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「出戻り社員」がすぐ辞めた3つの理由 終わらない採用担当者の苦悩

横山信弘経営コラムニスト
出戻り社員の理想と現実(写真:イメージマート)

「せっかく戻ってきてくれたのに……」

ある企業の採用担当者が嘆いていた。出戻り社員を迎え入れたものの、わずか半年で再び退職してしまったのだ。

近年、一度退職した社員を再び雇用する「出戻り採用(アルムナイ採用)」が増えている。即戦力として期待できる上、社風も理解しているためスムーズに職場に馴染めると考えられているからだ。しかし思わぬ落とし穴もある。出戻り社員の中には、すぐに辞めてしまう人もいるのだ。

なぜ彼らは再び会社を去ってしまうのか。その理由とは? 今回は出戻り採用の実態や、出戻り社員がすぐ辞めてしまう理由を詳しく解説する。人事担当者や経営者の方々にぜひ最後まで読んでもらいたい。

■出戻り採用(アルムナイ採用)とは?

出戻り採用とは、以前に自社で働いていた元社員を再び雇用することだ。「アルムナイ採用」とも呼ばれる。「アルムナイ」は卒業生を意味する言葉で、かつての社員を「企業の卒業生」に例えたもの。

近年、この出戻り採用を積極的に行う企業が増えている。エン・ジャパンの調査によると、67%の企業が出戻り社員の採用経験があるという。特に大企業ほどその割合が高く、従業員1000人以上の企業では90%に達する。

出戻り採用が増えている背景には、人手不足や働き方の多様化があるだろう。少子高齢化で労働力人口が減少する中、即戦力となる人材を確保することは企業にとって重要な課題だ。また転職が当たり前となった現代社会では、一度退職した社員の再雇用に対する抵抗感も薄れてきている。

■出戻り採用3つのメリット

出戻り採用には、企業側にとって以下のようなメリットがある。

(1)即戦力として期待できる

(2)採用コストの削減

(3)新しい視点や知識の獲得

まず第一に、出戻り社員はその企業での勤務経験が十分にある(おそらく十分に経験がない人を出戻り採用する企業は少ないだろう)。業務内容や社風をよく理解している。そのため一から教育する必要がなく、すぐに戦力として活躍できる可能性が高い。

第二に、出戻り社員は、採用コストがかからない(リファーラル採用と同じ)。人となりも分かっているため、採用のミスマッチも防ぎやすい。

第三に、出戻り社員は、他社での経験を積んでいることが多い。いったん前の職場を客観的に見つめた時期があるのだ。そのため新しい視点や知識を持ち込んでくれる可能性がある。これは組織の活性化につながる大きなメリットと言える。

■出戻り社員の事例とすぐ辞めた3つの理由

しかし出戻り採用にはリスクもある。せっかく戻ってきてくれた社員が再び退職してしまうケースだ(しかも意外とすぐに!)。なぜ彼らはすぐに辞めてしまうのか。主な理由として以下の3つだ。

(1)期待と現実のギャップ

ある商社でAさんは、5年間勤めた会社を一度退職し、2年後に出戻り転職した。しかしわずか4か月で再び退職してしまった。理由は「思っていた仕事内容と違った」というもの。Aさんは他社で経験を積んで十分に成長したと感じており、以前よりも責任のある仕事を任されると期待していた。ところが実際は昔よりも責任のない業務内容を任されたのだった。

この事例から分かるのは、出戻り社員と企業側の期待にズレがあることだ。出戻り社員は以前より成長した自分を示したいと考えるが、企業側は「以前と同じように働いてほしい」もしくは「実力が落ちていないか、いったんチェックさせてほしい」と思っていることがある。このギャップが、早期退職につながりやすいのだ。

(2)職場環境の変化への不適応

結婚・出産を機に退職し、6年ぶりに元の会社に戻った女性Bさんは、半年後に「ついていけない」と言って退職した。6年の間に会社のシステムや業務の進め方が大きく変わっており、その変化についていけなかったのだ。

このように長期間職場から離れていた場合では、変化に適応できないことがある。「同じ職場からだ大丈夫だろう」と思っていても、特にデジタル化が進む現代では、数年で業務環境が劇的に変わることも珍しくない。

(3)人間関係の変化

2年間勤めた物流会社を一度退職し、3年後に戻ってきたCさんもすぐに辞めてしまった一人だ。せっかく出戻り転職したのに、3か月後には「居心地が悪い」と言って退職したのだ。以前の同期や後輩が、Cさんよりも上の立場になっていたからだという。

出戻り社員の中には以前と同じような人間関係を期待する人もいる。しかし実際には人間関係も変化している。特に以前の部下や同期が上司になっているケースでは、心理的なストレスを感じやすい。

■出戻り社員の採用プロセスを見直そう

出戻り採用は即戦力の確保という点で魅力的な選択肢だ。しかし単に「以前働いていたから大丈夫」と安心してはいけない。

採用担当は、出戻り社員特有の課題があることを認識し、採用プロセスにおいて慎重に「認識のズレ」がないかを確認しよう。受け入れる職場とのコミュニケーションも十分にとる必要がある。業務環境の変化に対応できるよう、丁寧な研修を実施することも効果的だろう。

出戻り採用を成功させるカギは、「新しい社員を迎える」という意識を持つことにある。そうすることで出戻り社員の能力を最大限に活かし、組織の成長につなげることができるはずだ。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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