【鋸南町】災害を後世に伝え、防災意識を高める写真展。自分事として考え、備えよう
鋸(のこぎり)山の南側に位置する鋸南町(きょなんまち)の、道の駅保田小学校内にある「まちのギャラリー」で、「被災5年回顧展」が開かれています。“鋸南町”“被災”と聞いたら、私たち南房総に住んでいる人はすぐに令和元年房総半島台風が思い浮かびますが、他県の方だとどうでしょうか。
関東地方に上陸したものでは観測史上最強クラスの勢力で上陸したといわれ、2019年9月9日に上陸。鋸南町や館山市、南房総市、富津市など、千葉県を中心に甚大な被害を出しました。
あれから5年たった今、当時の様子を写真やデータで振り返る写真展を主催している「鋸南みまもり隊」の山本正大さんに、主催のきっかけなどについてうかがいました。
写真展を主催する「鋸南みまもり隊」て?
去年、道の駅保田小学校のとなりに「道の駅保田小附属ようちえん」がオープンした際、地元の人と外の人をつなぐ交流拠点としてイベントなどを主催するために立ち上がったのが、「鋸南みまもり隊」です。町民主催の団体で、10人ほどの人が活動しています。
都内と鋸南町の2拠点生活を経て移住した山本さんは、今年のはじめ、知人に誘われて団体に入りました。鋸山認定ガイドとしても活躍し、ゴールデンウィークに鋸山にある日本寺をテーマにした写真展を企画・実行。ほかに、盆踊りや餅投げ、ビンゴや花火などのイベントを、「鋸南みまもり隊」で行ってきました。
秋に幼稚園開園1年イベントを行うことになり、そのときにこの写真展をやりたいと思いましたが、ギャラリーの予約が取れずに断念。12月に保田小学校開校記念日があったので、この期間に「被災5年回顧展」をやろうと企画し、10月から資料や写真を集めはじめました。
山本さん自身が撮影した写真に加え、鋸南町役場や防衛省自衛隊、東京電力ホールディングスなどから写真データを取り寄せ、56点を展示しています。鋸南町在住の有志が主体となって、町の復興のために立ち上げた「鋸南復興アクセラレーション」からも、屋根修理や住居のカビを除去する様子など、ボランティア活動中の写真を提供してもらいました。
展示数には限りがあったため、ギャラリー内では納まりきらなかった写真も含めたスライドショーを流しています。
災害の様子を写真で残すことの意味
展示されていた情報によると、鋸南町の停電戸数は5200戸、停電率は88.3%でした。各地区の当時の写真を見ながら進み、東京電力や自衛隊の活動で展示されている写真を前に、足が止まりました。私が住んでいる地区は、当時9日間停電が続きました。あのころ、他県ナンバーの東京電力の作業車が何台も街中を走っている様子を目にしたとき、それらはヒーローそのものでした。自衛隊の方やボランティアの方たちも同様です。遠方からわざわざ来て、手を差し伸べてくれたことに胸が熱くなったときの感情が、当時の写真を前に思い出されます。
ギャラリーを訪れた地域の人たちは、「こんな感じだったよね」と言う人もいれば、自宅がある周辺のことしか目にしていなかった人は、「こんなだったんだね」と言う人もいるそうです。
できるだけ個人宅がわからないように写真を選んで展示しているそうですが、地元の人が見ればやはりすぐにわかるもの。「お前んとこのハウスの写真があったぞ」と近所の人から聞きつけた方が、その後取り壊さざるおえなかったハウスの写真をもらえないかと、連絡をしてきたそうです。
当時はいっぱいいっぱいで、写真で残すということまでなかなか意識が及ばなかった人もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。カメラを向ける気になれず、写真に残せなかった人も多いと思いますが、こうして語り継ぐということを視野に入れると、写真に収めることの重要性を再認識させられました。
都内に住んでいた企画者にとっての、令和元年房総半島台風体験談
山本さんは、ひいおじいさんの別荘が鋸南町にあり、親戚一同100年くらい鋸南町に通っておせわになっていたそうです。社会人になり、週末だけ鋸南町に通う2拠点生活をしている間にコロナ禍に入り、リモートで仕事ができるようになったのを機に、2021年に移住しました。
令和元年房総半島台風のときは、鋸南町に土地を借りていたので、「台風がきているから、行けないね」と父親と話していたそうです。すると、「大変な状況だから来て」と、大家さんから電話が入り、何が大変なのかわからなかったと、当時を振り返ります。
ニュースになっていなかったので、ネットで調べてみると、有名なカフェの屋根が飛ばされている動画を発見。事の重大さを知った山本さんは、支援物資を持って鋸南町を訪れまました。別荘は瓦が吹き飛ばされ、雨水が2階の床から滴り落ちて、1階の畳までぬらしていました。毎週末通って畳を干したり、片付けをしたりして、2020年の3月にやっと屋根を直すことができ、一息つけたといいます。
山本さん「定期的に振り返ることが重要だと思う。このあとも、地域の歴史として伝えていく必要があると思います。大正の東京湾台風は風化して、80代の人が親から聞いてこうだったらしいというくらいしか残っていない。この台風も、何もやらなかったら誰も知らないまま100年たって、同じような台風がきたときにまた、『こんなのきたことない、はじめてだ』って、今と同じになってしまう」
今回の台風をきっかけに災害の歴史を調べ、大正6年の東京湾台風についてはじめて知った山本さんは、同じように風化させないために災害史を解説するユーチューブチャンネルを開設しました。シリーズ第1回は「大正6年の大津波」と呼ばれ、東京湾沿岸を襲った巨大な高潮と暴風雨で歴史に名を残す東京湾台風について、当時の新聞資料をもとに解説しています。
自分事として災害に備えるきっかけに
週末南房総を訪れる人や、道の駅保田小学校へ来る予定がある人はぜひ、1階にある「まちのギャラリー」を訪れてみてください。災害の様子から学び、防災意識を高めて自分や家族、大切な人を守れるように、日頃の備えについて改めて考えるきっかけにしてもらえればと思います。
【基本データ】
名称:被災5年回顧展
日時:~12/26まで開催
9時〜17時
場所:道の駅保田小学校1階まちのギャラリー
(千葉県安房郡鋸南町保田724)