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大谷翔平、山本由伸、ダルビッシュ有、松井裕樹のMLB開幕戦 韓国のドームの特殊事情で入場券はわずか?

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
MLBソウルシリーズ2024の開催地・コチョクドーム(写真:ストライク・ゾーン)

2024年3月20、21日に行われるメジャーリーグ、サンディエゴ・パドレス対ロサンゼルス・ドジャースの開幕シリーズは「MLBワールド・ツアー ソウルシリーズ2024」と銘打ち、韓国の首都・ソウルのコチョク(高尺)スカイドーム(以下、コチョクドーム)で行われる。

パドレスにはダルビッシュ有と、新加入の松井裕樹(前楽天)、ドジャースにはいずれも新天地でのプレーとなる大谷翔平(前エンゼルス)、山本由伸(前オリックス)が所属。昨春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本中を沸かせた侍ジャパンの4人が開幕カードで顔を合わせることになった。

しかも開催地はアメリカではなく、お隣の韓国ということで生観戦を希望する日本のファンは多いだろう。だがチケット争奪戦は困難を極めそうだ。その背景には開催球場のコチョクドーム誕生までの特殊な経緯がある。コチョクドームについて詳しく紹介する。

「MLBワールド・ツアー ソウルシリーズ2024」のキービジュアル(提供:クーパンプレイ)
「MLBワールド・ツアー ソウルシリーズ2024」のキービジュアル(提供:クーパンプレイ)

収容人数は東京ドームの4割に満たない1万人台

ソウル中心部から南西に約12キロ、クロ(急老)区にあるコチョクドームの座席数は16,744席。収容人員約43,500人の東京ドームの半分以下、4割にも満たない。なぜこんなに少ないかというと、元々は「アマチュア専用の屋外球場を作るはずの場所」だったからだ。

2007年、ソウル市は市内中心部のトンデムン(東大門)野球場を老朽化と地域再開発のため解体撤去。古くからアマ野球の中心地だった同球場の代替として、ソウル市は市内の別の場所に複数の球場建設を決めた。その一つが後にコチョクドームができる場所だった。

当初は観客席の上部のみ屋根が覆う、「ハーフドーム型」の約2万人収容の球場として計画。しかし2009年のWBCで韓国が準優勝したことで方針が変わった。代表チームの大躍進をきっかけに「韓国初のドーム球場建設」に舵を切った。

建設途中のコチョクドーム。2014年1月撮影(写真:ストライク・ゾーン)
建設途中のコチョクドーム。2014年1月撮影(写真:ストライク・ゾーン)

韓国は日本同様に長雨の時期があり、春先や晩秋は日本の東北地方のように寒い。かねてからドーム球場を求める声は強かったが、巨額な建設費が課題となって計画が上がっては消える状況を繰り返していた。それがアマ専用屋外球場からの転換によって現実のものとなった。

2015年11月、約6年の工事を経て完成。それまでソウル市内のアマ球場・モクトン(木洞)球場をホームにしていたネクセンヒーローズ(現キウムヒーローズ)が、コチョクドームに本拠地移転。現在もプロ公式戦(KBOリーグ)で使用されている。

現在のコチョクドームの外観(写真:ストライク・ゾーン)
現在のコチョクドームの外観(写真:ストライク・ゾーン)

駅近もクルマ派は不満 コロナ禍で強みを発揮

コチョクドームを本拠地とするキウムの2023年の1試合平均の観客数は8,220人で、10球団中8位(リーグ平均11,250人)。それに比べて同じソウル市のチャムシル(蚕室)球場を共同使用するLGツインズとトゥサンベアーズは、キウムの倍近い15,085人だ。

キウムは新興球団ということもありファンが多くないこと、そして「球場の立地が悪い」という声が観客数が少ない理由に挙がる。

コチョクドームの最寄り駅は地下鉄1号線のクイル(九一)。ソウル駅からインチョン(仁川)方面に乗って約25分で着く。クイル駅の2番出口から外野席入口までは徒歩3分程で日本の感覚だとアクセスは悪くない。しかし都市部でも自家用車の利用が多い韓国では「車で行きやすいか」が重視される。

チャムシル球場には2000台収容可能な駐車場があるのに対し、コチョクドームは試合開催時の一般客の駐車は不可。周辺の駐車場を探す必要がある。さらにコチョクドームは橋のたもとにあり渋滞が発生しやすいことから、家族や仲間どうし「車で行きたい」という人には不人気だ。

飛行機機内からコチョクドーム上空。写真右側にアニャン(安養)川が流れる。クイル駅のホームは東大島駅(東京都)、武庫川駅(兵庫県)のように川の上にある。写真手前(写真:ストライク・ゾーン)
飛行機機内からコチョクドーム上空。写真右側にアニャン(安養)川が流れる。クイル駅のホームは東大島駅(東京都)、武庫川駅(兵庫県)のように川の上にある。写真手前(写真:ストライク・ゾーン)

他球場はボールパーク化が進み多彩な席種があるが、コチョクドームはイベントとの併用の面から座席はテーブル席が多い程度でシンプルだ。場内の飲食物も他球場とは異なり特徴的なものは少ない。以前はドーム地下(場外)に複数の飲食店が入居していたが、現在はアート文化施設となっている。

しかし球場正面の横断歩道を挟んだ向かい側には数多くの飲食店が立ち並び、にぎわいを見せている。食べ物を持ち込む観客も多いようだ。また開場当初は狭い空間に多くの座席を配置するあまり通路不足が問題視されたが、後に新設された通路によって解消されている。

規模、アクセス、場内施設とマイナス面が語られることが少なくないコチョクドームだが、ドーム球場の完成によって3、11月の寒い時期に今回のメジャー開幕戦やWBC、プレミア12などの国際大会の実施が可能になった。

またコロナ禍で公式戦終了が例年より遅れた2020、21年は、11月の韓国シリーズを全試合コチョクドームで開催。気候に左右されないドームの強みを発揮した。

センター後方からの視点(写真:ストライク・ゾーン)
センター後方からの視点(写真:ストライク・ゾーン)

大谷弾がビジョン直撃? ブルペンは地下に

韓国はグラウンドと観客席が近い球場が多く、コチョクドームもそのひとつだ。特にバックネット裏(キウム戦ではロイヤルダイヤモンドクラブ席として販売)の一、三塁寄りはネクストバッターズサークルが目の前で、試合中にキウムのちびっ子ファンと外国人打者がネット越しにハイタッチする姿がよく見られる。

またベンチが奥に広く横から見やすい構造から、バックネット裏は長いレンズを構えた「カメラ女子」にも人気だ。座席は革張り。折りたたみテーブルが収納されたひじ掛けは木目調で、床はウッドデッキの高級感ある造りとなっている。

コチョクドームのバックネット裏最前列(写真:ストライク・ゾーン)
コチョクドームのバックネット裏最前列(写真:ストライク・ゾーン)

バックネット裏の革張りの座席(写真:ストライク・ゾーン)
バックネット裏の革張りの座席(写真:ストライク・ゾーン)

グラウンドの広さは中堅122メートル、両翼99メートル(外野フェンスの高さ4メートル)。狭い立地の割にグラウンドの広さは十分ある。一方でスタンドは狭い。両翼のポール後方にはわずかな空間しかなく壁がせり立つ。その壁面には大型ビジョンが2つ、レフトとライトに設置されている。小ぶりな右中間スタンドのビジョンに「大谷のアーチが直撃」なんてことがあるかもしれない。

左中間のビジョン。対角に位置する一塁側(ホーム)の選手情報を中心に表示。右中間は三塁側(ビジター)向けに表示している(写真:ストライク・ゾーン)
左中間のビジョン。対角に位置する一塁側(ホーム)の選手情報を中心に表示。右中間は三塁側(ビジター)向けに表示している(写真:ストライク・ゾーン)

ブルペンは東京ドームなどと同じくバックヤードにあり、「投球練習をする松井裕を見て出番に期待」といった楽しみは残念ながらできない。日本のドームとは違う点としてコチョクドームのブルペンはグラウンドレベルの一層下、地下階にあるのが特徴だ。リリーフ投手は階段を上り下りしてブルペンとベンチを行き来している。

コチョクドームの地下ブルペン(写真:ストライク・ゾーン)
コチョクドームの地下ブルペン(写真:ストライク・ゾーン)

フィールドは韓国の本拠地球場で唯一の人工芝(他の8球場は天然芝)。しかし走路は土で内野手たちは「コチョクは土が固くて人工芝との切れ目でバウンドが変わる」と話す。

人工芝のフィールド。内野の走路は土(写真:ストライク・ゾーン)
人工芝のフィールド。内野の走路は土(写真:ストライク・ゾーン)

チケットは「韓国のアマゾン」で発売

韓国初開催のメジャー公式戦は昨季ユーティリティ部門でゴールドグラブ賞を受賞した、キム・ハソン(パドレス、元キウム)の凱旋試合として注目されていた。ところが12月18日以降、日本での関心が急に高まった。東京で韓国旅行の手配を数多く行う旅行会社の担当者はこう話す。

「大谷選手のドジャース入り以後、『ソウルでのメジャー開幕戦のチケットはどうやったら取れるのか?』という問い合わせがくるようになりました」

MLBワールド・ツアー ソウルシリーズ2024の冠スポンサーは「クーパンプレイ」。クーパンとは韓国のモール型ECサイトで今回の試合の入場券の購入は、クーパンの「ワウ会員」加入が条件であると公式サイトには記されている。

韓国には同業種の「アマゾン」が進出していないため、ネットショッピングサイト最大手のクーパンは「韓国のアマゾン」とも呼ばれる。「クーパンプレイ」はクーパンの動画配信サービスの名称だ。中継もクーパンプレイで配信される。

公式サイトではパドレス-ドジャースの2試合の他、「全6試合(KBO球団との練習試合など)を予定し日程などは後日発表」とある。2023年12月末の時点でチケット発売の詳細は発表されていない。

参考 キウムヒーローズ紹介(ストライク・ゾーン。コチョクドーム周辺の地図など)

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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