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日本では無理だった?YouTube110億回再生の歌姫デュア・リパの成功―子どもへ未来を与える制度に

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
デュア・リパさん(写真:Shutterstock/アフロ)

 世界のエンタメ業界では様々な背景を持つ人々が活躍している。米国最大の音楽の祭典グラミー賞での多数の受賞/ノミネートを誇り、自身のYouTubeチャンネルの総再生回数が110億を超える世界的な歌姫デュア・リパさんもその一人だ。他方、日本ではデュア・リパさんのような背景を持つ外国人の子どもを排除する傾向にあり、今、国会で審議されている入管法改定案*1は、さらなる排除につながる恐れがある。

〇難民2世の世界的ポップスター

 イギリスのロンドン出身であるデュア・リパさんは、2015年にデビューすると、独特なハスキーボイスやシスターフッド感のある歌詞で人気を集め、大ブレイクしたシングル「ニュー・ルールズ」などヒット曲を連発し、世界的に知られるポップシンガ―となる。イギリスのみならず2019年の第61回グラミー賞では、「最優秀新人賞」「最優秀ダンス・レコーディング賞」を受賞。さらに2021年の第63回グラミー賞では「最優秀ポップ・アルバム賞」を受賞。その活躍は凄まじいばかりで、間違いなく現在の英ポップ音楽界を代表するスターの一人であろう。

 そのデュア・リパさんには難民2世という背景がある。彼女の両親は当時、ユーゴスラビアの一部だったコソボ共和国の出身だ。1992年、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、身の危険を感じたデュア・リパさんの両親と祖父母は、難民としてイギリスへ渡った。1995年に、デュア・リパさんが誕生。イギリスで育ち、教育を受けた。その後、2006年、現地情勢の沈静化に伴い、当時11歳だったデュア・リパさんは両親と共にコソボへと移住するが、イギリスで初等教育を受けた彼女にとって、コソボでの学校で学ぶことは言語の問題があったことや、音楽のキャリアを追求するために、14歳の時に、ロンドンに戻ったのだった(関連情報)。

 デュア・リパさんは英紙「ガーディアン」のインタビューに対し、自身の成功の要因として、イギリスに辿り着いた両親が必死に働く姿から、勤勉であることや努力することの大切さを学んだことをあげている(関連情報)。その前提にあるのは、難民として逃げてきたデュア・リパさんの両親をイギリスが受け入れたこと、また、イギリスの国籍制度が生地主義で、デュア・リパさんがコソボから戻ることが比較的容易であったことだろう。

 他方、日本の状況はどうだろうか?他の先進諸国に比べ極端な「難民鎖国」であり、日本で生まれ育ったとしても、国籍の制度は血統主義である。こうしたことから、難民として両親と共に日本に来た子とも達、或いは両親が難民として来日した後に日本で生まれた子ども達(つまり、デュア・リパさんと同じような状況)は、極めて厳しい状況にあり、夢を見ることすらままならないのだ。

〇「私達の夢を奪わないで」子ども達が会見

 先月24日、都内で難民の子ども達が、都内で記者会見を行い、入管法改定案への不安を訴えた。政府与党が今国会で成立を目指す入管法改定案では、「送還忌避者」、つまり、強制送還を拒む外国人を減らすためとして、難民認定申請者も3回目の申請をした時点で強制送還するとしている。日本も締約する難民条約や国際法等では、迫害を受ける恐れがあるところへの難民認定申請者を強制送還することは禁止されており、また、日本でのこれまでの事例からも、3回目以降の申請および裁判で難民として認められたケースがいくつもあるにもかかわらず、である。

 会見で発言した子ども達のほとんどは親が難民認定申請しているトルコ出身のクルド人であるが、特にトルコ出身の難民認定申請者に差別的な対応をしている法務省および出入国在留管理庁(入管庁)に阻まれ、難民認定されていない。また、子ども達は「仮放免」という扱いで、入管の収容施設外での生活が一時的に許可されているものの、あくまで退去強制手続きの一環であるため、成人したら収容施設に拘束(収容)されたり、強制送還される恐れがあり、またアルバイトなどの就労も許可されない。

 会見で発言した子どもの一人で、高校2年生の少女は「勉強を頑張って、成績優良者になった」「大学進学も希望している」と語るが、入管法改定案に大きな不安を感じていると言う。「日本でかなえられそうな夢も、トルコに行ったら、言葉の問題もあって、ゼロどころかマイナスから始めないといけない」(同)。

〇子ども達の可能性を潰すのか、育てるのか、あるべき方向は?

 あくまで仮定の話であるが、もし、デュア・リパさんの両親が、イギリスではなく日本に避難していたら、デュア・リパさんはどうなっていただろうか?恐らく、世界的なポップスターとなるどころか、上述の会見で発言した子ども達のように、未来に不安しかない状況におかれただろう。いくら本人が努力家で、才能にも恵まれていたとしても、それを無にしかねないのが、現在の入管制度なのであり、そうした状況をさらに悪化させるのが入管法改定案ではないだろうか。

 日本は難民条約を締約しており、難民を助ける義務がある。また、同じく締約している子どもの権利条約に従い、人種や国籍を問わず、子ども達の生存や発達の権利を保障する義務がある。そうした条約上の義務を果たし、難民や移民であっても、子ども達が無限の可能性を開花させられるような方向*2にこそ、制度や法律を変えていくべきなのだろう。

(了)

*1 今回の法案は「改正ではなく、むしろ改悪」との批判も高まっているため、本稿では「入管法改定案」と表記する。

*2 その点、野党4党が参院に提出した難民等保護法案・入管法改正案は、注目すべき内容である。

https://cdp-japan.jp/news/20230509_6013

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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