旧統一教会の解散命令請求が近づくにつれて、35年前と同じ被害救済をする弁護士への攻撃が強まる恐れ
解散命令請求が近づくなか、10月6日に立憲民主党を中心とする国対ヒアリングが開かれて、A男さん(70代)と中野容子さん(仮名60代)から話がありました。
立憲民主党の長妻昭議員は「(12日に)宗教法人審議会が開かれるということで、(解散命令請求に向けて)進むものだと思っております。今後、国として今後、何をすべきかなど、きちんと準備をしなければならない」と述べました。
信者ではないA男さんは、現在、ご夫婦で約1000万円の返金交渉を旧統一教会にしていますが「今も、一銭も返ってきていません」と話します。
約1000万円の被害者の証言
A男さんが旧統一教会にかかわるきっかけになったのが、2008年に2人の女性が家を尋ねてきたことでした。
「女性から『いいお顔をされていますね。近くで開運鑑定をしているので、きてみませんか」という誘いを受けました。断ったけれども、しつこく誘われて開運鑑定会場に行きました。7時間以上も話をされて『買う』というまで帰してもらえない状況で(高額な)開運の水晶を購入するになりました」
その後、信者に呼び出されて「家内が病気であることを話すと、家系図を取られました。その病気は先祖の供養が不十分なことで起こったことが原因で、先祖供養すれば家内の病気が治ると言われました」といいます。その後、奥さんも通うようになります。
同党の山井和則議員から「水晶を購入した時に、相手方は統一教会を名乗っていたのでしょうか」との質問がありました。
A男さんは「いいえ」と首を横に振ります。
水晶の購入後、A男さんは教団のカルチャーセンターで勉強を始めますが「先生や裏方の事務員さんに『統一教会ではないですよね』と尋ねましたが、『違う』といわれました。3回ほど聞きました。また『先祖供養しなければならない』ということで、300万円を払いましたが、この時『献財』という言葉をいわれました。もし『献金』と言われたら『あれ?(統一教会かもしれない)』と思ってそこから逃げ出したかもしれませんが、まったく気づけませんでした」
なぜ、旧統一教会と知らされてもやめられなかったのか?
主の証をされた(再臨のメシヤとして文鮮明教祖を知らされる)のは、1年後の2009年のことでした。
同議員から「なぜ、統一教会だと分かった時にやめようと思わなかったのですか?」と尋ねられると、A男さんは「もともと教義を知りたくて入ったのではなくて、家内の病気が治るのならということで入っていました。そこで騙されたと思っても『正しい先祖供養をしないと(奥さんの病気も)直るものも、直りません』と言われ続けてきましたので、今やめてしまったら家内の病気が治らなくなる。夫婦そろって同じような意見でしたので(通うことを)続けてしまった」と答えます。
さらに、ご夫婦で約200万円のペンダントなどを購入させられます。2013年にA男さんは教会にはいかなくなりますが、それまでに支払ったお金は1000万円ほどになりました。
現在、弁護士に相談をして返金要求をしています。
しかし「570万円ほどの物品購入に関しては、統一教会とは関係ないので、お店に交渉してくれといわれています。他にも自分たちのような被害があると思います。(私の場合)金額的には少ない方だとは思いますが、年金だけでの生活はとても苦しい状況にあります」と窮状を話します。
最高裁に上告するまでの率直な思い
中野容子さんのお母さんは信者時代に1億円以上の献金をしたために、旧統一教会に返金を求めて裁判をしましたが、母親が教団に「返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わない」などという念書を書かされたために、それが有効とされて、地裁、高裁で敗訴判決を受けて、現在、最高裁に上告しています。
しかしその後、岸田首相からの「法人等が寄付の勧誘に際して、個人に対し、念書を作成させ、あるいはビデオ撮影をしているということ自体が、法人等の勧誘の違法性を基礎づける要素の一つなり、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求が認められやすくなる可能性がある」という国会答弁もあり、逆転勝訴になるのか、非常に注目されています。
中野さんは、1審2審の「念書を有効」とする敗訴判決に対して、率直な思いを口にします。
「昨年の高裁判決が出たところで、その先は、ほぼ諦めていました。というのも、返金の裁判にはお金がかかるからです。すでに父も母も破産したような、お金のない状況になっていました。しかも、裁判に負けると裁判費用を敗訴した側が持つことになり、かなりの費用がかかります。最高裁に上告するにあたっては、すでに母は亡くなっており、私一人でお金の負担をしなければならない状況で諦めていました」
高裁の判決の翌日に、山上徹也被告による安倍元首相の銃撃事件が起こる
しかし、高裁の判決の翌日に安倍元首相の銃撃事件がありました。
「その後、弁護士の先生方と話し合い、最高裁に上告することにしました。私の一番の思いは、被害者である母と私が『なぜ負けなければならないのか』ということでした。いまだ最高裁からの判決はない状況ですが、解散命令請求が出れば、現在、私が訴えている母の被害についても『念書が有効である』という間違った判決は必ずくつがえされるはずだと思っています」と中野さんは強く訴えます。
財産保全の特別措置法についても「必要だと思います。もし解散命令請求が出ても、統一教会に資産がなければ賠償金は支払えません。念書、同意書というのは、あちこちでたくさんあるようで、私自身も幾つか知っています。被害回復を諦めて、泣き寝入りしている被害者がたくさんいると思います。そういった方々に『どうか諦めないでほしい』と言いたい。辛い思いをしながら諦めている皆さんの被害回復の意思表示を促すためにも、財産保全の法案の成立をして頂きたいと思っています」と話します。
「裁判をうける権利が奪われる」念書問題
中野容子さんの代理人である木村壮弁護士からも「念書があるということは、どういう意味なのか。改めて申し上げます。念書があることによって、裁判所が裁判の審理をしないということができてしまうんです。『裁判をうける権利が奪われる』そういうものが念書なんです。地裁では、判決としては請求却下でした。つまり損害賠償請求権があるかないかの判断をしない。判断をする前に、裁判を受け付けませんという判断が出ました。それが、高裁で維持されたのが本件のケースです。これだけ裁判をうける権利を奪うような重要な文書の有効性を、あっさりと認めてしまうことが、非常に大きな問題だと思います」と話します。
実は、この高裁の判断が出る前に、同様の趣旨の念書、合意書を作られたケースがあったそうです。
「それを無効とする判決が幾つか続いていたなかで、私たちもその判決に習って『無効だといえる』と主張したのですが、高裁では、ほとんどこの問題について目を向けることなく、一回の審理で、念書については簡単な言及で『書面の有効性を認めてしまった』ことがあります。これは大きな問題だと思っています。昨年、総理大臣からも言及がありましたが、何ら問題のない献金をさせているのであれば、(返還)請求をしませんという文書を作らせる必要が、そもそもありません。この文書を作らせるということ自体が、いかに自分たちがマズイことをしていて、損害賠償請求権から逃れようとしていることを裏付けているといえます。そうした事情も踏まえて、司法の場でも念書を作らせること自体がおかしいんだということを、判断して頂きたいと思っています」(木村弁護士)
弁護士を誹謗中傷する、赤いビラがまかれている件について
解散命令請求が近づくにつれて、国や弁護士への旧統一教会の攻撃は激しさを増していきているようです。
阿部克臣弁護士は「統一教会から、全国霊感商法対策弁護士連絡会を誹謗中傷する赤いビラがまかれており、これについてコメントしたいと思います」といいます。
示された資料には、赤と黒に白抜きの文字で「旧統一教会つぶしに狂奔する弁護士グループ『全国弁連』(全国霊感商法対策弁護士連絡会)マスコミが絶対に報じない反日左翼系弁護士たちの正体」と書かれたビラがあります。
「これは国際勝共連合(旧統一教会の関連団体)が最近、全国にまいているもので、SNSの『X』での報告では、多数のビラがまかれているようです。ネット上にもアップされていて『ご自由にダウンロードしてお役立てください』とあります。当然ながら、ここに書いてあることは、まったくの事実無根で、誹謗中傷になります。我々全国弁連の目的としては、統一教会による被害の救済、抑止というその一点につきるわけで、当連絡会が特定政党や特定の政治勢力と連携することはないことは、ホームページでも謳っています」
日弁連が、霊感商法が社会問題になった1986年、87年に調査を行った件を、阿部弁護士は話します。
「分厚い調査報告書を出していまして、そこでは『被害救済に対する妨害工作の問題を指摘しています。被害救済を行うことが、特定の政治目的のごとくの主張を繰り返している』そういうものが35年前に報告されています。当時の全国にまかれたビラを見ますと『霊感商法を食い物とする悪徳弁護士、すなわち共産党弁護士に物申す』『金儲け主義と左翼思想に染まったのが彼ら(共産党弁護士)の性根』というものになっており、政治目的でやっているという荒唐無稽な主張をしてきており、(今と同じように)35年以上前からやっています。現在、統一教会はスラップ訴訟を次々に起こしていますが、ビラを配ったり、訴訟を立て続けに起こしていること自体が、教団が真に反省して被害者に謝罪するという態度は見て取れないということだと思います」といいます。
財産保全の特別措置法は、超党派にて結果を出したい
財産保全について木村弁護士は「解散命令請求が近日中に出るのではないかと報じられていますが、それは大きな一歩だとは思います。しかしそれは将来の被害抑止がメインであって、同時になされなければいけないのが、過去の被害救済です。解散命令請求がなされた団体が、自分の団体にお金を残しておくことは、考えられない。会社法でも財産保全をする法律があるわけですが、宗教法人法にはなぜかないことが、大きな問題になっています。財産保全ができる法律を作って頂きたいと思っています」と話します。
阿部弁護士も「実効性ある財産保全ができる法律を作って頂きたい。実際上、財産を押さえられないような、適用が難しい法律ができても意味がありません。きちっと財産保全できる内容の法律である必要がある」と指摘します。
被害者家族である橋田達夫さんも「一日も早く解散請求命令を出してもらいたい。そして財産保全もして頂きたいと思っています。高知の方でも、ここのところ、被害者が手をあげてくれるようになりました。様々に連絡を頂いております」と話し、続々と多くの被害者が声をあげてきている状況を話します。
山井議員もこうした話を受けて「被害者の声を聞いて、超党派で結果を出していきたい。救済に結び付けるのが私たちの思いです。超党派で、財産保全法も成立させたいと考えていきたい」と述べました。
解散命令請求を目前に控えて、さらなる国や弁護士への旧統一教会の激しい抵抗が予想されるなか、被害者の救済にもつながる、財産保全の特別措置法の行方からも目が離せない状況です。