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日本代表、遠征テストマッチ全敗も「成果出せた」と言える理由。来年の展望は?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
藤井NTDが「MVP級」と称賛したディアンズ(写真:つのだよしお/アフロ)

 冒頭はサッカーの話題だった。

 会見前日にあたる日本時間11月23日の夜、日本代表が予選1次リーグEの初戦で強豪のドイツ代表を2—1で破っていた。

 ラグビー日本代表の藤井雄一郎ナショナルチームディレクター(NTD)は、翌年秋に挑む自分たちのワールドカップを見据える。

オンラインで会見する藤井NTD(スクリーンショットは筆者制作)
オンラインで会見する藤井NTD(スクリーンショットは筆者制作)

「おはようございます。ヨーロッパの方にまで取材に来ていただいた方、ありがとうございます。まだ時差ボケも治ってないんですが、よろしくお願いします。

 おそらくきょうはもう、(世間は)サッカー一色でラグビーどころではないと思うんですけども。きのう、サッカーの試合を観て。最後までしっかりと食らいついて、ああいう戦い方(逆転勝ち)で止めを刺した。それは私たちも目指しているところで…」

 この日のオンライン会見では、直近の遠征を総括した。

 2019年のワールドカップ日本大会で初の8強入りを果たした現体制のジャパンは、今秋、9月上旬からの候補合宿を皮切りに約3か月間の国内外ツアーを実施していた。

 このほど取材に応じた藤井NTDは、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチとは現役時代からの仲だ。

 自ら指揮官を務めたことのある宗像サニックス(今年5月限りで活動停止。本稿表記は最後の名称)でともにプレーし、ジョセフが日本代表の指揮官となって約1年半後の2018年1月以降から代表関連の活動へ携わっている。

 指導者としては限られた戦力ながら、機動力と運動量を強みに強豪から白星を奪取。現職に就いてからは、親交の深い指揮官と選手との間に入ったり、国内の各クラブとの各種交渉の窓口に立ったりしている。直截な言い回しでおなじみ。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「今回、オールブラックス戦から始まり、テストマッチを3試合(後述)。ぎりぎりまで(わずかな)点数で追い上げて、最後、いい形で終わらせたいという目標で頑張っていた。約3か月間、若手を含めて本当にハードな練習を重ねた。成長した選手もたくさんいます。自分たちのなかでは——結果は出なかったけど——ああいう形(接戦)を続けていくことで、『ひっくり返す(逆転する)ための最後の詰めをどうするか』を考えられるテストマッチになったんじゃないかと思います」

 10月1日からはJAPAN A名義で対オーストラリアA・3連戦を国内でおこない、1勝2敗。同月29日には、東京・国立競技場でオールブラックスことニュージーランド代表に31―38と接近した。

オールブラックス戦のリーチ マイケル。ツアー中は大車輪の活躍
オールブラックス戦のリーチ マイケル。ツアー中は大車輪の活躍写真:つのだよしお/アフロ

 以後は欧州へ渡り、ロンドンのトゥイッケナムスタジアムで来年のワールドカップでぶつかるイングランド代表に13―52と大敗。激しい圧力に屈した格好か。

 ただ藤井NTDは、ツアー最終戦となった20日のフランス代表戦(17―35で敗戦)と絡める形でこう述べた。

——イングランド代表戦。まずスクラムで苦しみました。

「あの時は何人かの選手の出来が悪かったというところです。スクラムに関しては問題視してないです」

 さらに藤井NTDは、当日のレフリングに疑われる点があったと強調する。

「イングランドのプレッシャーと、ホームということで、すごい観客(約8万人)のなかで、飲み込まれたわけではないと思いますが、それをしっかり修正してフランスに挑んだ。ここでも出なかったですし、勝っていないので『納得』とはいかないですが、自分たちのなかでは『あと少し(で勝敗が入れ替わる)』と、それなりの成果を出せたと思います。

 点数でずっと食らいついていく(のを目指した)。接点でも圧力を受けるのは最初からわかっていました。イングランド代表戦の時は、若干、若いレフリーだったので、こっちから10クリップほど確認の『これはどうなんだ』というもの(プレー動画)を送ったら、8つくらいは間違えていたという回答が向こうから返ってきた。フランス代表戦ではそこまで接点で修正することなくやってきたことを出せた」

——イングランド代表戦後に出した「確認」とは。

「まずは山中のオフサイド。まったく前に出てないのにオフサイドを取られた。他にはモールの一発シンビンで認定トライとか。あとはオフサイドが何回も…。スクラムも相手の肘が下がっていたのにこっち(日本代表の反則)を吹かれたり。

 ただ(担当したのが)若いレフリーだった。これは選手も一緒だと思うんですが、約8万人の観衆のなかで(緊張はする)。

 あのなかでやることは(完全にアウェーの状況で日本代表が試合をすることは当面)ない。それにトゥールーズ(本大会)では、若干、日本代表のファンが多いと思う。逆にイングランド代表がやりにくくなるんじゃないかと感じます(イングランド代表戦はニースで開催予定)。

 今回は特に(判定への疑義が)目についたので、それで『これは実際どうなのか』と。それと滑川が一緒にいてくれていて、彼がすごくいい仕事をしてくれた」

 2連戦で先勝したほうが次戦で戦いづらくなるのは、勝負ごとにおける一般論か。

 また、ここで話題に挙がった滑川剛人氏は、トヨタヴェルブリッツの現役選手だった昨季以前から笛を吹き始めていた日本協会A級公認レフリーだ。

 今回の代表活動に帯同し、練習中の笛を吹いたり、各種ビデオクリップの作成をしたりと尽力していた。少なくとも、藤井NTDが先方から「8つ」の誤りを認められたと語るまでの過程で重責を担ったのは確かだろう。

 続くフランス代表戦では一時、17―28と食らいついたものの、総じて攻め込んだ先でのエラー、キックの蹴り合いで後手に回ったことが響いた。

——裏側のスペースをキックで突かれたが。

「(相手は)空いているところを攻めてくる能力を持っているので。あそこを埋めたらどっかが開いてくる。それは、その時に対応していくと思います」

——試合を総じて振り返ると。

「もちろんフランス代表は世界で1、2番のチームなのですが、くらいついていけた。ただ、ゴール前まで行ってなかなか点に繋がらなかった。あの辺をどうしていくかが課題かなと思います」

——「敵陣22メートルエリアでの決定力」。どう上げるか。

「ボールのキープ力、キープ時間…。あと、結構、(判定されていない)相手の反則も多かったと思うんですけど…。

 あと、イングランド代表戦も、フランス代表戦も、相手のホームだったので、サインプレーがかなり見られているんですよね。3回、動かして捕るラインアウトがそのまま捕られていたので。何らかの形で情報が(相手に)行っているのかなという感じ。これがワールドカップになるとお互いホームではない(予選期間中、開催国のフランス代表との対戦はない)。そこ(情報が洩れる)の心配がなければ、サインプレーで点が取れるとは思っています」

 欧州での情報漏洩への疑いに関しては、2021年夏にも発言していた。

ポールないグラウンド、サインプレー丸裸。日本代表、過酷な欧州遠征で得た課題。【ラグビー旬な一問一答】

 トニー・ブラウンアシスタントコーチが考案する絶妙なサインプレーは、チームの命綱のひとつ。フランス代表戦の後半23分のトライ時のような動きを、本番でいくつ見られるか。

――開催会場のスタジアム・ド・トゥールーズは、ワールドカップの日本代表のゲームが2度、開かれる場所でもあります。

「ハイブリッドかどうかわからないくらい芝の状態がよくなかったけど、あれもハイブリットということで。芝云々は置いておいて、あそこでできたことは大きかったと思います」

 ちなみに現在の世界ランクは日本代表が10位であるのに対してニュージーランド代表、イングランド代表、フランス代表はそれぞれ3位、5位、2位。

——改めて、ツアーを総括して。今回は試合に出られない選手も多かったが。

「若い選手では李承信、下川甲嗣、ワーナー・ディアンズはゲーム時間を得て、それなりのプレーをしてくれた。ワーナーに関してはMVP級の活躍。オーストラリアA戦からの計6試合で、スーパーラグビー(国際リーグ)に1シーズン、行ったくらいの経験は積めたんじゃないかと思っています。

 コロナ禍——海外でコロナなんて言っているチームはほとんどないのですが——で、怪我や色んなこと(への対策)で、交代の(控え)選手を多めに連れて行きました。(試合前のトレーニングでは)相手のサインプレーなどを出られなかった選手がやってくれて、短い期間ながら強度の高い練習ができた。試合に出られなかった選手もどういう状況で試合をしたかをわかったと思うし、それなりの経験はできたと思っています」

下川はフォワード第3列の競争を激化させた
下川はフォワード第3列の競争を激化させた写真:つのだよしお/アフロ

スタンドオフの争いに立候補した李(写真は7月)
スタンドオフの争いに立候補した李(写真は7月)写真:西村尚己/アフロスポーツ

——控え組を対象にした練習試合をする考えはなかったか。

「それほど人数はいない。試合は、難しいかなと。やはり、15人だけで試合はできないですし、そこで誰が怪我するかもわからないです。それに1週間ごとに試合(テストマッチ)が来るので」

 現在チームは解散し、選手は各所属先へ戻った。12月17日からの国内リーグワンでしのぎを削る。

 リーグワンの期間中には、一部選手のプロテクトも要請しているようだ。

 代表活動で疲弊した選手に国内リーグの一部の試合を休ませる狙いだ。リーグワンの東海林一専務理事も、22日の取材時にプロテクトの可能性を認めた。

 藤井NTDはこうだ。

——プロテクトについて。

「ゲーム時間の長い選手、ポジション的に怪我をされたら怖いなという選手数名については、一応、(プロテクトの要請を)リーグワンに出してはいます。ただ、各チームにも事情がある。話し合いながらやっていきたいです。

 基本的には各チームから借りている選手なので、こちらのお願いばっかりというわけにはいかない。ただ、選手もいまは疲れている状態。少し休んだ方がきっとパフォーマンスは上がってくる。各チームに理解してもらいながら、進めたいです」

——リーグ戦の間は。

「バイウィーク(リーグワンの休息週)に1日だけ集まる、とか。リーグワンも負けたチームから(シーズンが)終わっていくので、そのチームの選手は少し休んで早めにキャンプに入るかなと思っています。(試合は)6月の終わりか、7月くらいからだと思います」

——バイウィークのキャンプの規模は。

「はっきりとここでは言えない。決まり次第ってところですね」

——そのキャンプのメンバーは、今回のそれとは違いますか。

「メンバーも変わると思います。(詳細は)ちょっと、わからないです」

——現在、故障でスコッドから外れているアタアタ・モエアキオラ選手、セミシ・マシレワ選手、松田力也選手については。

どれくらい(怪我から)回復しているか、パフォーマンスが上がっていくかを見ていくと思います。

(マシレワは)いったんは、必ず呼ぶと思います。その場合は誰かが落ちていくとは思います。その場合は。

(リーグワン期間中のキャンプには)人にもよると思いますが、2019年(日本大会)を経験している選手は、(リーグワンの)試合に出ていたら呼ぶとは思います」

——リーグワンの働きを見て新たに追加したい選手、もしくはポジションは。

「ポジションというより、例えば松田、ジェームス・ムーア、フルバックならマシレワのように、2019年やスーパーラグビーを経験していながら今回、怪我で来られなかった選手がどうなっているかは見ていきたいです」

——今季、ブレイクした選手がリストアップされる可能性は。

「もちろん、全くないというわけではない。途中、いい選手がいれば、リストに上がってくると思います」

 藤井氏の話を総合すれば、代表強化の観点でのリーグワンでの注目点は、今回の遠征メンバーおよび一部キャリア組のパフォーマンスか。

 右プロップのインパクトプレーヤーとして期待されるのは、埼玉パナソニックワイルドナイツのヴァル アサエリ愛か。

ヴァルは突進力、タックルで際立つ
ヴァルは突進力、タックルで際立つ写真:西村尚己/アフロスポーツ

 ロックで名前の挙がったムーアは日本大会で活躍したタックラーで、所属する浦安D-ロックス所属の関係者によると脳震盪の影響からシーズン終盤に復帰予定だ。

ハードタックルを重ねられるムーア
ハードタックルを重ねられるムーア写真:ロイター/アフロ

 ワイルドナイツの松田は司令塔のスタンドオフで主力格となりうる。

 陣地の獲得や得点力に寄与しうるウイング、フルバックには、モエアキオラ(コベルコ神戸スティーラーズ)、マシレワ(花園近鉄ライナーズ)らの復調が待たれる。

突破力のあるモエアキオラ
突破力のあるモエアキオラ写真:西村尚己/アフロスポーツ

マシレワ(写真中央)はサンウルブズ(後述)でもプレー
マシレワ(写真中央)はサンウルブズ(後述)でもプレー写真:長田洋平/アフロスポーツ

 本格的な代表活動の再開は5月以降か。これから組まれるテストマッチを経て、さらなる強化と最終メンバーの選考に注力する。

——フランス大会を前に、2019年の直前期のような長期キャンプはできない。

「今回は(夏から)時間が空いていたなかで準備をした。ただ、次の前にはリーグワンで試合もやりますから、シフトしていくのは難しくない。あと、スケジュール的にこれしかできないのだからしょうがないですよね、もう」

——ワールドカップ直前期の国際経験は。

「色んな選手に国際試合をさせてやりたいとは、以前から言っていた。シックスネーションズやスーパーラグビーを重ねている国(欧州、南半球の強豪)と比べたら日本(の試合数)は少ないです。

 今年オーストラリアAとできたのは大きい。また、選手の吸収するスピードはスーパーラグビーの時(※)よりは格段に大きい。戦術や色々な部分、コーチに対しての(選手からの)信頼がある。ジェイミーのやり方を皆が理解している。日本代表になりたい思いが全員にあるので、それが(理解の)スピードを加速させているんじゃないかと。

 ここに含めて、そういう試合(国際試合)があると、もう少し強化のスピードは上がると思います。

(大会前の)ティア1(伝統的強豪国)との戦いは、おそらく、来年は難しい。報道されているパシフィック・ネーションズカップなどが決まっていけば——今年ほどではないとは思いますが——準備としては十分かなと」

※ 2016年からの5シーズン、日本のサンウルブズが参戦。現体制の代表強化とリンクしたのは2017年からの3シーズン。

 フランス大会を終えれば、2027年のオーストラリア大会が控える。

 他国ではフランス大会後の代表指揮官に関する報道が出ているが、日本の事情については「そこはもう、上の人たちが決めていくんじゃないかと。僕の口からはあまり言えないんですけど。一切、そういう話はしてないです」と藤井。現体制は現体制のベストを尽くす。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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