熊本県へのIT企業進出。現地を歩いて考えた ~税収の使い方を税理士・不動産鑑定士が考察
熊本県菊陽町に、台湾のIT企業が進出し、特需に沸いているようです。
聞けば、工業地の地価も上昇傾向とか。
たまたま、4月25日に鹿児島市で不動産の鑑定評価のお話を頂いたので、隣県の熊本県菊陽町も訪れて、「今、日本がより栄えるために何ができるのか」を色々と考えてみようと思いました。
※この記事の写真はすべて令和5年4月23日、筆者撮影。出典を明記していただければ転用して構いません。また、この記事で登場する工場の企業等と筆者は特段の利害関係はない旨も申し添えます。
■まず、菊陽町に工業誘致の特例等を聞いてみた
日程の都合上、菊陽町に赴くのが4月23日の日曜となりましたので、役場に電話で「どのような工業促進の特例があるのか」を聞いてみました。
すると、以下のサイトを見れば、菊陽町のみならず県内各自治体の支援制度が見られるので、こちらを…とのことでした。
これを見ると、菊陽町では一定の要件を充足する工場等は、以下の支援制度があるようです。
要するに、用地取得費の他、土地建物の固定資産税の優遇等で配慮との話です。
※なお、菊陽町では都市計画税はないとのことです。
①工場等用地取得補助金…用地取得費の25%の補助〔限度額2億円〕
②施設整備補助金…土地を除く固定資産税の25%を3カ年〔限度額1億円〕
③不均一課税…固定資産税の25%を3カ年減免
〔②と重ねて適用を受けられ、②より適用要件が緩い。また、上記のリンクでは記載がありませんが、減免の期間は3カ年だそうです。〕
④雇用促進補助金
※菊陽町によると、上記のリンクの記載内容に未訂正の修正箇所があるため、詳細は菊陽町に確認をしてほしいとのことです。
■さて、現地を歩いてみた。
午後3時半ごろに、筆者は件の工場に近い肥後大津駅に降り立ちました。
駅に着いて目につくのは「阿蘇くまもと空港駅」を名乗るほど優れる熊本空港へのアクセス。
肥後大津駅のある大津町が熊本空港まで所要15分の無料タクシーを走らせているそうで、国内各地やアジア各国からの飛行機の利便性も良さげです。
言い換えれば、大津町のやる気を感じますし、隣接する菊陽町にも好影響でしょう
。
しかし、件の工場への便利な公共交通機関が乏しいです。レンタサイクルでもあればと思っていたのですが、生憎でしたので、覚悟を決めて現地まで歩くことにしました。
実に40分程歩いて、現地に着くと、日曜ということもあり、意外に静かです。
のどが渇いたのでコンビニに行った際、店員さんに「工場建設で売上が上がりましたか?」と問うたのですが、「いや、特に…」という回答でした。
報道とはうらはらに、完成前の現時点では「見た目には」繁華性の上昇等は見受けられないようです。
コンビニから西に少し歩くと、件の建設中の工場です。
工事は順調に進捗しているようですけれども、道路を挟んだ南側は雑種地で、工事の人のニーズが少しはあるかもしれませんが、これではコンビニの店員さんがおっしゃっていた通り、繁華性の向上はないでしょう。
言い換えれば、遊休化した雑種地であれば工業用地にしてもロスはありません。
農地や林地をつぶして…とかでしたら自然環境破壊や農業・林業のマイナスと言った別の問題も生じそうですが、雑種地でしたら工業用地のニーズがあれば工業用地にした方が得策で、町が「市街化調整区域〔基本的に宅地化の促進を抑える区域〕を工業用地にするのも検討」というのも頷けます。
むしろ、この機会を逃さず、雑種地を積極的に工業用地にした方が…と思います。
そして、地価が上昇しているのは事実で、「潜在的には」繁華性が向上しているのでしょう。
ちなみに、工場等用地取得補助金や雇用促進補助金は考慮外として考えると、固定資産税を当面は減免しても地価が上がっているので、結果的には数年後に回収ができるため、町役場としては長い目で見れば税収アップという点もポイントかと思います。
■建設中の工場の西に、工業団地がある
工場の西には、工業団地があります。
恐らくは、これらの工場とも連携していくのでしょう。
IT絡みの工場も多そうで、「これはよいな」と思ったのは、工業団地の一角に学校もあった点です。
未来の労働者に工業のノウハウを伝える意図があるのでしょう。このような施策は大いに推進されるべきでしょう。
ただ、筆者は思います。台湾の企業が来る「だけ」で終わらせるのではなく、それをどのように周りに波及させていくのか・・・と。
固定資産税の減免等以外に、その意識がどこまで各自治体等にあるのか。
前述の4つの優遇以外に、その点が見えないことに筆者は疑問を抱きます。
■税金の使い方~このような方向に使うべきでは?
理想的には、特需をもたらす工場も日本の企業であればなおよかったと思うのですが、とはいえ海外の企業による特需であっても、日本の産業にも寄与するとの意味で、このような活性化、及びその促進のための固定資産税の減免等はよいことと思います。
但し、「それが日本にIT技術・ノウハウが得られるメリットがある」との点が大前提です。
報道を見るに、その辺りが弱いのがやや気になる点ではあります。
いわば、納得感のある税金の使い方がどこまでできるかが鍵と言えるでしょうか。
■最後に
バブル期の頃とは違って、日本を取り巻く産業は、国際競争にさらされています。
ですので、「日本特有の技術・ノウハウ」を「日本にしかできない」状況に持っていくことが大切です。
そして、「国際貿易で、日本が儲かる」状況を作ることが重要です。従って、今回の熊本の工場も「日本が儲かる」状況にいかに持っていくかが課題と感じています。
そして、国民から徴収した税金を使うのであれば、「儲けるための産業強化や文化の維持管理等」に寄与しない福祉やインフラに過剰に支出するのではなく、「国防や警察や消防、役所等の社会的に必要な負担」の他、「日本が儲かるための、日本の産業の進歩・発展や、文化の維持管理」にこそ使うべきではないでしょうか。
国が潤ってこそ、初めて国民が豊かになるのです。
もっと言いますと、「あの唯一無二の製品や商品を作ってくれる国や人がなくなると困る」と思われる国になることが、間接的に侵略の制約となり、平和へ寄与する面もあるのです。
で、あれば、国防等の社会的に必要な負担の他、このような「日本が儲かるため、あるいは唯一無二の製品や商品を作れるような産業の促進」にこそ税収を支出すべきであって、国民全体で、改めてそのような税金の使い方を議論していくことが必要・・・と、筆者は思うのですけれど、いかがでしょうか。