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中国人密航者39人が冷凍コンテナで凍死 英工業団地で発見 過去5年で中国人「現代の奴隷」430%増

木村正人在英国際ジャーナリスト
中国人密航者39人が遺体で見つかったトレーラーの冷凍コンテナ(写真:ロイター/アフロ)

コンテナはベルギーから到着

[ロンドン発]英イングランド南東部エセックス州の工業団地で23日未明、トレーラーの冷凍コンテナから中国人密航者39人の遺体が見つかりました。エセックス警察は北アイルランドの運転手(25)を殺人容疑で逮捕するとともに遺体の身元確認を急いでいます。

エセックス警察の発表によると、31人が男性で、8人が女性でうち1人は10代とみられるそうです。

運転手のトレーラーはアイルランドの首都ダブリンを出発して20日に英ウェールズ北部のホーリーヘッド港経由で英国に入国。

一方、コンテナはベルギー・ゼーブルッヘ港で輸送船に積み込まれ、英テムズ川河口近くのパーフリート港に到着。運転手は23日午前零時半にコンテナをピックアップして午前1時5分にパーフリート港を出発。

グーグルマイマップで筆者作成
グーグルマイマップで筆者作成

運転手が近くの工業団地でトレーラーを止めてコンテナの中を確認したところ39人が死んでいたため、あわてて緊急通報したそうです。

ゼーブルッヘ港とパーフリート港の保安員は密航者がコンテナの中に隠れていないか熱を検知するサーマルカメラでチェックしています。このチェックを避けるため冷凍コンテナに長時間、隠れていた密航者が凍死した可能性があるとみて警察は調べています。

ゼーブルッヘ市長は「39人はゼーブルッヘに到着する前にすでに死亡していた」として、死後少なくとも12時間が経過していたという見方を示しています。

英国の「現代の奴隷」は8年間で6倍に

世界128の国と地域で活動するプロテスタント系慈善団体・英救世軍の最新報告書「『現代の奴隷』被害者の支援」によると、英国で救世軍に助けを求めてきた「現代の奴隷」被害者は2011年度(7月から翌年6月まで)の378人から昨年度は99カ国の2251人と約6倍に激増しています。

昨年度の搾取形態は性的搾取が881人、労働搾取が1072人、家事労働が274人。国別では欧州連合(EU)非加盟のアルバニア人が最も多く535人(うち女性が468人)、次がベトナム人の209人(同55人)。3位は中国人の148人(同79人)。中国人が3位になったのはこれが初めてだそうです。

中国人に対する搾取形態は性的搾取が63人、労働搾取が82人、家事労働1人です。中国人やベトナム人計114人が姿をくらますか、行方不明者とみなされています。

過去5年間で助けを求めて来た中国人の「現代の奴隷」は430%も増加したそうです。英救世軍のキャシー・ベッテリッジ反人身売買・現代の奴隷責任者はこう話しています。

「非常に悲しい事件だが、不幸にもエセックスの悲劇は驚くに値しない。自分の利益のために人々を売買し、運び、売買する犯罪者の手によって命が奪われるというショッキングなことを思い出させる。 『現代の奴隷』における搾取は恐ろしい犯罪だ」

00年には中国人密航者58人が窒息死

英大衆紙デーリー・メールによると、中国からの密航者はアジアとブルガリアなど欧州大陸を経てオランダやベルギーでコンテナに詰め込まれて船で運ばれ、英国に密入国。その後はネイルバーや買春宿、マッサージ店、レストランで「現代の奴隷」として働かされています。

英国では2000年7月に中国福建省からやって来た58人の中国人密航者の遺体が今回の事件と同じゼーブルッヘ港からドーバー港に着いたトレーラーのコンテナから見つかり、2人が生き残りました。

音が漏れるのを恐れてオランダ人運転手が通気孔を閉め、58人を窒息死させたとして有罪判決を受け、14年間服役しました。

密航者は1人につき2万ポンドを払って正規のパスポートで中国・北京からセルビアの首都ベオグラードに到着。そこで偽造パスポートを受け取り車でハンガリーに移動し、オーストリア、フランス、オランダのロッテルダムを経由していました。運転手は1人当たり300ポンドを受け取っていたとみられています。

04年2月には同じく福建省からやって来た21人の中国人労働者が貝をとった後に上げ潮にのみ込まれ、溺死する事件が起きました。中国出身の男が殺人で有罪判決を受け、この男とガールフレンド、親類の3人が入国管理・移民法違反で有罪となりました。

17年には45歳の中国系ブルドッグブリーダーが中国とマレーシアからのセックスワーカー18人をガトウィック空港など周辺の格安ホテルに滞在させていました。この男は1時間当たり最大100ポンドでセックスワーカーを募集していました。

15 年に英国で制定された「現代の奴隷」法は(1)奴隷・隷属・強制労働(2)人身売買(3)性的搾取、臓器提供の強制などの搾取を「現代の奴隷」と定め、搾取者を取り締まれるようにしました。英内務省の調べでは13 年時点で被害者は1万~1万3000人にのぼっていました。

欧州では中国福建省を拠点とする密航を斡旋する犯罪組織「蛇頭(じゃとう)」のネットワークが張り巡らされ、活動が活発化していることが「現代の奴隷」激増の背景にあるようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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