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安倍首相だんまり 日仏落差「モーリシャス史上最悪」の環境危機に

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
モーリシャス沖で貨物船が座礁 重油が流出(提供写真)(提供:French Army command/ロイター/アフロ)

 楽園のような美しい海に黒々とした重油が広がる―先月26日にインド洋の島国モーリシャスの沖合で、日本企業の所有・運行する貨物船「わかしお」が座礁、1000トンを超える大量の燃料油が流出した事故に、世界が衝撃を受けている。各国メディアが一斉に「モーリシャス史上最悪の環境危機」について報じ、旧宗主国フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「フランスはモーリシャスの人々と共にある」と表明。他方、当の日本の動きは鈍く、今のところ、安倍晋三首相は本件について何も発言していない。

〇「楽園」の危機

 今回、重油流出事故を起こした貨物船は、長鋪汽船が所有し、商船三井が運行していた「わかしお」だ。同船は先月26日にモーリシャス沖で座礁、6日には重油が流出し始めたため、モーリシャス政府は「環境緊急事態」を宣言した。

モーリシャス沖で座礁した「わかしお」 グリーンピース提供
モーリシャス沖で座礁した「わかしお」 グリーンピース提供

 BBCの報道によれば、事故現場周辺の海域は世界的にも貴重な生物多様性の宝庫であり、約800種の魚類、17種の海洋哺乳類、2種のカメを含む1700種が生息。これらの生物やサンゴ礁、マングローブ林などが流出した重油によって危機にさらされているというのだ。海の幸や観光資源として、美しい海はまたモーリシャスの人々にとっても、生活基盤そのものだ。環境保護団体グリーンピースのアフリカ支部は、今回の事故を受け、「モーリシャスの経済、食糧安全保障、健康に悲惨な結果をもたらす危険にさらされている」と国連や各国政府へ、事故対応への支援を求めた。

〇日本とフランスの落差

 国際社会の危機感も高まっている。CNNやアルジャジーラ、フランス24、ロイター通信やAFP通信など各国メディアは「モーリシャス史上最悪の環境危機」について連日大きく報じ、モーリシャス政府からの支援要請に対しフランスのマクロン大統領はすぐさま重油の除去のための人員や機材を派遣すると表明した。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんも、自身のSNSでモーリシャス支援を呼びかけている。

グレタさんのインスタグラムから
グレタさんのインスタグラムから

 一方、事故を起こしたのは日本企業の所有・運行する船であるのに、日本政府の動きは鈍いと言わざるを得ない。本件について、現時点では安倍首相は未だ公の発言はしていない。現地との調整役となる外務省も、計6名からなる国際緊急援助隊・専門家チームを派遣したものの、情報収集はこれからといったところ。茂木敏充外務大臣自身のコメントもないままだ。赤羽一嘉国土交通大臣は、今月11日の会見で「状況の推移を踏まえながら、適切に対応していきたい」と述べたが、国交省の官僚に筆者が話を聞くと「事故を起こした企業が保険金を使ってサルベージ船による回収を行っている」「(事故は)起こってしまったことですからね」と、どこか他人事だ。確かに、事故を起こした「わかしお」を所有する長鋪汽船、運行していた商船三井の責任は問われるべきであるし、当事者として事故対応に全力を注ぐべきではあるが、保険金のみで事故対応を行うことや、被害への補償を支払えるかは疑わしい。「今はなんとも言えません。必死で情報収集しているところです」(長鋪汽船から委託された広報担当者談)という状況なのだ。

世界のメディアが「楽園」の危機に注目
世界のメディアが「楽園」の危機に注目

〇日本政府も本腰で対応を

  モーリシャス政府は、長鋪汽船へ賠償請求する意向であることは、AP通信が報じているところであり、長鋪汽船も「当事者としましての責任を痛感しており、賠償については適用される法に基づき誠意を持って対応させていただくつもりです」(長鋪汽船・代表取締役 長鋪 慶明氏)とのことであるが、今回の重油流出の影響は長期にわたる可能性も現地NGOなどから指摘されており、長鋪汽船のみで対応できるかは不透明だ。

漂着した重油を清掃するボランティア達 現場には人手が必要 グリーンピース提供
漂着した重油を清掃するボランティア達 現場には人手が必要 グリーンピース提供

 対応や補償等について長鋪汽船や商船三井にどう支払わせるかは、後で論議するとして、今は現地への環境への影響を最小限にするため、日本政府として全力を尽くすべきであるし、その姿勢を真摯さと共に表すことが必要だろう。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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