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少女に対して「抵抗したのか」を聞く質問も繰り返された 那覇地裁、米兵裁判

小川たまかライター
8月23日那覇地裁(筆者撮影)

ビデオリンクではなく遮蔽措置

 どうして今回はビデオリンク方式ではなく遮蔽措置なのだろう。傍聴抽選の列に並ぶ前、知り合いの記者さんと少しそんな話をした。

 8月23日、那覇地裁で、16歳未満の少女に対するわいせつ誘拐と不同意性交の罪で起訴された米空軍兵長ブレノン・ワシントン被告(25)の第2回公判が行われた。

 初公判でワシントン被告は「18歳だと思っていた」「同意があった」など起訴内容を否認し無罪を主張。否認事件の場合、被害者は法廷での証言を求められる場合が多く、今回は被害者のAさんとその母に対する証人尋問が行われる予定となっていた。

 被害者本人への尋問が必要ではあるとはいえ、性犯罪事件ではビデオリンク方式が採用されることが多い印象がある。特に未成年の場合は。ビデオリンク方式は別室にいる被害者と法廷を映像でつないで尋問を行う方法だ。

 遮蔽措置の場合、被害者を囲むように衝立てが立てられ、傍聴席や被告人から被害者は見えないが、加害者のいる空間で質問に答えなければいけない負担がある。公判においてどちらを採用するか決めるのは裁判長だが、今回、検察と弁護人それぞれからどのような希望があり、それがどのように判断されたのかが気になった。

 このような点が気になるのは、一つにはこれが政府や沖縄県警が米兵の逮捕や起訴を沖縄県に伝えていなかった事件だからだ。発覚した6月25日以降の報道により注目が集まったことでの影響はなかっただろうか。

 また、性犯罪事件の被害者への尋問は、それ自体が被害者にとって大きな負担である。なぜ未成年の被害者に今回ビデオリンク方式が認められなかったのか、気になった。

尋問は予定時間を大幅に延長

 少女(Aさん)に対する尋問は休憩を挟んで10時〜12時、13時30分〜14時50分、15時40分〜17時30分まで、約5時間半にわたって行われた。予定では17時までにAさんの母親への尋問まですべて終わる予定だったが異例の延長となり、母親の尋問が終わったのは18時40分頃だった。

 弁護側席に座るワシントン被告にやり取りがわかるよう、すべての発言に通訳が入るため時間がかかったこともあるが、これほど長時間、被害者が証言台に座らなければならないことも稀だ。被害者代理人弁護士の姿は法廷に見えなかったが、傍聴席の最前列には特別傍聴席が設けられ、Aさんのサポートを行っているのであろう女性3人が座っていた。その点にはホッとした。

英語・日本語・ジェスチャーで年齢を伝えた

 2023年12月24日に起こった事件の経緯について、検察からの質問にAさんが答えた内容をまとめると以下の通りとなる。

 12月24日の昼頃に母親とけんかをし、家の近くの公園などを歩いていた。このときの格好は、学校指定のジャージ、その下にはキャミソール、体育着のズボン、ビーチサンダルを履いていた。

 いくつかの公園を歩き、散歩で訪れたことのある別の公園のベンチに座った。16時〜17時頃だった。スマートフォンで写真を見ていた。スマートフォンはWi-Fiにつながっておらず、インターネットは使えなかった。

 後ろから外国人男性に「あのー」と、話しかけられた。「はい」と答えると、「何歳ですか」と日本語で聞いてきた。年齢を答えた。日本語だけでなく英語でも言い、相手にわかるよう、右手と左手を使いジェスチャーでも伝えた。

 相手は自分の指を折り曲げて「イチ、ニー、サン、シー」と10ぐらいまで数え上げた後で、自分の年齢を19歳だと言った。

 検察官が、「正直に自分の年齢を答えた理由は」と聞くと、Aさんは「嘘をつく理由がなかったからです」と答えた。

「私は男の人が怖いです」

 その後、翻訳アプリを使って、「ここで何をやっているの」と聞かれ、母とけんかしたことを伝えた。けんかの原因を「髪を切る(美容院へ行く)お金がなかったこと」と伝えると、「今週末また会ってくれたら自分がそのお金を出すよ」と言われたので、「大丈夫です」と断った。

 それ以外にも「あなたはかわいいから幸せになる価値がある」というようなことを言ってきたが、言われていることの意味が理解できなかった。

 この後、検察官の「知らない男性から話しかけられることについてどう思うか」と聞かれ、Aさんは「私は男の人が怖いです」と答えた。

 その理由について、昨年7月末に妹と自宅付近を歩いている際に外国人の男から声をかけられ、性的な被害にあっていたことが明かされた。このときも男から同じように年齢を聞かれ、Aさんと妹は実年齢を答えている。この被害については学校で相談し、その後、母親との三者面談が設けられたという。

 また、Aさんはこのときの外国人の男をワシントン被告だと思うと語った。ただし、公園で声をかけられた際には、同一人物と気づいていなかった。

「軍の特別捜査官」と説明

銃を持った写真も

 男性を怖いと思っていることを伝えるとワシントン被告は「自分はそんなことをしない」と言い、怖いと思う理由を聞いてきた。

 Aさんとしては理由を詳しく聞かれたことも怖いと感じたが、7月末の被害について曖昧に答えた。それを聞いたワシントン被告は「自分は軍の特別捜査官だからそんなことはしない」と翻訳アプリを使って答えた。

 「特別捜査官」という言葉を聞いたAさんは怖いと思った。

 また、ワシントン被告はAさんにスマートフォンの中の写真を見せてきた。写真には、銃を持ったワシントン被告が映っていた。

 検察官から「軍の特別捜査官と言われて、どんなことを想像しますか」と聞かれたAさんは「殺人やレイプを想像します」と答えた。

 この後、「寒いから車で話そう」と言われ、Aさんは「はい」と答えたという。

 検察官から「はい」と言った理由を聞かれるとAさんは「逆らうのが怖かったからです」「(そのほかには)寒いのが事実だったからです」「足が震えていました」と答えた。

 また、車の中で「週末に会って料理したりしよう」と言われたが、「うーん」と首を傾げてはぐらかした。

 「はいでもいいえでもなく、はぐらかした理由は何かあるのか」と聞かれると、Aさんは「家に行きたくなかったからです」「はっきりと断ることができなかった理由は、密室だったので断ると何かされるのではという恐怖心からです」と答えた。

「今日のことは内緒にしてほしい」

 ワシントン被告の家での被害の具体的内容は省略する。

 ワシントン被告の家で被害に遭った後、ワシントン被告が鍵を持ち「送っていく」というジェスチャーを取った。Aさんは首を振ったが、送られることになった。車の中では「今日のことは内緒にしてほしい」「私はあなたと友達になりたい」と翻訳アプリを使って言われた。

 家を聞かれたが別の場所で降りて、ワシントン被告の車が立ち去るのを見送った。家の場所を知られたくなかったため。そこから走って家まで帰ると、買い物から帰ってきた家族が駐車場で荷物を降ろしているところだった。

 泣きながら妹に事情を説明し、相手について「7月の人」と伝えた。妹から話を聞いた母親が通報した。

 警察が来て事情を聞かれ、犯人の家に案内してほしいと言われた。迷うことなく案内することができた。

 Aさんは眠れなかったり、夢に被害時の場面が出てくることがあり、睡眠薬を服用しているという。また、腕や足を切る自傷行為をすることがあり、「傷があることで誰かに嫌なことを言われたりすることはあるか」と検察官に聞かれると、「嫌なことというより、両親に申し訳ないと自己嫌悪になったりします」と答えた。

 事件後に家族以外からサポートを受けているかを聞かれると「はい、受けています」と答え、この日の昼の弁当を用意してもらったり、警察から居場所づくりのためのサポートを受けていたり、といった内容を話した。

 最後に「犯人に対してどう思うか」を聞かれると、長い沈黙の後で「自分が犯してしまった罪の重大さをわかってほしい」と話した。

「ぶつけたときの「痛っ」と同じ。とっさに出た言葉です」

 この後に行われたワシントン被告の弁護人からの尋問や、裁判官からの補充尋問では、被害時に「抵抗したのか」「抵抗できなかった理由は」といった質問が繰り返された。当時の状況や、本人の心境を確認するために必要な部分もあるかもしれないが、聞いていてつらく感じた。

 被害時の話になるとAさんは「わかりません」「覚えていません」と答えることもあったが、全体的に、考えながら丁寧に答えようとしているように聞こえた。

 例えば、ある行為については「頭が真っ白になって」何も言えなかったAさんが、それより後の行為について「やめて」「STOP」と言うことができた理由を弁護人が問いただすと、Aさんはこう答えた。

「(されたことの行為によって)感覚が違うし、何かにぶつけたときに「痛っ」て声が出るのと同じです。とっさに出た言葉だと思います」

 こういった感覚や心理状態を、法廷で、詰問調で質問を続ける弁護人に対して答えるのは決して簡単なことではない。

逃げない判断は、その瞬間の「最大の防御」である可能性

 性暴力やDVの被害者には「なぜ逃げなかったのか」あるいは「なぜ抵抗しなかったのか」という問いがつきまとう。被害者が逃げられない心理はそれだけで一つの研究テーマとなるほどで、近年では”無意識の反応”である「フリーズ(凍りつき)」が知られ始めている。

 私は性暴力や誘拐、監禁、性的グルーミングなどのケースを取材する中で、「逃げない」ことはその瞬間の被害当事者にとって最大の防御だったのではないかと思うことがある。逃げようとして失敗すれば、相手の機嫌を損ねて殴られるかもしれないし、殺されるかもしれない。

 クマに遭遇した際に、下手に動けばクマを刺激してしまうと人間は考える。当事者にとって、自分に迫ってくる、何を考えているかわからない人間はクマのようなものだ。

 逃げればよかったのにとか、逃げられたはずだというのは、後から聞いた人たちの勝手な憶測だ。その瞬間のことは当事者にしかわからないし、当事者だって、もし逃げようとした場合にどうなっていたのかはわからない。当事者に対しては、その瞬間のあなたの判断を尊重すると伝えたい。

 裁判の中で繰り返される被害者にとって酷な質問は、結果的に被害者を有利にする内容を引き出すこともあるため、全て必要ないと言うつもりはない。ただ、専門家であっても難しい心理の説明を、当事者に求めている点は知られてほしいと思う。ただでさえ緊張を強いられる証言台で、それをあえて話させる必要があるのかについて、今後議論されていくべきだ。

 8月30日にはワシントン被告への尋問が行われる。「18歳だと思った」「同意があった」と主張している被告が、どのように説明するのかを確認したい。

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那覇地裁での初公判 米兵の「否認」、その詳細は(2024年7月14日)

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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