Yahoo!ニュース

日銀による国債買入減額の行方を占う

久保田博幸金融アナリスト
「日本国債の保有者」日銀の資金循環統計を基に著者作成

 9日から10日にかけて日銀において「債券市場参加者会合」が開催された。定期的に開かれているが今回は臨時の会合との位置付けとなる。

 9日は銀行等グループと証券等グループ、そして10日はバイサイドグループと分けられて開催された。

 9日には「債券市場参加者会合」(第20回)金融市場局説明資料が日銀のサイトにアップされた。

「債券市場参加者会合」(第20回)金融市場局説明資料

https://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond_list/mbond240709.pdf

 注目は減額される相応の「額」となる。これについては意見がバラバラとなっていたが、これはある程度予想されていたことである。このためこの資料から具体的な数値を導き出すのは難しい。

 最終的に減額の額を決定するのは日銀ではあるが、その額を決定するにはいくつかのポイントがある。

 ひとつのポイントとしては、2013年4月の量的・質的緩和以前の数値となる。

「オペレーション(月次公表分)一覧」日本銀行

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/fm/ope/m_release/index.htm

2013年3月の日銀による国債買入額は、1兆7400億円

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/fm/ope/m_release/2013/ope1303.pdf

 この数値がひとつの目安となる。ただし国債の発行量の違いなどもあり、2兆円規模というのはあくまでひとつの目安となる。

 そしてもうひとつのポイントが、保有者別の国債保有額となる。異次元緩和前と直近のそれぞれの国債の保有者は下記となる(日銀資金循環統計を基に筆者が算出)。

2013年3月末 国債残高は807兆1421億円

民間預金取扱機関(銀行)、314兆9018億円、39.0%

民間の保険・年金、222兆3979億円、27.6%

日本銀行、93兆8750億円、11.6%

公的年金、62兆9924億円、7.8%

海外、35兆2469億円、4.4%

投信など金融仲介機関、32兆1704億円、4.0%

家計、24兆2126億円、3.0%

財政融資資金、9034億円、0.1%

その他、20兆4417億円、2.5%

2024年3月末 国債残高は1082兆0506億円

中央銀行(日銀)、576兆1836億円、53.2%

保険・年金基金、229兆2653億円、21.2%

預金取扱機関(銀行)、100兆5589億円、9.3%

海外、70兆1344億円、6.5%

公的年金、54兆4970億円、5.0%

家計、13兆5410億円、1.3%

その他、37兆8704億円、3.5%

 この数値も目安となる。この数値からみて、日銀が落とすべき残高は2013年3月から2024年3月にかけて増加した部分の280億円相当となるとの見方もできよう。

 そしてそれをカバーできるのは民間預金取扱機関(銀行)となる。

 2013年3月末と2024年3月末では200兆円を数値上ではカバーできる。ただし、今後はIRRBB規制などもあり、すべてをカバーし切れるとは考えづらい。それでもカバーする主体が銀行になることもたしかである。

 10日付のブルームバーグの記事によると、メガバンクを中心に日銀に積極的な減額を求める意見が出ていたとある。

 三菱UFJ銀行と三井住友銀行、みずほ銀行の3行のうち、1行が早い段階で大きく減額すべきだと発言。別の1行は最終的に月間1兆円への減額を主張し、もう1行は3兆円に減額すべきだと述べた(10日付ブルームバーグ)。

 民間預金取扱機関(銀行)においてこの3行は突出して大きな存在となっているが、3行ともに積極的な姿勢となっていることから、減額は少なくとも3兆円規模となるのではないかとの見方もできる。

 これにより時間は掛かるが、200兆円規模で日銀から民間預金取扱機関(銀行)へ保有額の移転も可能となるのではなかろうか。

 もうひとつ忘れてはいけないのが財務省の存在である。国債の担い手が変わるとなれば、国債発行の在り方にも変化が生じることが予想される。今後も安定的な国債発行をするためには、日銀の国債買入減額による影響も考慮する必要がある。

 個人的には2013年3月水準の月額2兆円規模程度までの減額が望ましいとみている。1年掛けて月額3兆円程度まで減額し、そのあと状況を踏まえ、残り1年掛けて月額買入を2兆円程度までに減額するのではないかと予想している。

 それと「指値オペ」は早期に取り払ってほしい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事