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「部下をつぶして成果をあげる上司たち」が評価されない世の中になってきた

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
四天王は邪気を踏んで立っています・・・。(提供:イメージマート)

部下をつぶして成果を上げる上司

「一将功成りて万骨枯る」という中国の故事成語があります。一人の将軍が大きな功績を上げる陰で、多くの無名の兵が犠牲となっている様子を指します。思えば私が社会人になった30年ほど前には、このような上司がたくさんいたものです。

部下にプレッシャーをかけまくり、成果は出すものの犠牲者(退職者、メンタル不調者等)も出すという、人を使い捨てるタイプの上司です。団塊ジュニア世代は1学年で200万人以上もいたためか、組織がふるいにかけるマネジメントが許容されていたわけですが、少子化のもとでこういう風潮がようやく変わりつつあります。

目先の成果のために人を使い捨てる時代錯誤

先日、プロ野球千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手が、史上16人目の完全試合を達成しました。あわせて日本プロ野球記録となる13者連続奪三振、プロ野球タイ記録の1試合19奪三振の記録も樹立しましたが、あらためて注目されたのはこれまでの佐々木投手の登用のされ方でした。

彼は高校3年の夏、花巻東高との県大会決勝で「故障を防ぐため」という監督判断で登板を回避しました。そして試合に敗れ、チームは夢の甲子園出場を逃しました。当時は賛否をめぐって大きな議論を呼んだものです。

ロッテに入団してからも、ルーキーイヤーに実戦デビューすることなく、これにも批判がありました。ただ、時速160キロもの剛速球は負担も大きく、故障しない身体づくりを優先したと言われています。そして、先日の偉業につながったというわけです。

一昔前なら選手が身体を壊そうとも、大一番に成果を出すために無理をすること、させることが美しいと言われたこともありました。私も古い人間ですので「あしたのジョー」のように後先考えず、死んでも一瞬に賭けることに感動してしまったりもします。

ただ、もう時代は変わりました。日本は少子高齢社会で、有望な若手人材はまさに国の宝です。今ではそういう宝を短期目標のために使い捨てるようなことは、現状を理解していない時代錯誤となったのです。

成果より大事なものを重視する会社が増えている

実際、ビジネス界でも、同じような考え方が浸透してきています。冒頭のように、以前は部下を使い捨てても、会社の命ずる目標を必達する上司が昇進しました。

しかし現在では、私がコンサルティングの際に「どんな人を昇進・昇格させるか」という議論をすると「あの人は成果を出すけれども、人をつぶすクラッシャーなので要職にはつけられないですね」という経営者がほとんどです。

サイバーエージェントの藤田晋社長が「人材の抜擢は、実績以上に人格重視」と言っていたことも思い出されます。いくら短期の成果を上げてくれても、企業の最も希少な資源である人材をつぶされては元も子もないのです。

定期の評価制度などにも、目標を達成したかという「成果評価」以外に、会社が求めている行動規範をどれだけ体現してくれているかという「行動評価」(「バリュー評価」などとも)を一定の割合で実施しているところも多くなりました。

その評価項目の中には、自分だけが成果を出すのではなく、「人材育成」や「チームワーク」「組織コミットメント」など周囲の人に対してよい影響を与え、中長期的な成果を実現する素地となる行動をとる人を積極的に評価する項目が多く採用されています。中には成果より行動を重視したり、「100%行動評価」という会社もあります。

短期的な成果に「地位」で報いてはいけない

もちろん、短期的に成果を上げられずに会社が倒産してしまえば、中長期の繁栄もありません。短期的な成果を評価することも大切です。以前のように昇進・昇格をさせられないとすればどうすればよいか。それには、西郷隆盛の言葉が参考になるでしょう。

「功ある者には禄を与えよ、徳ある者には地位を与えよ」。まさにこれが答えです。成果を出した人には「禄」、つまりお金を与えよということです。一方で「徳」、つまり行動規範を体現する人を昇進・昇格させること。決して「功」を「地位」で報いてはいけないのです。

私はこの傾向は、とてもよいことであると思います。一昔前に昇進した管理職たちが、いまも問題を起こす例は無数にありますが、まさに「名選手、名監督にあらず」。自分一人で成果を出してきた「功」で、チームを作って成果を出そうという「地位」につければ、チームが機能しないのは当たり前のことです。

「人を使いつぶす人」が昇進・昇格されなくなり、「人を活かす人」が抜擢される現象は、少子化によって人材が相対的に貴重になってきたから生まれたように見えますが、人はもともと大事にすべき存在のはず。個々人の持つ可能性を最大化するため、会社や上司が努力する世の中になることは、少子化のよい側面かもしれません。

キャリコネニュースにて人と組織についての連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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