浅草伝法院通りで占拠する店舗~本来、どの程度の固定資産税都市計画税が必要?(前編)
1月17日、台東区浅草の伝法院通りの「区道」上で営業する店舗に対して、区道を管理する台東区は明け渡し請求(東京地方裁判所に提起)をしました〔1月18日付読売新聞オンライン・東京新聞Webによる〕。
記事によると、ここで営業する店舗は道路占用許可は得ておらず、占用料を払わないまま営業がなされており、2014年以降、再三の店舗の撤去を通告するも応じられず、ついに今回の運びになったとのことです。これに対して店舗側は、昭和52年の伝法院通りの改修時に「当時の区長に改修後に使えるようにする」と言われたことをタテに、明け渡しには応じないとのことです。
ここで「本来、自分の土地であったら土地に対する固定資産税都市計画税の負担」が生じているはずですが、占用料を払っていないということは、これらの税金も払っていないことを意味します。
ここでは、「仮に自分の土地だとしたら、固定資産税都市計画税はどの程度」なのかを考察し、この考察から生じる様々な問題点を検討したいと思います。
■まずは伝法院通りに行ってみた
ある特定の不動産の問題を考察するには、現地調査が不可欠です。東京都世田谷区在住の筆者ですが、地理勘やスタミナがあるのと現地で小回りが利くメリットがあるので、23区の「隅田川より西」へは原則として自転車で現地調査に行きます。
ということで、1月21日、1時間半ほどかかりましたが自転車で浅草(ギリギリ隅田川より西)を訪れました。
折あしくオミクロン株が猛威を振るっている時期の平日で閑散としていましたが、浅草各地の店舗は通常通り営業していました。ただし、件の占用の店舗については、相当数がシャッターが降りている状態でした。
■本来負担すべき土地の固定資産税都市計画税の額はどの程度?
32の店舗がありますが、もとより区道上にありますので、「各店舗が占用している部分の面積」は法務局の登記簿や公図でも明確にはならない状況でした。
このため、各店舗の占用面積を現地の状況や住宅地図に基づき概測することとし、店舗により多少の規模の違いはあるものの、ここでは便宜的に3m×2m=6平米(※1)と仮定しました。
次に調べるのは東京都主税局が公表している固定資産税路線価です。令和3年の場合、場所により、1,060,000・1,120,000・1,130,000円/平米の部分にまたがっていますので、便宜的にここでは1,120,000円/平米で計算します。
その結果、下記の計算で固定資産税都市計画税の税額が計算されます。
1,120,000円/平米×6平米×70%〔調整率(※2)〕×(1.4%〔固定資産税税率〕+0.3%〔東京23区での都市計画税税率〕)≒79,000円/年
少なくとも令和3年において、各店舗は79,000円/年程度、「仮に所有者であったら負担すべき固定資産税都市計画税」を占用という形で免れていることとなります。
また、この土地はあくまでも「店舗がある部分」の面積です。仮に店舗が建物と言える場合、建蔽率(※3)の要件を満たす一定以上の規模の敷地が必要であるため、土地の面積ももう少し広く見る余地かあるとも考えられます。
■店舗側が今まで免れていた税負担をどう考えるか
東京新聞の記事によると、区は「過去に遡って占用料相当額の支払いを求める」考えとのことです。占用料相当額の定義は明確ではないですが、店舗側にきびしい言い方をすると、昭和52年から45年以上分、少なくとも土地の固定資産税都市計画税の税負担を逃れていた形となります。
ただし、地価も時代の変遷と共に地価は変動しており、昭和52年からの平均値は令和3年時点の価格水準よりはやや安い場合も考えられます。
ですので、79,000円/年×45年→3,555,000円よりは「固定資産税都市計画税の累積分」は安いとは考えられます。
ただし、あくまでも区の求めるものは占用料ですので、「固定資産税都市計画税の税額の他に、+α」がある余地は考えられます。
つまり、占用料(地代)とは、不動産鑑定評価基準によると、「固定資産税都市計画税といった公租公課に、賃貸に要するその他の管理料と、土地所有者の適正な利潤」と位置付けられるため、その他管理料と利潤相当額が+αとなるのです。
ですので、「固定資産税都市計画税だけで考えたら45年間の累積額は3,555,000円より安いが、それ以外に45年間分のその他管理料と利潤相当額を+αとして加算した額」が45年分の占用料として区が請求する可能性があるということとなります。
以上を踏まえ、後編で現地調査をした結果としての見解を述べたいと思います。
(※1)…あくまでも概測であり、仮に正確な資料が得られた場合、この面積は相違する場合がある点、ご留意ください。
(※2)…調整率は場所により異なりますが、商業地の場合、通常は上限でも70%であり、中には60%台以下の場合も実情としては多いと考えられます。但し、この記事では詳細不明につき、70%で計算しました。
(※3)…建蔽率は「その敷地上に建物を建築してよい面積の割合」。例えば6平米の建物で建蔽率80%ならば6平米÷80%→7.5平米の敷地が必要となります。
なお、件の店舗の立地では、耐火建築物の場合は100%まで許容されますが、外観による限り、耐火建築物の要件を充足していそうには見えないと判断されます。