話題の海外ドラマ「SHOGUN」も手掛けた日本の気鋭監督。アイヌの人々と再び向き合って
題名の「アイヌプリ」とは、「アイヌ式」という意味になる。
その言葉通りに本作は、変わりゆく時代と社会の中で、「アイヌ式」の伝統や文化を受け継ぎ、実践して生きるアイヌのある家族に焦点を当てる。
主人公として登場するのは、シゲさんこと天内重樹さん。北海道・白糠町で暮らす彼は、現代の生活を送りながら、自分のスタンスでアイヌプリを実践して、祖先から続く伝統の鮭漁の技法や文化を息子に伝えている。
作品は、シゲさん一家の日常生活に密着。自身のルーツを大切にしながら今の時代を生きる現代のアイヌ民族のリアルな実像が浮かびあがる。
手掛けたのは、「リベリアの白い血」「アイヌモシリ」「山女」と過去発表した長編映画がいずれも国際映画祭で高い評価を受け、大反響を呼んだ海外ドラマ『SHOGUN』(第7話)の監督を務めるなど目覚ましい活躍を見せる福永壮志監督。
「アイヌモシリ」に続いて再びアイヌというテーマと向き合った彼に、シゲさんにも話に加わってもらう形で、撮影の日々を振り返ってもらった。全四回/第一回
北海道で生まれ育ちながら、アイヌのことを何も知らずにきてしまった
まず、福永監督は北海道出身。トライベッカ映画祭の国際ナラティブ・コンペティション部門で審査員特別賞などに輝いた長編第二作「アイヌモシリ」では、北海道・阿寒湖のアイヌコタンで暮らす少年の姿を描いた。
アイヌに興味をもつことになったきっかけは何かあったのだろうか?
福永「自分は北海道に生まれ育って、高校卒業までいたんですけど……。
アイヌについて学ぶ機会であったり、アイヌの方と交流する機会といったことはほとんどもてなかったんです。
アイヌのことをほとんど知らないまま日本を離れて、アメリカの大学に留学することになりました。
その留学先のアメリカでは、ネイティブ・アメリカンの土地を、白人たちが奪っていまのアメリカがあるという歴史認識が浸透しています。
そういう状況に触れて初めて、自分が生まれ育った北海道にも同じ歴史があるではないかと意識したというか。
先住民族のアイヌがいるのに、その土地を和人たちが奪った。
北海道で生まれ育ちながら、アイヌのことをほとんど何も知らずにきてしまったことを恥ずかしく思いました。まず、ちゃんと知りたいと思ったんです。
そのころには映画を志していたので、まずアイヌを題材にした映画がないか探したんです。
ところが調べてみると、とても少ない。しかも、アイヌが登場するフィクション映画があっても、アイヌの役を和人が演じている。
アメリカやカナダ、ヨーロッパではもうずいぶん前から先住民の役はそのルーツをもつ俳優で配役するというのが当たり前になっている。
でも、日本では残念ながらそういうことがまだアップデートされていない。
ならば、そのあたりをきちんとクリアにして、アイヌをことを描いた映画を作りたい。
そう思って取り組んだのが『アイヌモシリ』で、アイヌの役はすべてアイヌの方に演じてもらうというアプローチで臨みました」
アイヌの伝統的な鮭漁のマレプ漁を復活・実践しているシゲさんとの出会い
この「アイヌモシリ」の制作中にシゲさんと出会ったという。
福永「厳密に言うと、『アイヌモシリ』を作る前の段階で、アイヌについてリサーチを重ねて、様々なアイヌの方々にお会いして、お話をうかがいました。
そのときすでに、アイヌ界隈でシゲさんは有名だったといいますか。
アイヌの伝統的な鮭漁のマレプ漁を復活・実践しているということで知られた
存在でした。
シゲさんの存在を知って、実際に会って、いつかマレプ漁を見てみたいと思っていました。
でも、リサーチをしているときは、うまくタイミングが合わなくて会えずに終わっていました。
そして、『アイヌモシリ』の撮影に入ったんですけど、まりも祭りのシーンの撮影をしているとき、祭りの参加者としてシゲさんも阿寒に来ていました。
実際にシゲさんは祭りの宴会シーンでチラッと映っています。
そこで初めてシゲさんにお会いしました。
『アイヌモシリ』は、夏秋冬に撮影があって、それぞれの季節の間に空きの時間がありました。
シゲさんに聞くと、ちょうどまりも祭りの撮影のときに鮭漁のシーズンが始まっていました。
白糠に行けば見学させてもらえるということで、秋の撮影が終わった直後に実際に現地にいって、シゲさんのマレプ漁を見ることができました。
その漁をしている姿に僕はすごく感動しました。
その感動が、今回のドキュメンタリー作りにつながっていきました」
(※第二回に続く)
※「アイヌモシリ」の「リ」は小文字、マレプ漁の「プ」は小文字が正式な表記になります。
「アイヌプリ」
監督:福永壮志
プロデューサー:エリック・ニアリ 福永壮志
撮影:エリック・シライ
編集:出口景子 川上拓也
音楽:OKI
公式サイト:ainupuri-movie.jp
渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中
筆者撮影以外の写真はすべて(C)2024 Takeshi Fukunaga/AINU PURI Production Committee