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前からのプレスは本当にハマっていたのか? 森保ジャパンの布陣変更と異なる運用方法【アメリカ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

布陣変更の意味は小さくない

 森保ジャパンの大会前最後の代表ウィークの初戦となったアメリカ戦は、前半の鎌田大地と試合終盤の三笘薫のゴールにより、日本が2-0で勝利を収めた。

 本番初戦となるドイツ戦の6日前にカナダとの親善試合が追加決定したとはいえ、今回の代表ウィーク2試合は本大会に向けた大事な最終調整の場だ。

 つまり、森保一監督がW杯本大会でどのような戦い方で挑もうとしているのかを推測するうえで、この2試合は極めて重要な意味を持つ。

 逆に考えれば、このアメリカ戦と27日のエクアドル戦で見えたことが、本番直前のカナダ戦およびW杯のグループリーグ3試合に大きな影響を与えることは間違いない。

 そんな注目のアメリカ戦で、森保監督は戦前にほのめかしていたとおり、これまでの基本布陣の4-3-3ではなく、4-2-3-1を採用した。まずはこの布陣変更が、この試合でおさえておきたい最初のポイントになる。

 4-2-3-1は、森保ジャパン発足から昨年10月7日に行なわれたW杯アジア最終予選のサウジアラビア戦まで、約3年にわたって指揮官が頑なに貫いてきた基本布陣だ。

 ところが、アジア最終予選のスタートダッシュに失敗すると、窮地に追い込まれた森保監督は、10月12日のオーストラリア戦でボランチ3人を配置する4-3-3に変更。これが奏功して成績がV字回復し、以降は4-3-3が基本布陣となった。

 欧州組が不参加だった7月のE-1サッカー選手権を除けば、実に11試合連続で採用し続けていた基本布陣だ。

 その間、森保監督が4-2-3-1を使わなかったわけではない。6月のチュニジア戦では、後半途中に4-3-3から4-2-3-1にシフトチェンジ。1点のビハインドを背負った状態で、よりゴールを目指すための攻撃的布陣として採用している。

 それに対し、4-3-3は守備面で一定の成果を残した布陣だ。中盤にボランチタイプの3人(遠藤航、守田英正、田中碧)を配置することがその象徴で、状況次第では両ウイングが中盤に下がって4-5-1を形成。その分、攻撃力が低下する現象が起きていた。

 それぞれの布陣がどのような特性を持っているかは、過去の実績から森保監督自身も十分に理解しているはず。だとすれば、このタイミングで攻撃的な4-2-3-1を試合開始から採用したのは、本番を見据えるうえで決して小さくない変更点と言えるだろう。

 ちなみに、この試合で森保監督がチョイスしたスタメンは、GK権田修一、DFは右から酒井宏樹、吉田麻也、冨安健洋、中山雄太の4人。ダブルボランチは遠藤と守田がコンビを組み、2列目は右から伊東純也、鎌田、久保建英、1トップに前田大然の11人。とりわけ所属クラブで好調な選手を優先した印象のスタメン編成だった。

 では、今回のアメリカ戦のピッチ上では、どのような現象が起きていたのか。

前線からのプレスの効果

 今回対戦したアメリカを率いるグレッグ・バーホルター監督は、基本布陣の4-3-3を採用。

 大黒柱でもあるチェルシーのFWクリスチャン・プリシッチをはじめ、左サイドバック(SB)アントニー・ロビンソン(フラム)、MFユヌス・ムサ(バレンシア)、FWリカルド・ペピ(フローニンゲン)、ティモシー・ウェア(リール)といった主軸が欠場したため、ベストメンバーとは言えないスタメン編成を強いられていた。

 対する森保ジャパンの4-2-3-1は、守備時に4-4-2を形成する。今回のアメリカ戦でも、守備時は前線で前田大然と鎌田が並列になっていたが、とりわけこの試合の前半立ち上がりから目立っていたのが、アメリカのビルドアップを封じるべく、前からプレスをハメにいく攻撃的な守備だった。

 具体的には、両センターバック(CB)には前田と鎌田、両SBには伊東純也と久保建英、そしてワンボランチを務めたタイラー・アダムズ(4番)には守田が前に出て圧力をかけるのが基本。前田が両CB間や、CBとGK間で2度追いする時は、鎌田がアダムズへのパスルートを消した。

 そんな日本の前からのプレッシャーが奏功し、アメリカがビルドアップ時にミスを連発。日本が高い位置でボールを回収するシーンが、前半だけでも4分、13分、24分、27分、35分、47分と、計6回もあった。

 そのうち、13分のシーンでは回収した久保からのパスを鎌田がシュートを狙い、24分のシーンではウェストン・マッケニー(8番)のミスパスを伊東が回収し、鎌田の先制ゴールをお膳立てしている。

 とはいえ、これらは日本の狙いどおりの守備によって起こったと言うべきだったか。実際はアメリカの選手個人のミスが多分に影響していた感は否めない。

 たとえば、4分のアダムズのミストラップ、24分のマッケニーのミスパス、35分のアダムズのミスパス、47分のGKマット・ターナーのミスキックなどは、W杯本番では起こりそうもないような、集中力を欠いた部分でのイージーミスだったからだ。

アメリカの布陣変更で問題再発

 いずれにせよ、ビルドアップに苦しんだアメリカは、後半開始から交代カード4枚を切って、戦術変更を断行。日本の前からのプレスを回避すべく、布陣を3-4-2-1に変更した。

 するとその策はすぐに効果を示し、試合のリズムも変化。日本の前からの攻撃的守備が影を潜めると、日本がミドルゾーンで4-4-2のブロックを形成する時間帯が長くなった。結局、後半に日本が前からのプレスでボールを回収するシーンは、1度もなかった。

 逆に、ビルドアップ時のボールの出口を見つけたアメリカは、前半には1度も見られなかった3バック中央のウォーカー・ジンマーマン(3番)からの縦パスが急増。5分、11分、30分、35分、38分と、後半だけで計5回の縦パスを成功させている。

 そのほとんどが、2トップの間やダブルボランチの間を通させてしまった、日本としては許してはならない縦パスだった。

 もしドイツのような一撃必殺のチームを相手にこれだけの縦パスを許してしまえば、失点する確率が高くなるのは必至だ。最終的に無失点で終えたのだからよしとするのではなく、対3バックの守備対応も徹底しておく必要があるだろう。

 実は、2019年アジアカップ決勝カタール戦(1-3の敗戦)でも見られたように、この問題は約3年にわたって4-2-3-1を採用し続けるなかで、一向に改善されなかった課題でもある。

同じ布陣でも運用方法は異なる

 一方、攻撃面は4-2-3-1に布陣変更したことで、どのような効果が表れたのか。

 まず、森保ジャパンの調子を測るバロメーターとも言える敵陣でのくさびの縦パスは、想像以上に少なく、日本ペースの前半も6本(成功5本)のみで、アメリカがリズムを取り戻した後半は、わずか2本(成功1本)に激減している。

 たとえば、後半途中に4-3-3から4-2-3-1に布陣変更した6月のチュニジア戦では、それまで4本しかなかったくさびの縦パスが4本から7本に増加したが、このアメリカ戦では、相手の布陣変更の影響を受けたこともあり、その時とは逆の現象が起きていた。

 こうなると、当然ながら、連動した攻撃を見せるのは難しい。ダイレクトパスを3本以上つないだシーンは1度もなく、鮮やかに見せたパス交換でもダイレクトは2本連続が最多で、森保監督がよく口にする「連動、連係した攻撃」は見られなかった。

 また、この試合のクロス本数も、前半は6本(成功4本)、後半は4本(成功ゼロ)と、4-3-3を採用した試合と、ほとんど変化は見られなかった。

 とりわけ、前半だけで退いた右SB酒井宏樹は1本のみで、後半から右SBでプレーした冨安は0本。左SBの中山雄太も前後半ともに2本ずつで、ほぼ毎試合でチーム最多のクロス本数を記録してきた右ウイングの伊東も、前後半で1本ずつしかなかった。

 日本の4-2-3-1が攻撃的に機能しなかったのは、ボール支配率にも表れている。ハーフタイム時のスタッツでは、日本の46%対アメリカの54%。試合終了後は43%対57%と、日本のボール支配率が低下した。

 したがって、シュート数では15本対6本と、大きくアメリカを上回った日本ではあったが、決して相手を圧倒したわけではなかったことがわかる。そこが、この試合でおさえておきたい、もうひとつのポイントだ。

 つまり、今回採用した4-2-3-1の狙いは、ボールを奪ったら縦に速く攻撃するのを、主な狙いとした可能性がある。

 W杯で戦うドイツ戦やスペイン戦で日本がボールを支配する可能性は低いため、ボールを奪ったら、相手が守備陣形を整える前に攻めきってしまったほうが、確かに合理的と考えられる。

 アメリカ戦の4-2-3-1を従来の運用としてとらえるべきか、あるいは、同じ布陣でも新しい運用方法をインストールしたととらえるべきか。

 その答えは、次のエクアドル戦で見つかるはずだ。

(集英社 Web Sportiva 9月26日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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