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年俸8億円を稼ぐ究極のサラリーマン社長! ドジャース6連覇を支えたアンドリュー・フリードマンの辣腕

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
勝利を重ねながらチームを再建していったアンドリュー・フリードマン氏(左)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ドジャースが現地1日、同率首位に並んでいたロッキーズとのタイブレークを制し、ナ・リーグ西地区6連覇を達成した。地区制が導入された1969年以降(1995年から2地区から3地区に移行)、地区6連覇はブレーブスの15連覇(1991年~2005年)、ヤンキースの9連覇(1998年~2006年)に続く連勝記録だという。

 今シーズンのドジャースはこの6連覇の間で、最も苦しんだ1年間だった。シーズン開幕から負け越しの状態が続き、5月が終了した時点で26勝30敗で、一度も首位に立つことができなかった。6月に入りようやく17勝9敗と勝ち越しに成功すると、シーズン後半戦はロッキーズ、ダイヤモンドバックスと熾烈な首位争いを演じながら、タイブレークの末何とか地区優勝をもぎ取った。

 苦戦を強いられることになった大きな要因は、故障による主力選手の相次ぐ離脱だった。野手ではジャスティン・ターナー選手がスプリングトレーニング中の負傷で4月を棒に振り、またコーリー・シーガー選手が右ひじ内側側副靱帯損傷でトミージョン手術を受けることになり4月の段階で離脱。またヤシエル・プイグ選手やローガン・フォーサイス選手主力も故障者リスト(DL)入りを余儀なくされ、今シーズン150試合以上に出場した選手はコディ・ベリンジャー選手(161試合)とクリス・テイラー選手(154試合)の2人しかいなかった。

 さらに深刻な状況だったのが投手陣だ。先発、中継ぎともに故障者が続出。シーズンを通してコマ不足に悩まされた。先発陣で30試合以上登板したのはゼロで、2桁勝利したのもリッチ・ヒル投手(11勝)1人だけだった。中継ぎ投手も絶対的クローザーのケンリー・ジャンセン投手がシーズン前半戦は不調が続き、さらに後半戦に入ると持病の心臓に問題が起こりDL入りするなど苦しんだ。その他の投手たちも故障者が後を絶たず、前田健太投手を中継ぎに配置転換するなどして危機を乗り切った。

 こうして苦しみながらも6連覇を飾ったドジャースは、ブレーブスやヤンキースのように黄金時代を迎えたといっていいのではないだろうか。2013年に4年ぶりに地区優勝を飾った時の野手の平均年齢は30.6歳で、投手の平均年齢は28.1歳だったのだが、今シーズンは野手(28.1歳)、投手(29.2歳)ともに平均年齢が30歳を下回っている。これは地区優勝を続けながら、確実に世代交代ができている証拠だ。

 その象徴的な存在なのがシーガー選手(24歳)、ベリンジャー選手(22歳)、ジョク・ペダーソン選手(26歳)──の生え抜き組だ。彼らが毎年入れ替わりでMLBに定着し、主力選手として台頭していった。さらにそこにエンリケ・ヘルナンデス選手、ヤスマニ・グランダル選手、マックス・マンシー選手などの若手有望選手をトレードで獲得し、見事にその才能を開花させている。

 そうした世代交代の成功は、年俸総額にも如実に現れている。2014年の年俸総額はMLBトップの2億825万1260ドルに上っていたのだが、今シーズンはMLB11位の1億5749万6785ドルにまで削減することに成功している。高額のベテラン選手たちを見限り、前述の有望若手選手らを次々に抜擢していたからこそ、ここ数年は毎年3400万ドルの年俸を支払っているクレイトン・カーショー投手を抱えながらも年俸削減することを実現できたのだ。

 チームは勝ち続けながらもこれだけの大幅な変革を断行できたのは、2014年に野球部門運営担当社長(つまり経営以外の現場の最高責任者)としてドジャースのフロントに加わった、アンドリュー・フリードマン氏の存在があったからこそだろう。

 フリードマン氏といえば、2005年オフに28歳の若さでレイズGMに就任すると、低予算チームに下からどんどん若手有望選手が昇格してくる確固たるマイナー組織を築き上げ、2008年にチームを初のワールドシリーズに導くと、その後も2010、2011、2013年とポストシーズンに進出する強豪チームを作り上げた。若手有望選手のリクルートにおいては球界きっての“必殺仕事人”といわれる人物だ。

 その手腕が評価されドジャースに迎え入れられたわけだが、その身分は単なるサラリーマン社長でしかない。もちろん結果を出すことができなければチームを去らなければならない。だが十分な実績を残せば評価はどんどん上がっていく。ドジャースと契約した際も総額3500万ドル(約39億円)の5年契約を結び、MLB史上最高額(当時)のエグゼクティブ誕生と話題を集めている。

 残念ながらNPBには、フリードマン氏のような実績で評価される契約ベースのエグゼクティブはほとんど存在しない。大抵は系列会社からやってきた人物が社長やオーナーを務めているのが一般的だ。やはり長期的なチームづくりをしていく上で、日本にも“プロ”のエグゼクティブが活躍できるような環境が整ってほしいものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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