国際宇宙ステーションで水菜を収穫。「月面サラダ」の可能性も
国際宇宙ステーション(ISS)では、将来の有人深宇宙探査で宇宙飛行士が食べる野菜を栽培し収穫する実証を続けている。2013年から始まった栽培実験は第4段階に進み、10月18日に史上初の女性宇宙飛行士ペアによる船外活動を行ったジェシカ・メイヤー宇宙飛行士が「ミズナレタス(水菜)」を収穫した。
「宇宙ステーションで私たちはミズナレタスを育てています! 火星やアルテミス計画のミッションは長期間にわたるので、自分たちで持続的に食料を育てる必要があるのです。それに収穫はとてもワクワクします! 地球では毎日サラダを食べていましたが、ここでは1回食べられるまでに29日かかります! 嬉しい」
2013年から始まった「VEGGIE(ベジー)」実証は、月面有人探査や火星探査といった長期間の宇宙滞在に備え、宇宙飛行士が自ら野菜を育てて食べられるシステムを開発する計画だ。ISSに設置された栽培実験装置は、ISSへの輸送を担う再使用型宇宙船「ドリームチェイサー」を開発するシエラネバダ・コーポレーションの子会社、オービタル・テクノロジーズ・コーポレーションが開発した。
装置で育てる野菜の種類は「ピック・アンド・イート(摘んで食べられる)」という、収穫後すぐにサラダで生食できるタイプが選ばれている。これまで、ロメインレタス(葉が厚く結球しないリーフレタスの仲間)やスイスチャード(フダンソウ)などが選ばれており、2015年にはJAXAの油井亀美也宇宙飛行士もISS長期滞在中に葉が赤いタイプのロメインレタスを食べている。
ベジー計画で野菜を選定する基準は、育てやすさ、収穫できる可食部の量や収穫までの時間、ISS内で成長しすぎないことなどがある。栄養面では、カリウム、鉄、カルシウム、マグネシウムなどミネラル量なども考慮されている。
そして重要なのが、長い宇宙滞在の中で宇宙飛行士が食事を楽しみにできるということ。味だけでなく色合いや香り、食味(葉のぱりぱりした感触)などを基準に地上で宇宙飛行士が参加して試食したところ、葉物野菜でトップのスコアを付けたのが、白菜の一種の山東菜(東京べかな)だった。東京べかなはすでに収穫され、2017年にはISS滞在中のペギー・ウィットソン宇宙飛行士も試食している。
2019年のベジー計画では、東京べかなに次いで高いスコアをつけた水菜が栽培されている。28日間で2回栽培を行う計画だ。宇宙飛行士は、ISSの環境で体液シフトと呼ばれる体液が上半身に移動する現象から、味を感じにくくなることが知られている。アブラナ科の野菜である水菜のかすかな苦味や辛味は、宇宙飛行士にとっても快く感じられるかもしれない。
野菜栽培は食べる楽しみだけではなく、植物の成長に伴って視覚的変化があり、見た目の楽しさや時間の経過を実感できる。葉の感触や香りで五感を刺激し、またリラックスする効果もある。2020年には緑の葉物野菜に続き、サラダ野菜の定番であるトマトの栽培が始まる。トマトはレタスよりも深く根を張る必要があり、栽培装置は新たに開発された。将来の火星探査に備えて、火星の表土を模擬した環境でトマトやトウガラシを栽培する地上の実験も始まっている。
ISSで栽培されるトマトは、「レッドロビン」というドワーフトマト(草丈の低いミニトマトの仲間)になる。実験期間は90日とレタス類より時間がかかるものの、鈴なりのミニトマトは葉物とまた違った収穫の楽しさ、美味しさが味わえそうだ。