「金正恩を呼び捨てにしないとシカトされる」変わりゆく北朝鮮の人々
北朝鮮で、金正恩党委員長に尊称を付けず呼び捨てにする人が増えているという。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は北朝鮮国内の複数の取材協力者の証言に基づき、「公式の場でもない限り、金正恩に尊称を付けて呼ぶとイジメ(シカト)に遭う場合もある。友人同士や親しい隣人の間では、金正恩の名前もまともに呼ばず、小ばかにしたあだ名で呼んでいる」と報じている。
(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音)
人間を「ミンチ」に
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋はRFAに対し、「最近では、金正恩の名が尊称付きで呼ばれるのは、公式の行事や会合の場に限られるようになってきた。市場や列車の中で出会った初対面の人間と話す際には尊称を付けるが、知人同士で話す際には『てっぺんの人』と呼ぶ」と述べている。
この情報筋によると、「てっぺんの人」とは従来から、機関責任者のような高級幹部を意味する言葉として当たり前に使われているという。そのため正恩氏をこう呼んでも、当局に見とがめられ処罰される心配がないということだ。
ちなみに、北朝鮮の最高指導者の尊称には、「将軍様」「元帥様」といった地位を表す言葉のほかに、名前の前に付く「親愛なる」「敬愛する」「偉大なる」といった言葉も含まれる。
前出の情報筋は、続けてこう語っている。
「最高指導者を尊称抜きで呼ぶのは、今に始まったことではない。金正日が生きているころから、友人同士の間ではよくあることだった。ただ、金正恩時代になってから、以前より露骨になっている。国家による食べ物の配給が止まって久しく、生活必需品の国定価格も有名無実化してしまった。国家はすでに、人民の面倒を見られなくなっている。だから、指導者に対する尊称も自然と使われなくなった」
つまりは、以前は社会主義のタテマエの下で禁じられていた商取引と財産の私有が合法化され、自由市場が活気を帯びるに従い、最高指導者の権威が失墜してしまったということだ。
(参考記事:金正恩センスの制服「ダサ過ぎ、人間の価値下げる」と北朝鮮の高校生)
一方、平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、「金正恩に尊称を付けない現象は幹部の間でまず始まったはずだ。地方の党や司法機関の幹部などだ」と話している。
玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長(国防相)が正恩氏の怒りを買い、文字通り「ミンチ」にされ処刑されたのも、正恩氏をないがしろにする言動を見せたためだったとされる。正恩氏がこうした過激な行動に出るのも、自らを軽んじる風潮に気付いているからかも知れない。
(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…)
この情報筋はまた、「北朝鮮では相当に親しい友人や隣人の中にも、保衛省のスパイがいる。それにもかかわらず、金正恩を呼び捨てにしたとの理由で処罰された庶民はまだいない。これは、金正恩の偶像化体系が崩壊していることを意味する」とも語っている。