多発する“逆上型”交通トラブル どう対応すればよいか
今年6月、東名高速下り線で起こった追突死傷事故。死亡した萩山さん夫妻の車の進路を妨害した石橋和歩容疑者(25)が、4か月たった今月、自動車運転死傷処罰法違反などの疑いで逮捕されました。
本件事故が発生する1か月前にも、一般道で3台の車に対して同様の悪質な妨害運転をしていたことが明らかになっています。
実は、「交通事故」とは別の、道路上での「交通トラブル」は、かなりの頻度で起こっており、中には殺人や傷害事件にまで発展しているケースもあります。
最近の報道を見ただけでも、
●愛知・知立市 交通トラブルの傷害容疑で聴取中に逃走 13時間後に逮捕(2017.10.8 名古屋テレビ)
●交通トラブルで口論、互いに「あおられた」 しがみついた男性を20メートル引きずる…殺人未遂容疑で三重県の男を逮捕(2017.5.30 産経新聞)
●通行をめぐるトラブルから歩行者の男性をトラックでひき殺す(2014.11.16 共同通信)
といった記事が次々と出てきます。
昨年の夏には、神奈川県の平塚市で18歳の男子高校生が交通トラブルの末に殺害されるという痛ましい事件も発生しました。
神奈川新聞によると、被害に遭った男子高校生はバイクで走行中、ワゴン車に追突されて転倒。何度も轢かれた挙句、雑木林に放置されたそうです。出頭した犯人は、
「バイクに抜かれたときに目が合い、頭にきて追いかけた」
といった趣旨の供述をしているそうです。
いずれの事件も、「あおられて腹が立った」「ライトがまぶしかった」「目が合って頭に来た」といった、些細な、また自己中心的で身勝手な理由が引き金となっています。
東名高速で死亡した萩山さん夫妻の場合も、直前のパーキングエリアで違法な駐車をしていた石橋容疑者を注意しただけでした。
萩山さん夫妻の車に同乗していた2人の娘さんの目撃証言や他車のドライブレコーダーの映像によって、この事故の原因を作った容疑者逮捕につながったことは、時間はかかったものの、唯一の心の救いとなったはずです。
逃げる犯人、「死人に口なし」の悔しい現実
私はこれまで、多くの交通死亡事故を取材してきました。その中には、第三者の関与が想定されながらも、確たる証拠がないために「単独事故」として処理されたケースが少なくありませんでした。
ちなみに、朝日新聞(2017.10.12)の記事によれば、石橋容疑者は当初、警察の調べに対し、「(亡くなった萩山さん夫妻の車に)後ろからライトを点滅されたので、止まれということだと理解して止まった」と話し、容疑を否認していたとのこと。もし、目撃者が誰もいなければ「死人に口なし」のまま、この供述が通っていたかもしれないのです。
私自身も過去にバイクで走行中、他車から危険な幅寄せなどの妨害を受けたことがあります。クルマの窓から空き缶が飛んできたこともありました。ひょっとすると、自分でも気づかぬうちに相手の車にそうさせる原因を作っていたのかもしれません。でも、故意に威嚇したり、妨害する行為は論外です。
あのとき、そのはずみで転倒して命を失ったとしても、その直前に妨害行為をした車は何食わぬ顔でそのまま走り去り、自分の運転ミスによる単独転倒で処理されていたでしょう。
こうした経験から、私は第三者による意図的な妨害運転が引き金となりながらも、結果的に単独事故で処理された事故はかなりの数に上るのではないかと見ています。
ある遺族は、高速道路をバイクで走行中に転倒して亡くなった息子さんの死について、今も「他車に接触されたのではないか……」という疑念を持ち続けておられます。
バイクに残された傷に、転倒時とは別の接触痕があったからです。
しかし、真実は闇の中です。
もし、”逆上ドライバー”にからまれたら?
では、万が一、逆上したドライバーにからまれた場合はどうすればよいでしょうか?
今回の事件をきっかけに、改めて家族や事故に詳しい職種の方々とも話し合い、対策を考えてみました。
まず、逆上して違法な行為で威嚇してくるような相手からは、できるだけ離れるべきです。飲酒や薬物で正常な思考ができなくなっている可能性もありますので、まともに相手にすることは危険です。
車を無理やり停められ、車外へ出るように促されても、内側からロックをかけ、絶対にドアや窓を開けてはいけません。
危険行為が目に余り、車内で携帯電話が使用できる場合は、早めに警察に通報しましょう。
また、今回の事件のように高速道路であおられた場合は、周囲の車のスピードも出ているため、二次衝突の危険があります。すぐにハザードを出して後続車に異常事態を知らせ、できるだけ左側の第一車線をキープし、逆上している相手を先に行かせましょう。
自分の車の性能やテクニックの方が高いと過信し、挑発に乗って競い合ったり、あおってくる相手から逃げようとスピードを出してしまうと、こちらが大事故の加害者になりかねません。
また、急激な減速によるノロノロ運転で前方をふさがれたり、停止された場合も、まずはハザードを点灯させ、後続車による二次的な追突事故を防ぎます。そのうえで、逆にこちらが相手に追突しないように車間を十分取りながら、路側帯側に退避すべきでしょう。
近くにパーキングエリアやコンビニがある場合は、できるだけすみやかにそこへ移動しましょう。
駐車場には防犯カメラが設置されていることが多く、多くの人の目があれば相手の行動にも抑止力が働くはずです。
人気のないところは、できるだけ避けたいものです。
危険行為は可能な限り動画で撮影し、通報する
今回の事件を見ても分かる通り、交通ルールなどお構いなしの危険行為は、同じドライバーが何度も繰り返す傾向があります。
危険行為や違反行為を発見したら、日頃からできるだけ写真やビデオ、ICレコーダーなどで記録し、同様の犯行を食い止めるためにも、その証拠を添えて警察へ通報してください。
警察がすべての案件を捜査してくれるとは限りませんが、届けなければそのままの状態が続いてしまいます。
また、こうした悪質ドライバーは居住地域でも多くの人に違法行為を目撃されている場合が多いので、複数の声を集め、地域として対策することも大切です。
特にドライブレコーダーは、事故が起こらなくても必ず役に立ちます。ぜひ装備しておきたいものです。
悪質ドライバーによる被害は他人事ではありません。本来は免許を与える段階で適性を厳しくチェックしてもらいたいものですが、まずは常日頃から最悪の事態をシミュレーションしておくことが大切です。