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フェイクニュースが多い現代社会こそ「情報も吟味が必要」:映画『否定と肯定』

佐藤仁学術研究員・著述家
映画「否定と肯定」より

 「否定と肯定」という映画が現在上映されている。ナチスドイツ時代に約600万人のユダヤ人が大量虐殺された、いわゆるホロコーストを否定するイギリスの歴史学者デヴィッド・アーヴィング氏と、ホロコーストは存在したと主張するユダヤ人歴史学者であるデボラ・E・リップシュタット教授の法廷での闘争を描いた実話に基づいた映画だ。

映画「否定と肯定」より
映画「否定と肯定」より

 ネットやSNSの普及でフェイクニュースが跋扈し、世界規模で社会問題になっている。特にここ数年は、あらゆるSNSがフェイクニュース対策に躍起になっている。ポスト・ファクトやポスト・トゥルースといった表現が話題になっている現代社会にとって「歴史とは何か?」、「真実とは何か?」、「『否定論を否定する』とはどういうことか」を考えさせる内容だ。

 この裁判は約20年前の実話だが、リップシュタット教授も「ちょうど製作に入ったころアメリカ大統領選挙があり、オルタナティブファクトやフェイクニュースが流布している現代にあまりにも呼応する作品になっていることに驚いた」と語っている。

SNSでは『客観的な事実』と『嘘』との違いがなくなり、同列に・・

 リップシュタット教授は2017年4月に「TED x Skoll」において「どうしてそのような法廷での闘争に挑んだのか」について語る講演も行った。以下がその動画だ(字幕の設定を日本語にすることも可能)。

 この中で同氏は「ソーシャルメディアが様々な恩恵をもたらしながらも、同時に招いてしまった事態がある。『客観的な事実』と『嘘』との違いがなくなり、同列になってしまった」と指摘。また「確実に真実であるという物事は存在する。まぎれもない真実、つまり客観的な真実がある」と訴えていた。

 そして、講演の後半ではフェイクニュースの見極めにも役立つポイントを以下のようにあげている。

1. もっともらしい見た目に騙されないこと。その下の中身に目を向ける。

2.「相対的な真実」など存在しないと理解する。

3.「証拠はあるのか?根拠は何なのか?」を確認する。嘘を事実と同列に扱ってはいけない。

「情報も吟味しないといけない」

 そしてリップシュタット教授は、この闘争を巡る回顧録『否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い』の発売記念で来日していた際に、「SNSの普及で簡単かつ急速に情報が拡散しやすい現代においては、カメラやスマホを買う時と同じように『情報』も吟味をしないといけないということを若い人へ伝えたいですね」と訴えていた。

映画「否定と肯定」より
映画「否定と肯定」より

 また「真実を見抜くにはどうしたら良いか?」との問いに対しては「簡単な答えはない。SNSや多様なメディアのプラットフォームがあり、政治家やリーダーが好きにでっちあげをして真実のように言い募る時代に我々は生きている。だから、できることは事実の『根拠』を要求すること。個人では難しいので、テレビや新聞などメディアの力が必要になってくると思う」とコメントしている。

 メディアにおけるホロコーストとデジタル化による保存は筆者は研究領域の1つで、確かにホロコースト否定論のニュースは今でもよく耳にする。リップシュタット教授はエモリー大学で「HDOT(Holocaust Denial On Trial)」というサイトを立ち上げて、裁判の記録を掲載し、ホロコースト否定論から頻繁に寄せられる主張への回答も掲載している。

「否定と肯定」

(c) DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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