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チーム・スローガンは「熱狂」中堅・若手・ベテランのバランスが抜群!ジャパンパラ水泳 振り返りルポ2

佐々木延江国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
ベテラン選手、鈴木孝幸(GOLDWIN) 写真・PARAPHOTO 秋冨哲生

今夏のパリパラリンピックを見据えた「2024ジャパンパラ水泳競技大会」が横浜国際プールで3日間にわたり開催され5月5日を最終日に幕を閉じた。パリパラリンピックまで3ヶ月。チーム・スローガンに「熱狂」を掲げた日本代表は、横浜から泳ぎと思いを発信した。これまでに中堅・若手の選手を紹介。後半は、ベテランの選手たちの泳ぎと言葉を振り返る。


<日本が誇る、ベテラン勢の底力>

パリでアスリート委員の任期を終える、鈴木

アテネパラリンピック(2004年)から6大会連続出場、パリ大会に向け、あらためて「出場する個人種目は全てメダル、リレーでもベストを尽くしたい」と競技への意欲を見せる、鈴木孝幸(GOLDWIN)は、チームでの障害が最も重いS4、SB3クラスの選手。東京パラリンピックでアスリート委員に立候補し、この3年間は「クラス分け」をテーマに国際的な立場で選手として競技環境の向上にも貢献してきた。

大会最終日、50m平泳ぎSB3のスタート前の鈴木孝幸(GOLDWIN) 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生
大会最終日、50m平泳ぎSB3のスタート前の鈴木孝幸(GOLDWIN) 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生

直前の合宿では「レースに向かう(若い)選手のメンタル面の相談に乗ったり、自分がメダルを取ることでチームにいい影響があるといい」と話していた。パリ大会はキャプテンの責務からも解放され、個性あふれるひとりのアスリートとして自由な感性でチームに、そしてファンに、パリでのパラリンピックの魅力を伝えてくれそうだ。

ジャパンパラでの鈴木は、男子100m自由形S4と、50m平泳ぎSB3に出場。平泳ぎではスタートに課題が残ったものの少しずつ尻上がりに感覚が研ぎ澄まされていったという。まだメダルラインではないが、フォームやテクニックよりも泳ぎ込み、タイムを伸ばしていくフェーズに入っているという。

ーーー「自分の子ども時代を念頭に子どもたちに何を伝えたいですか?」

「自分が子どもだった頃より今はパラリンピックや障害者っていうものが目に見える形になってきているのかなと思う。健常者のスポーツだけではなくて、こういったスポーツの形もあるんだよ、みたいなのは、もう(メディアの)皆さんが必死に報道することでお伝えいただけたらというふうに思っております、どうですか!」と返し、記者が「頑張ります」と答えると嬉しそうにお礼を述べていた。

ーーーパリへの心構えについて若い選手から聞かれたらどんなふうに応えますか?

「やはり、パラリンピックは他の大会と違ってお客さんも満員で入りますので特別な大会だと思います。東京パラリンピックしか出場してない選手も大勢いますが、全てを全身で感じとって、楽しんでもらいたい。観客がいようがいまいがやるべきことは変わらない。聞かれたらそう答えようと思います」

ーー最初のパラリンピックから変わらないというモチベーションの要因は?

「勝ちたいからでしょうね。変わりません。世界一ですから」

ーー勝つことの大事さはどこにありますか?

「社会は別に平等じゃない。結局、皆さんも実感されていると思いますが、誰かと比べられて秀でていれば昇給するし立場も上がるだろう。今は学校では競わなくなってきているんでしょうか?でも、実際社会に出たら、競わないといけないので、勝てるものは買っといた方がいいと思います」

ーーパリでは鈴木選手のアスリート委員の任期が終わりますが「クラス分け」とはなんでしょう。あらためて鈴木選手の言葉で説明してください。クラス分けはパラリンピックの魅力と言えるでしょうか?

「クラス分けは私にとってもクラス分けで(しかなく)、パラリンピックをする上で、競技をする上では一番根幹な部分です。クラス分けでしっかりと、公平に、障害が違っても、泳力がほぼ同じ、同等な人たちがグループ分けされることで、その人たちの頑張りというのがそのまま泳ぎに現れます。魅力になるわけではないですけど、それが見る人にとって何か感じ取れるものがあると思いますし、そういったところでクラス分けはとても重要だとは思います」

パリではいい泳ぎをする、木村

東京パラリンピック男子100mバタフライS11(全盲)の金メダリスト木村敬一(東京ガス)は、北京パラリンピック(2008年)からパリで5大会連続出場となる。東京後、オリンピックメダリストの星奈津美氏をコーチとしてバタフライのフォーム改善に取り組んできた。直前の合宿では、「この1年半くらい取り組んできた技術的なところを、しっかりと大会の雰囲気に合わせていき、パリではいい泳ぎで結果を出したい」と話していた。

レース後のインタビューに応じる木村敬一(東京ガス) 写真・PARAPHOTO/地主光太郎
レース後のインタビューに応じる木村敬一(東京ガス) 写真・PARAPHOTO/地主光太郎


ジャパンパラ最終日の100mバタフライS11を01:03.09の好タイムで泳ぎ、50m自由形S11は26.36で大会新を更新した。

「レースについてコーチと振り返りましたが、まだまだ技術的なところは出し切ることはできなかったので、聞かれる前に先に言いますと(バタフライは)「8点」ぐらいかなっていう感じです」と、毎回聞かれるたびに8点と答えてきたことを繰り返した。この種目は東京パラリンピックで木村と富田宇宙が日本人ワン・ツーフィニッシュでファンを湧かせ、二人にとってもメイン種目になる。しかし昨年の世界選手権でウクライナのダニーロ・チェファロフが現れ現在二人の前に立ちはだかっている。
「これから猛追しないといけないが、全然足りないってことではなくて、ちょっとずつ、ちょっとずつそのストロークの中で足りてないんだと思うんですよ。だから、その精度が上がっていければいいと思う。本当に目指すべきところは僕もだいぶわかってきたつもりなので、そこをしっかりと精度を上げる練習をしていきたい」と向き合う課題のディテールについて語ってくれた。

レース後のゴーグルチェックを受ける木村。 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生
レース後のゴーグルチェックを受ける木村。 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生


「これから猛追しないといけないが、全然足りないってことではなくて、ちょっとずつ、ちょっとずつそのストロークの中で足りてないんだと思うんですよ。だから、その精度が上がっていければいいと思う。本当に目指すべきところは僕もだいぶわかってきたつもりなので、そこをしっかりと精度を上げる練習をしていきたい」と向き合う課題のディテールについて語ってくれた。

ーーー「自分の子ども時代を念頭に子どもたちに何を伝えたいですか?」
「子供の頃、僕が水泳を始めた頃っていうのはちょうど福岡で世界水泳があってイアン・ソープが大活躍している時代だった。北島康介さんが日本のトップ選手として出てきはじめた頃、やっぱり水泳選手かっこいいなって思いました。今こうやってパラ水泳もたくさんのメディアの方に取り上げていただけるようになって、我々が泳いでるところを発信してもらえるので、まずは少しでも障害を持っている子供たちが「パラリンピックに水泳で行くっていうのもいいな」って思ってくれるようなレースができればと思うし、障害のない子供たちにとっても、いろんな人がいるんだろうけど、スポーツって面白そうだなって思ってもらえるような、パラリンピックでの戦いができればいいなと思います」

今の僕たちを見てほしい。富田

2017年にクラス変更で木村敬一と同じS11(全盲)の選手になった富田宇宙(EY Japan)は、東京に続く2度目のパラリンピック出場となる。S13(弱視)の頃から取り組む男子400m自由形S11と、木村と競い合う100mバタフライS11がメイン種目である。

「自分が今持っているもの全てを出しきって、自分の記録を超えていく姿をみせたい。東京は無観客での開催だったので、ヨーロッパの熱狂の中で開催されるパラリンピックを日本の皆さんに届けたい」と合宿で話していた。

表彰式での富田宇宙(EY Japan) 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生
表彰式での富田宇宙(EY Japan) 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生

ベテランに数えられる富田だが、これまでを振り返ると、初のチャンスで訪れたメキシコでの2017年の世界選手権は大地震に見舞われ帰国、アジアパラ(2018年ジャカルタ)を経て、開催地の差別思想が原因で代替え地で行われたロンドンでの2019年の世界選手権が、富田の世界での初舞台だった。そして、東京がコロナ禍で行われたため、有観客でのパラリンピックは富田にとって初めてとなる。

ーー東京で木村選手とワンツーフィニッシュした100mバタフライS11、パリではどうのぞみますか?

100mバタフライS11で木村敬一と競う富田 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生
100mバタフライS11で木村敬一と競う富田 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生


「木村選手もすごく良いモチベーションでパリ大会に向かってるので、東京のときは難しい面もいろいろあったみたいですが、パリではさらにいい記録で泳いでくれるんじゃないかなと期待してます。僕も自分のできる限りのことをして、そこに追いつき追い越しでいきたいなと思っています」

そう答えたあと、富田は「東京じゃなく、今の選手たちを見て欲しい」と発信した。

「ただ、世界のライバル選手も増えていますし、東京からは3年も経ってますから、選手もたくさん入ってきてるし、僕らも大きく、いろんなことが変わっている。そういう中での戦いになるので、東京をもう1回っていう話よりは、今の僕たちの姿っていうのを、もっとちゃんと見てほしい。(富田のライバル、東京2020で3つの金メダルを獲得したオランダの)ロジャー・ドーズマン選手など、海外の選手たちの新たな活躍と、東京から頑張ってきた選手たちの様子っていうのを見てほしい」と、現地へ行く記者たちに伝えた。

400m自由形S11決勝スタート前の富田宇宙(EY Japan) 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生
400m自由形S11決勝スタート前の富田宇宙(EY Japan) 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生

東京2020パラリンピック、男子400m自由形S11のゴールで、手前1位、ロジャー・ドーズマン(オランダ)、奥、富田宇宙 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生
東京2020パラリンピック、男子400m自由形S11のゴールで、手前1位、ロジャー・ドーズマン(オランダ)、奥、富田宇宙 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生

ーーーこの3年で、新たなパラリンピックムーブメントが醸成されていると感じています。パリでどのように見せていきたいと考えていますか?

「僕はパラリンピックのポテンシャルを信じています。世界的には在るので、どちらかというと(日本で)伝えられてないって意識の方が強い。パラリンピックの何が面白いか、どこに感動するかを、1人でも多くの方(取材者)が理解してくれたら、(パリからの発信が)その次のロサンゼルスの発展に繋がる大会になると思います」

ーー日本からの発信ではなかなかそこが伝わってないということでしょうか?

「そうです。僕がスペインで活動してることもありますけど、僕が東京で初めてメダルをいただいて、いろんなところに出て行ったりいろんな方とお話していくときに、パラリンピック選手として伝えたいことと、世間でいうスポーツのメダリストに求められる話があんまり一致しないことが多い。パラリンピックが持ってる、パラリンピックにしかないものがある。健常の人では伝えられないことや、そこに僕はすごく自分自身がインスパイアされてここにいるんで、何か、本来もっといいものあるのになっていう気持ちが僕の中では醸成され続けています」

ーースペインでの経験は大きいでしょうか?

「パラスポーツって元々ヨーロッパで始まっていて、なんで障害のある人がわざわざスポーツするのかっていうところの理解がしっかりしてるなと思います。日本はメダルを取ってそれをみんなで感動するっていうのが、ドンと一番上にあって、本質的な向上に繋がらないというか、根っこがなくて上ばっかり育てようとしている。スペインとかイギリスとかヨーロッパの諸国は、元々傷病兵や病気の人たちが、スポーツを通じて社会に参画していくところに一番力を入れている。結果、パラリンピックのパフォーマンスがある。そこが社会に浸透していないと、本当の意味でのパラリンピックムーブメントの底力も社会に浸透しないんじゃないかなっていう懸念はあります」

パリのレースまであと3ヶ月

大会初日(5月3日)パリ2024パラリンピック日本代表(内定)選手の壮行会、フォトセッションが行われた 写真・PARAPHOTO/山下元気
大会初日(5月3日)パリ2024パラリンピック日本代表(内定)選手の壮行会、フォトセッションが行われた 写真・PARAPHOTO/山下元気

パリに向かう日本代表・トビウオパラジャパンは、身体はシンガポールの大会を経て、知的はドイツでの大会を経て、8月10日より随時フランスの事前合宿地・アミアンへ向かう。

—最後に、日本チームとパラ水泳の普及に取り組む久保大樹(クボタロジスティクス)について記しておきたい。三児の父となった久保は、オリンピック水泳を目指した経験もある。社会人となってから障害を発症し東京パラリンピックを目指した。日本代表チームを支えるリーダーの一人。クラスが変更となり、東京パラリンピック出場は叶わなかったが、パラ水泳の楽しさやパラアスリートの魅力を伝えている。自身のレース男子100mバタフライS10を終えた久保に、代表チームの雰囲気や今回のジャパンパラについての思いをたずねた。

パリに向かう日本代表・トビウオパラジャパンは、身体はシンガポールの大会を経て、知的はドイツでの大会を経て、8月10日より随時フランスの事前合宿地・アミアンへ向かう。

—最後に、日本チームとパラ水泳の普及に取り組む久保大樹(クボタロジスティクス)について記しておきたい。三児の父となった久保は、オリンピック水泳を目指した経験もある。社会人となってから障害を発症し東京パラリンピックを目指した。日本代表チームを支えるリーダーの一人。クラスが変更となり、東京パラリンピック出場は叶わなかったが、パラ水泳の楽しさやパラアスリートの魅力を伝えている。自身のレース男子100mバタフライS10を終えた久保に、代表チームの雰囲気や今回のジャパンパラについての思いをたずねた。

昨年10月に中国杭州で開催されたアジアパラ競技大会での男子100メートルバタフライS10を泳ぎ終えた(左から)。写真・PARAOHOTO/秋冨哲生、山下元気
昨年10月に中国杭州で開催されたアジアパラ競技大会での男子100メートルバタフライS10を泳ぎ終えた(左から)。写真・PARAOHOTO/秋冨哲生、山下元気

「鈴木、木村、富田のベテランがパリ後いつまで競技を続けるかわからないし、中堅・若手の選手は代表チームで一緒に過ごす時間を大事にしてほしい。ありがたいことに若い選手も順調に成長しているし、スター選手が生まれることを1ファンとして楽しみにしている。

S9は若い選手がたくさんいる。その中でも岡島貫太にはもっともっと引っ張ってほしい。世界的には厳しいクラスではあるが、世界の敵と戦う時は一人だ。ぜひ自分の成長にこだわってほしい。同じ障害、同じ性格、同じひとはひとりとしていない。パラリンピックに出る選手も大事だが、パラリンピックだけがパラ水泳の全てじゃない、魅力あるパラ水泳の裾野を広げていきたいので、協力してほしい」

大会最終日の100mバタフライのレース後に、日本代表チームとパラ水泳の普及について語る久保大樹(KBSクボタ) 写真・PARAPHOTO/地主光太郎
大会最終日の100mバタフライのレース後に、日本代表チームとパラ水泳の普及について語る久保大樹(KBSクボタ) 写真・PARAPHOTO/地主光太郎

この取材で、「パリパラリンピックを日本メディアはどう伝えるのか?」パラ水泳ミックスゾーンでアスリートの言葉を待つ取材者自身の資質が繰り返し問われていたことを感じた。

(校正・地主光太郎)

※この記事は、PARAPHOTOに掲載されたものです。

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表

パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。

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