結局、新型コロナに罹ったらロキソニンやイブプロフェンは飲まない方が良いのか
今年の3月上旬、フランスのヴェラン保健大臣がツイッターで「新型コロナウイルス感染症に罹ったらイブプロフェンなどの薬を飲まないように」という趣旨の発言をしたのを覚えていますでしょうか。
抗炎症薬(イブプロフェン、コルチゾンなど)を服用することは、感染を悪化させる要因になる可能性があります。発熱がある場合は、パラセタモールを服用してください。すでに抗炎症薬を使用している場合、または疑わしい場合は、医師に相談してください。
という発言です。
この発言をきっかけに、日本でも一時「コロナにイブプロフェンはヤバい!!」という雰囲気になりました(筆者の印象です)。
ちなみにイブプロフェンは非ステロイド系消炎鎮痛薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs;NSAIDs)と呼ばれるもので解熱効果があります。NSAIDsは、例えばロキソニン(ロキソプロフェン)、ブルフェン(イブプロフェン)など感染症などの熱が出る病気のときにはよく処方される薬剤であり、ロキソプロフェンは2011年からはロキソニンSという商品名で市販薬が発売開始されています。
熱で病院を受診した際にも、ロキソニンやブルフェンなどのNSAIDsを処方されることは多いかと思います。
さて、このヴェラン保健大臣の発言から半年、新型コロナウイルス感染症の患者にイブプロフェンを使用することに関するエビデンスがデンマークより報告されました。
結局、新型コロナに罹ったらロキソニンやイブプロフェンは飲まない方が良いのか、現時点でのエビデンスについてご紹介します。
そもそも熱がでたときに下げた方が良いのか?
そもそも薬で熱を下げることによるメリットはなんでしょうか?
熱を下げることによって、当然ですが発熱そのものによるだるさが取れますし、発熱に付随する頭痛、関節痛、筋肉痛といった症状も緩和されます。
また体温が1℃上がるごとに体の酸素消費量は13%増えると言われています。
ですので、例えば心不全などの慢性疾患のある患者さんでは代謝を抑え心不全の悪化を防ぐ意味で解熱薬を使用することは有用であると考えられます。
熱を下げるための方法は?
熱を下げる方法は大きく分けて2つあります。
1つは外部から体を冷やすこと(クーリング)です。
代表的なのは薬局などでも売っている、おでこに貼って冷やすタイプのシートです。
病院では血流の多い首や太ももの付け根に氷などを当てて冷やすことが多いです。
もう1つは解熱薬を使用することです。
主にアセトアミノフェン、NSAIDsの2種類が使用されます。
NSAIDsは先ほどご紹介したとおり、ロキソニンやブルフェンなどです。
アセトアミノフェンは商品名で言うとタイレノールAやバファリンルナJなどであり、ヴェラン保健大臣が推したパラセタモールもアセトアミノフェンです。
これらの薬は飲んでから1〜2時間後に解熱効果が出てきて、4〜6時間後には効果がなくなります。
かと言ってずっと飲み続けたり多く飲みすぎたりすると副作用が出やすくなります。
NSAIDsでは消化性潰瘍、腎障害などの副作用が多く、アセトアミノフェンでは肝機能障害がみられることがあります。
解熱薬は用法用量を守って使用するようにしましょう。
新型コロナウイルスとNSAIDsとの関連は?
では新型コロナウイルス感染症に罹ったときにNSAIDsを使用するとどうなるのでしょうか?
SARS(重症急性呼吸器症候群)を起こすSARS-CoVや、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は肺や腎臓などの上皮細胞に発現しているアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を介して標的細胞に結合し侵入することが分かっています。
ランセット誌では「イブプロフェンが体内のACE2を増やし、これによって新型コロナウイルスの感染が増強されるのではないか」という仮説があり(http://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30116-8)、ヴェラン保健大臣はこの仮説から「イブプロフェンなどのNSAIDsを避けるべき」と発言したものと思われます。
しかし、実際にNSAIDsが新型コロナの重症化に影響を与えるのかを検証した研究が1つ報告されました。
デンマークで新型コロナと診断された9,236人のうち、NSAID使用者(新型コロナのPCR検査の30日前までにNSAIDを処方されていた人)と非使用者とを比較したところ、NSAIDs使用者は非使用者と比べても、特に死亡率、入院リスク、ICU入室リスクなどは変わらなかったという結果でした。
これだけで「新型コロナに感染してNSAIDsを飲んでも大丈夫」というわけではありませんが、少なくとも大きく影響を与えるものではなさそうです。
重症感染症にNSAIDsを使うと死亡率が高くなる
ただし、新型コロナに限らず、感染症全般に関するNSAIDsの使用についてはすでに否定的な報告が多くあります。
インフルエンザや敗血症(感染症により生命を脅かす臓器障害が引き起こされる状態)の際にはNSAIDsは使用しない方が良いかもしれません。
動物実験ではすでにインフルエンザに対して解熱剤を使用した方が使用しない場合と比較して1.34倍死亡率が高かったとする報告があり、ヒトに対する影響についても現在臨床研究が行われており、結果が待たれるところです。
また敗血症の患者に解熱薬を使用した場合に死亡率が高くなったというヒトでの報告もあります。なお、この研究ではクーリングによる解熱は死亡率を悪化させなかったとのことです。
別の研究ではアセトアミノフェンの使用は重症感染症が疑われる患者への使用で特に経過に影響を与えなかったというものもあります。
まとめますと、
・新型コロナと診断される30日前までにNSAIDsを飲んでいてもおそらく重症化とは関連しない
・インフルエンザや敗血症ではNSAIDsを飲むと死亡率が高くなるという報告がある
・感染症の際に熱を下げる手段としてクーリングとアセトアミノフェンの使用は比較的安全である
となります。
新型コロナに罹ってNSAIDsを飲んだとしても、重症化しやすいとは今のところは言えなさそうですが、ロキソプロフェンなどのNSAIDsは安易に飲むと副作用の方が問題になることがあります。
NSAIDsは薬局などで手に入りやすい薬剤ですが、特に熱の原因が感染症と分かっている場合には、使用には注意が必要です。