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大谷翔平が4月に初めて110球以上投げたワケと絶対的エースが果たすべき役割

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷選手の中5日登板がチーム成否のカギを握っている(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【4月に初めて110球以上を投げた大谷選手】

 すでに各所で報じられているように、エンジェルスの大谷翔平選手が現地時間4月5日のマリナーズ戦に先発し、6回を投げ3安打1失点8奪三振の好投を演じ、今シーズン初勝利を挙げた。

 この日の大谷選手は昨シーズン最多に並ぶ111球を投げており、実はシーズン開幕したばかりの4月に110球以上を投げたのは、エンジェルス入り後初めてのことだった。

 ではなぜエンジェルスはシーズンが開幕したばかりのこの時期に、大谷選手に110球以上も投げさせる決断をしたのだろうか。

 それこそが、今シーズンの大谷選手に託された絶対的エースとしての使命だからだ。

【110球以上登板は全体のわずか7.7%】

 まず予備知識として理解してほしいのが、これまで大谷選手は今シーズンの2試合を含め計65試合に登板しているのだが、そのうち110球以上投げた試合は今回を含めわずか5試合しかない。

 その内訳は、2018年に1回、2021年に2回、2022年に1回、そして今回のマリナーズ戦となっている。それらを月別で見ると、4月が前述通り今回初めてで、その他は5月が1回、9月が3回と、基本的にシーズン終盤に集中している状況だった。

 4月は大谷選手に限らず、どの先発投手にとってもまだ調整段階から完全に抜け切れていない状態で、チームとしても無理をさせるような時期ではない。

 しかも大谷選手はWBC出場のため長期離脱しており、スプリングトレーニングで例年通りの調整ができていなかった。本来なら球数を含め慎重にモニタリングしていきたいところだろう。

 それでも今回はある程度の球数を投げてでも、大谷選手に6回を投げ切ってほしかったというのが、フィル・ネビン監督の偽らざる本音ではないだろうか。

【今シーズンは大谷選手中心の変則6人制ローテーション】

 すでにご承知の方も多いと思うが、ネビン監督はシーズン開幕前に、今シーズンの先発ローテーションを大谷選手中心で組み立てることを明らかにしている。

 具体的に説明すると、まず大谷選手を試合スケジュールに関係なく、優先的に中5日で登板させ、それを踏まえた上で他の先発投手の登板を決めていく変則6人制ローテーションを採用する予定だ。

 つまり現在のプランでシーズンを乗り切ることになれば、ローテーションの軸になる大谷選手の登板試合数が一番多くなる流れになるわけだ。まさにチームの大黒柱と呼べる存在だ。

 ここ数年エンジェルスが不振に喘いできたのも、先発投手陣に大黒柱になれる存在がいなかったことが原因の1つだった。これまで大谷選手は二刀流として先発登板日を固定するのが難しく、その役目を果たすのは不可能だったと考えられていた。

 それをネビン監督は中5日登板で固定することで、大谷選手を大黒柱に据えようと決断したのだ。

【登板する度にリリーフ陣に休養を与えるのが絶対的エース】

 絶対的エースとは、単にローテーション通りに投げ続けることだけが求められているわけではない。いざマウンドに上がれば当たり前の様に長いイニングを投げ、リリーフ陣に少しでも休養を与えられる機会を創出するのも大きな役目となる。

 特にエンジェルスの場合、先発ローテーションに入っているパトリック・サンドバル投手、リード・デトマーズ投手、ホゼ・スアレス投手の3投手は、まだ育成段階の若手有望選手たちだ。

 彼らに常に安定的な投球内容を求めるのは難しく、登板間隔や球数を調整しながら、ケガなくシーズンを乗り切れるよう投げさせることがチームの先決事項だ。その分リリーフ陣の負担も増すことになる。

 しかもエンジェルスのリリーフ陣は昨シーズンから大幅な補強ができておらず、チームの不安要素でもある。

 4月6日終了時点で、リリーフ陣の防御率は3.60でMLB16位、また被打率は.257で同22位という状況だ。そうした彼らの登板試合を抑えることで、シーズン中ながら調整する機会を与えることにも繋がるのだ。

 MLBはNPBと違い、不調の選手を登録抹消しファームで調整させることができない。マイナーに降格させてもロースター枠が決まっているので、どこにいても試合に出場しなければならない。

 登板機会が定まっていないリリーフ投手の場合、登板試合数を考慮することで調整する機会を創り出さねばならないわけだ。そしてそれを可能にしてくれるのが絶対的エースなのだ。

【大谷選手の中5日登板がエンジェルス成否のカギを握る】

 実際エンジェルスの先発陣の中で6回まで投げているのは、大谷選手と新加入のタイラー・アンダーソン投手の2人しかいない。今後リリーフ陣を安定させるという意味でも、この2投手が少しでも多くのイニングを投げることが必要になってくるだろう。

 つまり大谷選手の中5日登板が、今シーズンの投手陣の核となっているとともに、9年ぶりのポストシーズン進出を狙うチーム成否のカギを握っているといっても過言ではない。

 昨シーズンMLB史上初の規定打席&規定投球回数をクリアした大谷選手だが、今シーズンは更なるフル回転を求められることになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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