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英国の次期首相はEU清算金棚上げの「政界の道化師」vs「コカイン使用」告白の詭弁家 究極の泥沼バトル

木村正人在英国際ジャーナリスト
失言防止のため酒を断つボリス・ジョンソン前外相(筆者撮影)

7月23日に次期首相誕生

[ロンドン発]欧州連合(EU)離脱交渉を担う次の英国の首相は誰なのか――与党・保守党党首選への立候補が10日午後5時(日本時間11日午前1時)に締め切られます。

11人が名乗りを上げていますが、首相レースの大本命は、390億ポンド(約5兆3800億円)にのぼるEU離脱清算金のお預けと「合意なき離脱」も辞さずと主張するボリス・ジョンソン前外相。ボサボサの金髪がトレードマークです。

対抗はメイ首相の穏健離脱路線を受け継ぐマイケル・ゴーブ環境相です。しかし誰が首相になってもEUは英国との再交渉には応じないと断言しており、テリーザ・メイ首相と同じ袋小路に追い込まれて自滅する恐れがあります。

2人は2016年のEU国民投票でデービッド・キャメロン首相が辞任した後の党首選で足を引っ張り合い、共倒れした因縁の対決です。まず党首選の日程を見ておきましょう。

6月10日、党首選への立候補締め切り。下院議員8人の推薦が必要

【下院議員による投票】

11~12日、保守党の立会演説会(非公開)

13日、1回目投票。17票未満の候補者または最下位の候補者が脱落

17日、保守党の立会演説会(非公開)

18日、2回目投票。33票未満の候補者または最下位の候補者が脱落

19日、3回目投票

20日、4回目投票(最終候補者2人に絞り込む)

【16万人の党員による投票】

22日、最終候補者2人による党員向け立会演説会

TV討論会など

7月22日、党員投票締め切り

23日、当選者発表、次期首相に就任

「政界の道化師」ボリス・ジョンソン前外相、54歳

【当選確率】43%、下院議員44人が推薦(7日、英紙デーリー・テレグラフより)

【離脱交渉】EUと再交渉し、北アイルランドとアイルランド間に「目に見える国境」を復活させないバックストップ(安全策)の代替案を勝ち取ることを公約に掲げる。筆者の質問には、メイ首相とEUの交渉で、すでに退けられている「最先端のテクノロジーによる解決」を唱える。合意があろうがなかろうが、新たな期限の10月31日にEUを離脱すると断言。

離脱清算金のお預け発言にフランスは激怒。

【注目点】デーリー・テレグラフ紙ブリュッセル特派員時代からEUをこき下ろす記事を連発。ロンドン市長を2期務め、行政手腕を発揮する。過去に数え切れない舌禍事件で何度も謝罪に追い込まれる。レッテルの一つに「政界の道化師」。

国民投票のキャンペーンで「英国は毎週、EUに3億5000万ポンド(約483億円)を渡している」とウソをついたとして告発されるが、起訴は免れる。

離婚歴2回で艶聞が絶えない。美術コンサルタントの女性との間に婚外子も。現在のガールフレンドは元保守党PR担当(31)。彼女のアドバイスで減量と失言防止のため断酒。

「コカイン使用」マイケル・ゴーブ環境相、51歳

マイケル・ゴーブ環境相(筆者撮影)
マイケル・ゴーブ環境相(筆者撮影)

【当選確率】21%、下院議員30人が推薦(同)

【離脱交渉】3年前のEU国民投票でジョンソン氏と一緒に離脱派のキャンペーンを成功に導く。TV討論で「ノン・エリートvsエリート」の対立軸を鮮明に打ち出し、残留派のキャメロン首相(当時)を撃沈する。

離脱交渉ではジョンソン氏の逆張りで、メイ首相の穏健離脱を最後まで支持。バックストップについて再交渉する。もし必要なら「合意なき離脱」も辞さないが、2~3週間の離脱期限延長も、と幅を持たせている。

【注目点】労働者階級の家庭からオックスフォード大学に進学した努力家。同大学弁論部(オックスフォード・ユニオン)で会長を務めたほどの雄弁家であり、白を黒と言いくるめられる詭弁家でもある。

党首選に合わせたように20年以上前にコカインを使用していたことを英大衆紙デーリー・メールに告白。妻は同紙の著名コラムニスト。筆者の目には低所得者層の共感とメディアの注目を集めるための「自作自演」に見える。

最強硬派ドミニク・ラーブ前EU離脱担当相、45歳

ドミニク・ラーブ前EU離脱担当相(筆者撮影)
ドミニク・ラーブ前EU離脱担当相(筆者撮影)

【当選確率】10%、下院議員22人が推薦(同)

【離脱交渉】「合意なき離脱」派。「合意なき離脱」を阻止する下院議員を止めるため下院の停会さえちらつかせる最強硬派。しかしジョンソン氏に押されて存在感は薄い。

【注目点】デービッド・デービス元EU離脱担当相の子分。メイ首相を辞任に追い込んだ最強硬派が後ろに控える。

知日派ジェレミー・ハント外相、52歳

ジェレミー・ハント外相(筆者撮影)
ジェレミー・ハント外相(筆者撮影)

【当選確率】9%、下院議員27人が推薦(同)

【離脱交渉】北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)と欧州懐疑主義者を加えたチームを編成し、EUと再交渉する。もし、それがかなわないなら「合意なき離脱」も選択肢として残るが、下院で不信任案が決議され、解散総選挙に追い込まれる恐れがあると指摘。

【注目点】日本で英語教師をしていたことも。

大穴サジード・ジャビド内相、49歳

サジード・ジャビド内相(筆者撮影)
サジード・ジャビド内相(筆者撮影)

【当選確率】4%、下院議員16人が推薦(同)

【離脱交渉】バックストップについて再交渉。10月31日の離脱を目指す。「合意なき離脱」も選択肢の一つとするも、ラーブ氏ら最強硬派が主張する下院の停会は「全くのナンセンス」と退ける。

【注目点】元凄腕バンカー。父親はパキスタン出身でバスの車掌をしていたことも。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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