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【泉南市】本だった「ノート」が素敵… “廃棄物”を紙にすき込む 最高にハートフルな『工場見学』が人気

旅する日々の記憶と記録。matka08ライター(泉南市・泉佐野市)

まちゼミで即満席となる「工場見学」があるのをご存知ですか?
どんな魅力があるのか、ずっと気になっていました。
薄着で出かけられるこの季節、ふらっと「オトナの工場見学」に出かけてみました。


「山陽製紙株式会社」

「山陽製紙株式会社」のギャラリーとオフィスが入る建物
「山陽製紙株式会社」のギャラリーとオフィスが入る建物

今回ご紹介する会社は、1957年の設立以来、ここ泉南市で半世紀以上「再生紙」に携わってきた“再生紙づくりのプロフェッショナル集団”「山陽製紙株式会社」

シワ加工(クレープ加工)を施した工業用クレープ紙(*)の製造のほか、廃棄されてしまう製造副産物などを紙にすき込みアップサイクルした「オーダーメイド再生紙」など、限りある資源を活用し、循環型社会の実現へ向けて日々取り組む小さな製紙メーカーです。

*山陽製紙が製造している「工業用クレープ紙」は、主に電線や鉄鋼の保護などに使用される「包装用クレープ紙」と国内シェア90%以上を占める「製袋用クレープ紙」があります。

今回、工場を案内してくださるのは「山陽製紙株式会社」営業部 開発室 松崎 英樹さんと企画開発部 CSR室マネージャー 武田 知子さん。

小学生ぶりの「工場見学」に緊張するわたしを穏やかな表情で癒してくれました。

(写真左から)「山陽製紙株式会社」企画開発部 CSR室マネージャー 武田 知子さん、営業部 開発室 松崎 英樹さん
(写真左から)「山陽製紙株式会社」企画開発部 CSR室マネージャー 武田 知子さん、営業部 開発室 松崎 英樹さん

「紙」を使って循環型社会のためにできることって一体どんなこと? と疑問に感じませんか?
たとえばそれは、オフィスで不用なコピー用紙を専用回収袋「PELP! BAG(ペルプバッグ)」に入れて山陽製紙に送ることで、今まで捨てられていた紙が再生紙「PELP! PAPER(ペルプペーパー)」として生まれ変わったり、捨てられるはずの“廃棄物”を紙にすき込み、新しい命を吹き込んだり…そんなこと。
なんだか聞いているだけでもとても優しそうな会社です。

オトナの工場見学

それでは工場へ行ってみましょう。
いきなりの“ヘルメット登場”に「そうそう、工場見学ってこんな感じだった!」と子どもの頃を思い出します。

「再生紙工場」も巨大な装置や、機械の真横を通ることもあるので、万が一に備えてヘルメット装着は必須です。

ギャラリーを出て左へ。少し歩くとその先に工場があります。

到着して まず目に飛び込んできたのは大量の古紙。
全国の古紙問屋から週に10トン届くという古紙は、1かたまり500~1000kgもあるとのこと!

“古紙タワー”の迫力にびっくり!
“古紙タワー”の迫力にびっくり!

山陽製紙でつくられる紙の主原料は、ここに積まれている「段ボール」や「クラフト紙」といった古紙たち。
無造作に置かれているようにも感じましたが、これこそが一番大切な資源なのですね。そして、視線の先に大きくそびえ立つ装置は、なんと設置まで10年を要したという「3億円の排水処理設備」。

紙をつくるためには多くの水が必要(1日2000t)なため、使用後は この排水処理設備で浄水し、それぞれの場所へ帰してあげるそうです。
ちょっと、ドキドキしますが近づいてみましょう。

このタンクに工場で使用された排水をポンプで送ります。

汚れはペーパースラッジとして沈殿させて下部のパイプより取り除き、タンクの上部からあふれ出た水は配管を通り次の設備に送ります。
一部の水はパルパー(*)にて使用しています。

*「パルパー」とは、古紙などの再生原料を製紙用の繊維に溶解する機械のこと
そして、ここで大事な役割を担うあるものに注目。

「曝気槽(ばっきそう)」と呼ばれるこの設備で、バクテリアが不純物を食べてくれることで、水は綺麗になります。

そのバクテリアは、有機物がないと生きられないので、なんと工場長が自らお休みの日にドッグフードをあげているそうですよ!

本当だ…
本当だ…

そして、この「加圧浮上装置」で水に空気泡をあて、繊維物を浮上させて水面であくを取ります(煮物のあくとりのイメージ)。その後、必要に応じて砂と活性炭のろ過装置を通り過ぎ、ようやくきれいな水になるのだそう。

製紙業界では、多くの水、そして薬品も使用するため、工場排水をそのまま川へ排出することはできません。山陽製紙では、再生紙づくりに不可欠な水は、男里川の地下水資源を利用し、この高度排水処理設備によって、既存の生態系を破壊しない、魚が住めるレベルまでの浄化処理をしています。
“優しさ”に3億円を投資した、といっても過言ではないですね。
と、ここまでは再生紙が出来上がった後の「浄水」の工程でした。
「工場見学」では、はじめにこちらを案内していただくため、先にご紹介させていただきました。

次に案内していただいたのが古紙などの再生原料を製紙用の原料に溶解する機械「パルパー」。ここからが、古紙を再生紙にしていく工程です。

この機械で、古紙を水と一緒に攪拌し、高速回転するローター(羽)で古紙を細かく繊維化していきます。近くで見ると凄い迫力です!
ちなみにパルパーの底には小さな穴があいていて、穴より大きな異物はここで取り除かれるそうです。

次に繊維たちは、貯蔵タンクで休ませられ、除塵設備(ジャボロファイナー)を通って異物が取り除かれていきます。

「チェストタンク」
「チェストタンク」

「ジャボロファイナー」「ポーチャー」
「ジャボロファイナー」「ポーチャー」

次に シクナー(網が張られたシリンダー)にて除塵された繊維が洗浄され、シリンダーに乗せられ絞られていきます。

「シクナー」
「シクナー」

その後、繊維たちはまた水に戻され、染料や薬品を添加しながら濃度調整を行っていきます(ポーチャー)。

「DDR(叩解機)」
「DDR(叩解機)」

泳いできた繊維たちはこの「DDR(叩解機)」によって、毛羽立たされ、繊維同士がよりくっつきやすくなるように調整されます。

次は、いよいよ紙になっていく工程です!

「バット&シリンダー」という機械で、水槽に溜まった原料をすくい上げてシート状にしていきます。
このとき、毛布に乗せられながらプレスされます。
その後、紙に刃をあて、シワをつくり、「クレープ紙」にしていきます。

紙の表面にシワができています。
なぜ、わざわざクレープ加工を施すのか、その理由を武田さんに尋ねてみました。

「クレープ加工をするのは、引張強度や緩衝性をつけるためです。使用用途によってシワの高さや伸び率を変えています。製袋用(せいたいよう)クレープ紙では、それを使う過程で縫製を行いますが、シワがあることによって糸穴の破れを防ぎます。包装用クレープ紙では、シワがあることによって紙が伸びるので包帯のようにドーナツ系のものでも隙間なく巻き付けることができます」。

なるほど、シワを施すことで 利用範囲の広い「再生紙」になるのですね。
ちなみに「製袋用クレープ紙」は、みなさんもよくご存じの米袋などの口をとじる紙として使用されています。

重たい米袋の中身がこぼれることなく運べるのは、このクレープ紙のおかげだったのですね。
山陽製紙のギャラリーでは、他にも様々なアイテムに生まれ変わった「再生紙」を鑑賞することができます(一部の商品は購入も可能)。

“廃棄物”に新たな命を

ギャラリーには、工業用クレープ紙「crep paper」を活用した「ピクニックラグ」、「PELP!」や「SUMIDECO(*)」の「ブックカバー」「しおり」など、
“素敵”に生まれ変わった商品がたくさん並んでいました。

*「SUMIDECO」とは、梅の種などの製造副産物を炭化し、紙にすき込むことにより、炭の持つ優れた機能を生かした再生紙ブランドのこと

crep「ピクニックラグ」
crep「ピクニックラグ」

SUMIDECO「ブックカバー」
SUMIDECO「ブックカバー」

SUMIDECO「しおり」
SUMIDECO「しおり」

これらの商品が、捨てられるはずのあの “大量の古紙たち” から生まれたと思うと感慨深いものがあります。アイテムのひとつ一つが、新しい命を与えてもらって どこか生き生きとしているようにも感じます。

環境負荷の大きい製紙業界において、生産工程にも配慮しつつ 使用した紙や古紙を原料または原料の一部として再利用し 紙をつくるということは、循環型社会への取り組みの一歩でもあります。
そしてこの流れは、人の想いごと運ばれているようで、最高にハートフル。
手にとったアイテムが重く感じられるのは、きっと関わった人たちの想いが伝わるから。お金以上の価値を感じずにはいられません。

こちらのコーナーに並んでいるのは、廃棄されてしまう製造副産物を、紙にすき込み商品化したもの(山陽製紙は紙にすき込むところまでの仕事を担っています)。

商品を大量生産・大量消費・大量破棄する傾向がある企業においては、それぞれの業種で循環型社会への積極的な参画が求められています。
廃棄されるものを紙にすき込み、新たな付加価値を与えて生まれ変わらせることで、廃棄物の量を減らし、循環型社会に貢献することができます。

たとえば、こちら。

“賞味期限切れ”や“端っこ”など、廃棄されてしまう「ういろう」を紙にすき込み商品の紙箱に。

写真ではわかりづらいのですが、所々に色むらや斑点のようなものがあります。
この箱に「ういろう」がすき込んであるなんてびっくりしませんか?
そして、こちらは「ロスフラワー」をスケッチブックに生まれ変わらせた商品。

お祝いごとには欠かせない「花束」も、その裏では多くの花が廃棄されている現状です(市場に出回らない、規格外など)。
まだ鑑賞できるのに廃棄されてしまう花は「ロスフラワー」と呼ばれ、対策の必要性が叫ばれています。
そんな花に、こんなカタチで第二の人生が訪れるなんて素敵です。

他にも、広島の原爆ドームに寄せられた「折り鶴」の一部がハガキに。
値段がつかなかった「誰かの本」がノートに。
芝生やお茶をすき込んだ紙は、ほんのり香りが残っていて物語を感じられたり。

どこまでも温かい取り組みの一端を担う「再生紙工場」は、やっぱり最高にハートフルでした。

「折り鶴」がすき込まれた紙はハガキに
「折り鶴」がすき込まれた紙はハガキに

誰かの「本だったノート」が素敵!
誰かの「本だったノート」が素敵!

よく見ると本だった形跡も残されている。「本だったノート」の他に「雑誌だったノート」「漫画だったノート」も
よく見ると本だった形跡も残されている。「本だったノート」の他に「雑誌だったノート」「漫画だったノート」も

「芝生」がすき込まれた紙は香りもいい
「芝生」がすき込まれた紙は香りもいい

*廃棄されるものを紙にすき込む時は、「パルパー」と「ポーチャー」の工程で古紙、水とともに攪拌します。

「再生紙工場」を見学して感じたこと

日々の生活の中で、プラスチックごみへの意識は高くなってきたものの、身の回りの「紙」について考える機会がなく、反省と同時に生活を見直していきたいという気持ちになりました。
たとえば、日頃 我が家で実践していることといえば チラシでゴミ箱を作ったり、包装紙で封筒を作ったり。なんとなく便利だからやっていたことだけど、そんなことも「循環型社会」への取り組みの一つだったのかも? と思えたことも大きな収穫でした。
小学生の頃に教えてもらっていたのに、オトナになったら忘れてしまっていることってありませんか? 「オトナの工場見学」は、そんな純粋な気持ちを呼び起こす場としてもおススメです。

山陽製紙の「工場見学」の魅力。それは、ものすごく身近なことであるけれど、意識が追いついていないようなことを目の前で見せてくれる迫力やその内容の温かさ。そんな風に感じました。

見学イベントでは、即満席になる「工場見学」ですが、平時もおこなっているので
暖かい日にお出かけしてみてはいかがでしょうか?(要予約) 
ギャラリーでのお買いものも楽しいですよ。

【基本情報】
会社名:「山陽製紙株式会社」
公式ホームページ(外部リンク)
住所:泉南市男里6-4-25
Tel:072-482-7201
駐車場:あり
取材協力 「山陽製紙株式会社」 営業部 開発室 松崎 英樹 様、企画開発部 CSR室 マネージャー 武田 知子 様
*記事内容は取材当時のものです。工場見学はお電話での申し込みが必要です。

ライター(泉南市・泉佐野市)

なんでもない日々を旅するように暮らす日常写真家。「ローライ35s」という小さなフィルムカメラでささやかな日常を記録しています。私たちの町のちょっとうれしくなるあんなことこんなこと。皆様の日常がもっともっと楽しくなりますように。

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