浅田真央さん・新アイスショー『Everlasting33』開幕へ、「大きな愛」を語る
「33歳の今しかできない作品を、この場所でしかできない挑戦をーー」
浅田真央さんが座長を務めるアイスショー『Everlasting33』が、6月に立川ステージガーデンで幕を開ける。2017年の引退後、『浅田真央サンクスツアー』『BEYOND』で全国ツアーを展開してきた浅田さんにとって、3作目となるショーは、いったいどのような挑戦となるのか。その構想を、浅田さんから伺った。
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『自分はこういう方向性が良いんだな』というものが分かりました
全国23会場103公演のツアー『BEYOND』が終了し、その興奮が冷めやらぬ9月、浅田さんは早くも次なるショーの構想に向けた旅に出発した。ニューヨーク、アルゼンチン、ラスベガスをめぐり、本番のエンターテインメントに触れる時間だ。
「BEYONDでは、私のすべてを出し切ったという思いでした。なので、次のショーと言ってもアイデアはまったくないゼロの状態。『何かいいアイデアをもらいたい!』という気持ちで、1日2本のペースでいろいろな舞台を観ました」
北南米のエンターテインメントとひとことで言っても、魅力はさまざま。
「ニューヨークでは、『シカゴ』や『ムーランルージュ』などブロードウェイの代表作を見て。アルゼンチンはタンゴの本場なので一度は行ってみたかったのですが、期待以上の、本当に忘れられない素晴らしい舞台でした。ラスベガスでは、『シルクドソレイユ』のほかに、『アウェイクニング』という最新の技術を使ったショー、反対に『アブサン』のような小さなテントでやるようなショーなど、たくさん観させていただきました。どれも素晴らしい舞台で感動の毎日でした」
さまざまな演出の方向性を次々と見たことで、単に感動するだけでなく、その相違点も明確に感じられた。タンゴが持つ精神性や、ブロードウェイの演出の熟成度、ラスベガスのとにかく派手でサプライズの詰まった舞台。
「そのまま私のアイスショーのアイデアにするわけではないのですが、『ああ、自分はこういう方向性が良いんだな』というものが分かりました。さまざまなエンターテインメントの方向性をみたことで、自分の場合はこうだな、というものが感じられて。それが良かったです」
ワンランクアップして、ちょっと大人のイメージに
これまでの浅田さんのショーは、ひとことで言えば「浅田真央のスケートの魅力を120%伝えるもの」だった。演目は、『浅田真央サンクスツアー』も『BEYOND』も、浅田さんが現役時代に滑った曲をアレンジしたもの。編曲を変え、グループナンバーにすることで印象は変るものの、現役時代の“浅田真央”を原点として、ファンへの感謝と、新たな進化を伝えるものだった。
古くからのファンにとっては1つ1つの曲に思い出があり、その記憶を呼び起こしながらプロとして輝く浅田さんを見ると、我が子の成長を喜ぶような気持ちになる。また少人数の精鋭部隊で、休憩なしのノンストップでエネルギッシュに演じるところも、現役時代の浅田さんの生きざまがそのまま反映されていた。
また『BEYOND』では、大型のLEDスクリーンを生かした、映像とスケートを一体化させた演出が見事だった。今回、北南米の旅で「自分のやりたい方向性が見つかった」と言い切る浅田さん。今回はどんな演出の方向性となるのか――。
「『BEYOND』は、どんなことがあっても力強く、私たちのパワーをお届けするアイスショーというイメージでしたが、今回はもうワンランクアップして、ちょっと大人のイメージになるように。このメンバーでしか出せない一体感や、色々な経験を積んできたからこそ出せる、ちょっと大人のパフォーマンスを見せたいなと思って、日々練習を重ねています」
すべて生演奏でのアイスショーは、日本初
そんな浅田さんたちの演技を豪華にパワーアップさせるのが、全演目をオーケストラの生演奏で届ける演出だ。
「すべて生演奏でのアイスショーは、日本初だと思います。皆さんが一度は聞いたことあるような名曲ばかりなので、音楽の舞台としても素敵なものになると思います」
生演奏で演技する感動は、『BEYOND』でも味わった。ピアニスト辻井伸行さんやヴァイオリニストの三浦文彰さんの生演奏でお届けする特別公演があり、当時こう語っている。
「生演奏で滑る時間は、とても心地よかったです。お客様にとっても生演奏を聞けるのは贅沢な空間になるなと感じました」
今回、生演奏を届けるのはシアター・オーケストラ・トーキョー。熊川哲也のKバレエカンパニーを支える楽団だ。Kバレエカンパニーの音楽監督として指揮をふるってきた井田勝大氏が、『Everlasuting33』の音楽監督を務める。ダンサーとのコラボレーションの呼吸感については百戦錬磨で、これほどの適任者は国内にいないだろう。
「シアター・オーケストラ・トーキョーの井田さんと一緒に作り上げるアイスショーなので、そういった意味では、スケートも楽しめるし、生演奏も堪能できる、とても贅沢なショーになると思います」
未知の体験となる“劇場型”
そして今回、未知への挑戦となるのが、会場である。昨年8月の時点では、その会場についてこう話していた。
「1年ほど前に『とある場所』に行ったときに『ここでアイスショーをやりたい』って思って。誰もアイスショーをやったことのない場所。誰もやったことのない形のショーになります」
その『とある場所』とは、立川ステージガーデン。一階席が可動型の多目的施設で、今回は、前方の舞台だけでなく、中央に舞台がせり出した形に氷を張る。客席がこの舞台を、上下3方向から包み込むような構造だ。浅田はこれを “劇場型”と呼ぶ。
高さのある舞台の上にリンクがあるため、1階席からだと、スケーターを見上げるような位置になる。これは未体験の視野になるだろう。また、実際には舞台と近い高さの目線になる2階席は、熱気が伝ってくるような臨場感が期待される。そしてオペラ劇場のようにオーケストラとスケーターを見守る3階席は、音響と演技のコラボレーションを楽しめる “贅沢感。それぞれに見どころがある。
柴田嶺との再演で、新たな愛を
今回のショーも、BEYONDの精鋭11名とダンサー2名が、休憩なしで滑りぬく。演目はまだ決定していないものもあるが、30を超える予定だという。その見所の1つとなるのが、柴田嶺さんとのコラボレーションだ。
浅田さんが前回の『BEYOND』を企画したとき、最初に声をかけたのが柴田さん。
「2人で演じるパートでリフトの演技を入れたらもっと様々な表現ができるかな」と感じて、ペア選手の経験がある柴田さんとタッグを結成。『シェヘラザード』では妖艶な愛の世界を、そして『白鳥の湖』では白鳥と王子の切ない愛を演じた。
2人は運命の出会いといえるほど、滑りのカーブや息の使い方がピタリとあう。
「嶺君とは最初からしっくり来る、という感じでした。カーブの角度や、音の捉え方、間のとり方が本当にピッタリで、合わせようと思わなくてもピースがピタッとハマるので驚きでした。『BEYOND』の大千秋楽のときに、嶺君が『これで終わりにしたくないね』と言ってくれたので、いつかまた再演したいなという気持ちがありました」
今回はどんな“愛”を演じてくれるのか、楽しみでならない。
子ども料金も設定
これまで行ってきた『浅田真央サンクスツアー』『BEYOND』から一貫しているのは、浅田さんのショーへの思いだ。『BEYOND』のとき、こう語っている。
「私のアイスショーは、初めてスケートを見る方や、お子さん、ご年配の方々にも、わかりやすく楽しんでもらいたいというコンセプトがあります。幅広いお客様のために、バレエの要素もなくさず、スケートの良さも生かしつつ、色々な芸術・エンターテインメントの良い所を少しずつ取り入れて全く新しいエンターテインメントにできるのが、スケートの良さでもあると思います」
今回も、家族づれや子どもが見られるようにと、一部の席種では子ども料金も設定した。アイスショーでは異例のことだ。氷を張るなど設備運営にお金がかかるアイスショーでは、1席あたりの料金がどうしても高くなる。浅田の心遣いは今回、“子ども料金”という形で現れている。
「すべてを含んだ大きな愛を表現したい」
最後に、『Everlasting33』のタイトルにこめた思いを、浅田さんはこう語る。
「このタイトルは33本の薔薇の花言葉や、私の年齢でもある33という数字に込められた意味からインスピレーションを得ました。バラには本数によって意味があるというエピソードを伺って、33本のバラの意味を調べたら、『永遠の愛』へと繋がる本当に素敵な意味で、『このコンセプトしかない!』と思いました。恋人やパートナーだけでなく、家族や友達、そしてスケートの愛や、表現の愛など、いろんな愛へと繋がっていくんじゃないかな、というのが私の感じ方。すべてを含んだ、大きな愛を表現したいというのが、このアイスショーにかける一番の思いです」
浅田真央が届ける“永遠の愛”――。最高に贅沢で、最高に幸せな時間を、受け取れる時はもうすぐだ。