インフレ高騰で分かった英中銀の無力さ=政府のペットとの批判も(上)
ロシア・ウクライナ戦争の長期化でエネルギーや原材料、食料品などが高騰し、インフレが加速する中、政府の石油・天然ガス企業への年間50億ポンド(約8300億円)のウィンドファール・タックス(臨時利得税)の追加増税は新たなインフレ要因になるとの論調と同時に、インフレ加速に無力なBOE(英中銀)の信頼性に疑問を投げかける論調もクローズアップされている。
ウィンドファール・タックスはウクライナ戦争に伴う急激な原油・ガス価格の高騰で大儲けしている石油企業への臨時課税で、英メディアはこう呼んでいるが、政府はウィンドファールでは棚ぼた利益となり、聞こえが悪いとして「エネルギー利得税(Energy Profits Levy)」と呼んでいるものだ。税率25%の追加増税で、原油や天然ガスの高騰の恩恵を受けている石油会社の過剰利得に対する臨時課税措置として5月26日から実施された。
しかし、英紙デイリー・テレグラフのトム・リース(経済担当)とレイチェル・ミラード(エネルギー担当)の両記者は5月27日付で、「ウィンドファール・タックスは石油・ガス生産者の拠点を英領海の北海から東南アジアに移すことになり、英国のエネルギー安全保障に逆行する」と警告する。実際、北海の大陸棚で石油掘削事業を行っているエンクエストは同税が北海での石油資源開発投資に打撃を与えるとして、東南アジア進出の準備を開始している。
両記者は、「エンクエストに英国の領海外への進出を計画させたのは英蘭石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルが同税は向こう10年間の投資を危険に晒すと警告したためだ。課税は今後数年間の北海での石油・ガスの投資環境に不確実性を生み出す」と指摘。政府は鞭の代わりに飴も用意。新規投資に80%の投資税額控除を認めるとしたが、両記者は、「この投資減税は英国で多額の投資をしたいと考えている再生可能エネルギーには適用されない。10年先の計画を立てるには確実性が必要だ」と、問題点が多すぎると主張する。
さらに、同税はエネルギー価格が通常レベルに戻るまで継続される。正常化しても段階的に廃止され、2025年12月末まで3年間続くと見られている。既存の課税と合わせると、石油会社は今世紀最高水準の65%の高税率となる。両記者は、「政府がエネルギー安全保障を強化したいと考え、化石燃料の海外依存を減らすための投資を求めているとき、石油業界への課税は北海投資を低迷させる」と警鐘を鳴らす。
英投資サービス大手ネットウェルス・インベストメンツのチーフエコノミスト、ジェラード・ライオンズ氏(ジョンソン首相の元経済顧問)はテレグラフ紙の5月27日付コラムで、ウィンドファール・タックスはインフレを加速するだけで、政府は増税より減税に集中することにより、経済を支援すべきだと主張する。英国経済は4月からの増税による生計費危機により、4月のGDPは前月比0.3%減と、2カ月連続で減少。OECD(経済協力開発機構)の最新経済予測でも英国の成長率は来年、G20(主要20カ国・地域)で最低となる見通し。
ライオンズ氏は、「(減税と供給問題の解決により)投資を拡大し、市場競争を促進することにより、インフレを引き下げなければならない。政府の政策は全くそうではない」、「英国民はこの1年半、BOEとスナク財務相から増税を含め、一連の自傷行為による政策ミスを受けてきた。今後2年間、インフレの抑制は痛みを伴い、生計費危機は一段と悪化し、経済は厳しさを増す」と警告。
その上で、「ウィンドファール・タックスは経済を支援するには十分ではなく、期待通り、投資は増えない。かえって投資先としての英国の魅力を損なうだろう。なぜなら、企業は将来、自分たちが利益を上げた場合、ウィンドファール・タックスの対象にされかねないと恐れるからだ」という。(『下』に続く)