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誰でもワイヤレス設計が可能に

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

IoT(Internet of Things)時代は言うまでもなく、さまざまなデバイスやシステム、ガジェットまでもがインターネットとつながるようになる。ネットとつなぐためには無線通信技術が不可欠。有線通信は光ファイバや、非常にハイエンドのネットワークシステムに限られるようになってきたため、IoTシステムはほぼ100%近くがワイヤレス通信でつながることになろう。

その無線通信技術、すなわちワイヤレス技術はさまざまな領域で使われるようになってきている。身近なNFC(Near-Field Communication)やBluetooth、Wi-Fiから通信基地局、宇宙航空無線、RF測定器などハイエンドの通信技術まで広がっている。インターネットとつながるデバイスではワイヤレスの基本となるRF(高周波)技術を使う。モバイルの世界はほぼ100%RF技術が使われていると言っても言い過ぎではない。

ところが、ワイヤレス通信技術は、一般的なデジタルやアナログ技術とは全く異なる。要はマクスウェルの電磁界方程式で表現される電磁波の世界である。デジタルだと1と0だけで機能やデータを表現し、アナログは入出力の連続的な信号を表現する。しかしRF技術は電磁波を扱うため、スミスチャートを使って、波の反射と透過、吸収などを「sパラメータ」として表現する。まるで違う。

例えば1本の配線はデジタルやアナログ回路では、電気信号をつなぐ役割しかしない。しかし、直径が1mm程度の配線に電流を流すと、線の周囲に磁力線(磁界)が発生するため、1本の線は電波を飛ばすアンテナにもなる。電波を飛ばさないためには平べったい金属配線を使うなり、起電力の元となるインダクタンス成分をできる限り小さくする、という設計が必要。また、配線が途中で途切れていれば、直流的には電流は流れないが、RFだと流れて電波として飛んでいく。またそこで反射が起きる。

高周波のチューニングは結構面倒くさい。インダクタンス(L)とキャパシタンス(C)で共振させてチューニングさせてもすぐにずれてしまう。だから、高周波回路設計はできれば扱いたくない。

もし、アンテナからデジタル回路まで直結で調整しなくてすむなら、IoTデバイスの設計者はデジタルに集中できる。米国ボストン郊外を拠点とするアナログICメーカーの大手、アナログ・デバイセズ社は、「アンテナからビットまで」を標榜する戦略を採り始めた。アナデバは、A-D/D-Aコンバータを得意とする半導体企業である。だから、「あれっ?」と思う向きがあろう。なぜRF回路も手掛けることができるようになったのか。

アナデバは実は2014年にRF半導体・システムに強いヒッタイトマイクロウェーブ(Hittite Microwave)社を買収して手に入れた。ヒッタイトは、古代、帝国をトルコの近くに構築していたヒッタイト族と同じネーミングだ。ヒッタイト社は24GHz~110GHzと言ったミリ波(波長が1mm前後)技術も持つ。

アナデバは、アンテナからRF回路、ベースバンド回路を経てデジタル信号を出力するデバイスやモジュールを開発している。ベースバンド回路でデジタル変調された信号を復調してデジタル信号を取り出し、デジタルインターフェースで信号を出力してくれれば、後はデジタル設計者の出番である。いわゆる組み込みシステム設計者がデバイスやガジェットを作るのである。ワイヤレス通信のことは知らなくてもよい。子供のおもちゃ「レゴブロック」のようにガチャッとはめ込めばトランシーバ機能が使えるのだ。

昨年暮れのマイクロ波展でアナデバは24GHzのレーダーシステムや、70GHz帯の5Gモバイル通信向けのシステムなどを展示していた。24GHzのレーダーは、クルマの衝突防止に使うシステムで、特にクルマの周囲のクルマを検知するのに向く。速度を緩めると人も検知できる。携帯電話は今や4GのLTE時代まっ盛りだが、次の5Gはデータレートが最大10Gbpsと言われており、2020年の東京オリンピックでの一部実用化を目指して開発が進んでいる。10Gbpsとなると、非常に高速になるが、電波の到達範囲を広げることは難しくなる。

元々、電磁波の周波数が高くなり、ミリ波ともなると、直線性が増す。レーダーはこの性質を使い、発射した対象物からの電波の反射を検出するシステムであるから、通信に使うとなると限られた方向にしか電波を飛ばせない。このため5Gシステムにはミリ波だけではなく、LTEシステムとの組み合わせや、ビームを空間的にスキャンする方法などが考えられている。

ミリ波ほどの高周波ではなくともGHz周波数帯で、Wi-FiやBluetooth、ZigBee、Smart Home、M2M。モバイルネットワークなどIoTデバイスを設計するエンジニアにとっては、アナデバの「アンテナからビットまで」戦略は非常にありがたいものとなる。

(2016/01/31)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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