「覚えていない」「言っていない」「事実ではない」 米兵は被告人質問で全面否定 那覇地裁
那覇地裁で被告人質問が行われた8月30日、空軍兵長ブレノン・ワシントン被告(25)の短髪は黒っぽいブラウンに見えた。筆者の記憶が確かなら、7月の初公判や先週の第2回公判ではもっと明るい金髪だったはずだ。
髪色の変化にどのような理由があったのかはわからない。この日もワシントン被告は無罪を主張し、時折苛立ちを見せた。質問を遮って自論を述べようとする場面もあり、反省や謝罪を示す態度は一切なかった。
「私は人をリスペクトしている。Aさんの判断を尊重した」
初公判で弁護人から主張された「(Aさんを)18歳だと伝えられたのでそう信じた」「性的行為には同意があった」「性的な行為の一部を否認(“性交等”にあたる行為はしていない)」はこの日も繰り返された。
ワシントン被告は質問に対し、「自分に近い年齢だと思った」「彼女が18歳と答えた。疑う理由がなかった」「性的行為にはその都度、ジェスチャーや翻訳アプリで同意を取った」などと主張。これらは「実年齢を英語、日本語、ジェスチャーで伝えた」「性的行為には一貫して同意はなく、やめて、STOPと伝えたこともあった」とするAさんの証言とは食い違う。
ワシントン被告の主張では、行為の途中で「(自分の)性器や、性器の映った写真が見たいか」と聞いた際にAさんが「No, It’s OK」と答え拒否されたことから気まずい雰囲気となり、そこで行為をやめたというが、この点もAさんの証言とは異なっている。
また「I respect people 、her decision」と繰り返し、事件当時にAさんの判断を尊重したと強調した。弁護人から最後に起訴されてから起きたことを聞かれると「(現在の状況は)とても悪い。家、車、電話、時計……すべてを失い、2カ月間自由を失い、今も嘉手納基地内で行動規制がある。私はレイプ犯、誘拐犯として見られている」と嘆いた。
※ワシントン被告の回答はすべて英語で、訳は法廷通訳によるもの。
事件当日「ストロング酎ハイ」を飲んでいた
しかし検察官の質問からまず明らかになったのは遵法精神に欠けたワシントン被告の行動だった。
検察官「当日あなたは(Aさんに声をかけた)公園へ行く前にお酒を飲んでいましたね」
被告人「Yes」
検察官「ストロング酎ハイ3本と調書にあるが、それぐらい飲んでいたのですか」
被告人「Yes」
飲酒してから公園へ行くまでにどれほど時間が経っていたかのかはやり取りからはっきりわからなかったが、ワシントン被告は車を運転して公園へ向かったり、その後Aさんを車で自宅まで連れて行ったりしており、飲酒運転にあたる可能性がある。
弁護士を遮り「先ほどの質問に戻りたい」
今回印象的だったのは証言台で苛立ちを見せるワシントン被告の様子だ。
弁護人からの質問の途中、被告は質問を遮って「もっと詳しく説明すべきことがあったので先ほどの質問に戻りたい」と主張する場面があった。いくつかの確認の後、検察官が「事実を述べる場であってAさんの証言を弾劾する場ではない」と異議を述べた。
しかし、このあと被告が発言したのは「Aさんの証言の弾劾(なぜAさんの証言が嘘だと思うのかの被告による意見)」にあたる内容だった。結果的には弁護人が「最終弁論で弁護人の意見として述べるので、今はいい」となだめ、この間の質問と回答は記録から削除されることになった。
また、直前の自分の発言を否定するような場面も見られた。
弁護人からの質問に答えて、被告が性的行為について具体的な詳細を述べる場面があった。Aさんの体を触った際について「指4本で触った」という趣旨の回答をしたのだ。
休憩を挟んでからの検察官の質問で、「指4本」だったのかを確認され、この際も「Yes」と答えた。しかしこの後、別の質問に移ってから再度「本当に4本でしたか」と問われると「何本の指かは覚えていない」「自分の手ではあるが(指)何本かはわからない」と繰り返した。
検察官が呆れたように「弁護士の質問に4本と言ったのを覚えていないのか」と問うと、「右手を使ったと言ったが何本の指とは言っていない」と言い返した。
筆者のメモによれば、弁護人からの質問の際に被告は手を使って説明しようとし、記録のために弁護人がその仕草を言葉で説明して確認したところ、「右手の4本の指で触った」と認める趣旨の回答をしている。
細かい部分であり、記憶が多少混同するのは仕方ない面もあるが、法廷での直前の自分の発言を強く否定するのは、印象としては良くない。また、この質問についてこだわって否定する理由が傍聴席からはわからなかった。
取調べの時点では否認していなかった?
検察官からの質問では、警察や検察の取り調べの際には、公園の時点でわいせつの意図があったと供述していたり、Aさんに謝罪の言葉を口にしていたりしたことも明らかになった。
検察官は、当初の取り調べで被告が通訳に不満を持っていたが、交代してからの通訳には不満を持っていなかったと確認した上で以下のように質問した。
検察官「(交代してからの通訳が担当した取り調べで)『女性を自宅に誘ってわいせつなことをしたかった』と言った記憶はありますか?」
被告人「質問に対して返したのは覚えている」
検察官「もう少し記憶喚起します。『酒を飲んでいたこともありムラムラしてわいせつなことをしたいと思った』、そういう話をした記憶は?」
被告人「それは事実ではない」
検察官「その話をした記憶は?」
被告人「その場面を警察に話した覚えはあるが、その説明のやり方は正しくない」
検察官「(交代した通訳が出した)調書を確認した記憶は?」
被告人「その状況は覚えているが、もしかしたら警察が理解できなかったのかもしれない。公園の時点でわいせつな意図はなかった」
(中略)
検察官「(取り調べで)一番苦しんでいるのは被害者とか、被害者に申し訳ないとか、被害者を慮る発言をしていたのは覚えている?」
被告人「覚えていない」
このほかにも「(取り調べ時は)たくさんの質問をされたので覚えていない」「多くのことを覚えているが、(検察官の)質問で問われている内容は覚えていない」と答える場面があった。
両者の証言を聞き、裁判官はどのように判断するのか。次回期日は10月に予定されている。