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「僕の短い人生、無駄ではなかった」 天国へ逝ったジャロード・ライルが残した言葉

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
4年前のライル。黄色い帽子。ヘッドカバーは黄色いアヒルだった(写真/舩越園子)

白血病と闘い続けたオーストラリアのプロゴルファー、ジャロード・ライルが、とうとう逝ってしまった。まだ36歳。本当に壮絶な人生だった。

【“フツウ”がうれしいと言ったライル】

最初に白血病が発症したのは17歳だった1999年。プロゴルファーになる夢を諦めかけたが、母国出身の米ツアー選手だったロバート・アレンビーなど先輩たちからエールをもらい、必死の闘病を続け、奇跡的に回復。

2004年にプロ転向し、2007年には米ツアーにデビューした。

しかし、2012年の春、2度目の白血病を発症し、再び母国で闘病生活へ。すると、アレンビーはすぐさま黄色いアヒルのバッジを米ツアー会場で配り、ライルの治療を支援する寄付を募った。

病床から世界中へ「サポートをありがとう」と笑顔でお礼を伝えたライルは、再び奇跡の回復を遂げ、2014年から米ツアーへ復帰した。

その年の秋、ラスベガスで開かれた米ツアーの試合会場で、黄色い帽子を被った一団を見かけた。それはライルと彼を支援し続けている人々。黄色い帽子は、白血病の患者を支援する母国の財団のシンボルマークである、あの黄色いアヒルにちなんだものだった。

 うれしそうに球を打っていたライルに、そのとき思わず声をかけた。

「回復してうれしいというより、“フツウ”がうれしい」

それは、ごく普通の生活を2度も病いに奪われたライルの心の底から湧き出た実感だったのだと思う。

ラスベガスの大会でプレーしていたときのライル。うれしそうに球を打ち、生き生きしていた姿が私の脳裏に焼き付いている(写真/舩越園子)
ラスベガスの大会でプレーしていたときのライル。うれしそうに球を打ち、生き生きしていた姿が私の脳裏に焼き付いている(写真/舩越園子)

【3度目の奇跡はなかったが、、、】

この世に神様はいるのか、いないのか。そんなライルを3度目の白血病が襲いかかり、彼はまたしても母国で闘病生活へ。米ツアーは毎年1月を「ライルのための1月」と名付け、チャリティ月間に定め、支援を続けていた。

ライルも、彼の家族も、母国はもちろん世界中のゴルフ界とファンが、ライルの3度目の奇跡の回復を祈っていた。

しかし、先週、ついにライルは病魔との闘いに疲れ果て、最期の日々を家族と過ごす緩和医療に切り替えた。

発表直後のブリヂストン招待では選手やキャディ、関係者がみな黄色いリボンを付け、ライルが1分でも1秒でも長く、家族と幸せな時間を過ごしてくれるよう祈った。

そして、昨夜8時20分(オーストラリア時間)、家族や親友たちに見守られ、ライルは天国へと旅立った。

彼の妻ブリオニーが、ライルが残した最後のメッセージを公開してくれた。

「みなさんのサポートをありがとうございました。それは世界はすばらしいという証だった。僕の時間は短かった。でも癌で苦しむ人々と家族のために僕が思ったこと、取った行動が役立つのなら、僕の短い人生は無駄ではなかったと思う」

決して無駄にはならない。無駄にはしない。ジャロード・ライルの壮絶な闘いぶりと優しさは、大勢の人々の勇気になる。これまでも、そして、これからも――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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