知財高裁でBL同人作品の無断コピーは著作権侵害という当たり前の判決
一昨日(2020年10月6日)、知財高裁において、BL同人作品の著作権に関する興味深い判決がありました(判決文)。BL同人作品を無断でアップして広告収益を上げていたサイト運営企業にBL同人作者が損害賠償を請求した事件の控訴審です。
原審(東京地裁)の判決文はこちら、地裁判決が出たときの報道記事はこちらです。地裁では、被告の著作権侵害が認定され、損害賠償金約219万円の支払いが命じられたのですが、被告がこれを不服とし、かつ、原告も損害賠償金の1,000万円への引き上げを求めて控訴したという流れです。控訴審では、著作権侵害の認定は覆されず、損害賠償金の引き上げも認められませんでした。
二次的著作物にも(原作品の作者の著作権に加えて)二次的著作物の作者の著作権が生じるのは当然なのであまり議論の余地はなさそうですが、この控訴審では、被告側がちょっと珍しい主張をしていたので考察してみます。
被告の主張は以下のとおりです(太字は栗原による)。
要するに、これらのBL同人作品は著作権を侵害するものであり、わいせつでもあるから、無断で公開して広告収益上げても問題ないのだと主張しているわけです。さすがに、これは無理筋で、裁判所は以下のように一蹴しています。
ただし、「わいせつかどうかは著作権侵害には関係ない」と言っているのではなく、「この程度のわいせつ性では著作権侵害を否定する理由にはならない」と言っているので、今後、もっと凄いレベルのわいせつ作品に関する著作権侵害訴訟があった際に、わいせつ性を理由に著作権侵害が認められないというケースもあり得なくはない点に注意が必要です。
また、これらのBL同人作品の(元ネタ作品に対する)著作権侵害についても、裁判所は以下のように否定しています(太字は栗原による)。
「著作権法は表現を保護するがアイデアは保護しない」という教科書どおりの判断なのですが、実際にはどこからがアイデアでどこからかが表現なのかの境界線は微妙なところがあるので、現実の例に即した裁判所判断が得られたことは意味があると思います。
正直、私は、同人関連はそれほど詳しくないのですが、キャラの名前と設定の一部だけを拝借して絵としてはまったく原作品と違うパターンと、キャラの絵が類似する(またはほぼ同一の)パターンがあると認識しています。この判決では、少なくとも前者のパターンについて、著作権侵害には当たらないという判断が示されたことになります。
なお、これらの二次創作が元ネタ作品の著作権を侵害しているかどうかは、実は結論に影響しない(二次創作にオリジナルの部分が少しでもあればそれを複製することで二次創作者の著作権を侵害することは変わらない)ので、ここまで深く考察する必要があったのかという気はします。(追記:と一瞬思いましたが、よく考えてみると損害論にかかわってくる可能性があったので検討せざるを得ないですね)
いずれにせよ、この判断により、(BLに限らず、キャラの名前と設定の一部だけを流用したタイプの)二次創作の自由度は増したと言えますが、その一方で、自分の作品の同様な二次創作を意に反して作られることに対して著作権による権利行使するのは難しいことも明らかになりました。
さらに、損害論の話もあります(原告の賠償金引き上げが認められなかった)が、ちょっと長くなりましたので関心がある方は判決文を読んでみてください。
追記:この判決で明らかになったのは、キャラの名前と設定の一部だけを流用したタイプの二次創作は著作権法上問題なさそうであるということであり、二次創作が法的にまったく問題ないということではありませんので念のため追記しておきます。元ネタ作品の著作権者が二次創作の作者を訴えて、商品化権や不正競争防止法等、著作権以外の論点が争われた時にどうなるかはわかりません。また、絵やセリフ回し等の表現が類似・同一のタイプの二次創作については、元ネタ作品の著作権者が訴えてくれば著作権侵害とされる可能性大です(現状問題がないのは元ネタ作品の著作権者が大目に見てくれているからに過ぎません)。