無人の月面探査ローバー「VIPER(バイパー)」を打ち上げて極域の水探査を行う予定だ。ただしアルテミス3の着陸地点候補の絞り込みはSLSロケットとオライオン宇宙船の打ち上げ日時と軌道から決められる予定で、バイパーの探査データは利用しないという。
今月末の8月29日には、アルテミス計画最初のミッションである「アルテミスI」でSLS/オライオンの初打ち上げが行われる予定で、月面有人探査の再開に向けて米国は大きく動き出している。しかし月面探査に必須の新型宇宙服の開発には、ブーツの環境条件を明確化するために着陸地点の決定が必要だ。さらに宇宙服開発は国際宇宙ステーション(ISS)での試験を必要とする。ISSの運用は米国が2030年までの延長を決めたものの、ロシアが2028年ごろの独自宇宙ステーション構築と計画離脱を示唆するなど、国際協力の枠組みが揺らいでいる。SLSの巨額の費用と持続性という課題もあり、アルテミス3の打ち上げ日時を早期に決定できるか、という点に着陸地点の決定だけでなく計画の実現性がかかっている。