入院リスクも減らす「かかりつけ医」機能が制度化へ
「かかりつけ医」という言葉が認知されつつあり、基礎疾患がある人は普段から診てもらっている医師を決めていることが増えたと思います。さて、この「かかりつけ医」機能が高いほど、入院リスクが減少するという研究結果が発表されました。今後、法的に制度化される見通しです。
「かかりつけ医」とは
厚労省は、「かかりつけ医」の普及と、その機能の推進をすすめています。特にコロナ禍ではなかなか病院にかかることができないため、何でも相談できる身近な医師の存在が求められています。
現時点では、「かかりつけ医」とは「健康に関することを相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」とされています(1)(図1)。
医師の身としては少しプレッシャーに感じてしまいますが、要は「気軽に相談できるお医者さん」という理解でよいでしょう。
自分がそういうお医者さんになれているのかは分かりませんが、私も子どもの頃から、そういった医師像に憧れてきました。
新型コロナの入院リスクを6割減
東京慈恵会医科大学の総合医科学研究センター臨床疫学研究部の青木拓也医師らの研究グループが、興味深い研究結果を発表し、話題となっています(2)。
40~75歳の一般集団にアンケート調査を行い、かかりつけ医がいる場合・いない場合に、入院リスクがどのように変化するかを解析したものです。
1,161人を解析した結果、「かかりつけ医」の機能(JPCATスコア)が高いほど、患者さんの入院リスクの減少に寄与することが示されました。入院リスクは「かかりつけ医」の機能が低中機能でも54%減、高機能の場合だと63%減という結果になりました(図2)。
コロナ禍では、受診控えがすすみ、高齢者の虚弱(フレイル)も増えています。水面下でじわじわと見えないダメージを受けている人に対して「かかりつけ医」機能を充実させることで、入院医療の逼迫を軽減したり、医療費を抑制したりすることが可能かもしれません。
「かかりつけ医」のメリット
普段から「かかりつけ医」を決めておくと、「いつもと違う」という点に気づいてもらえるメリットがあります(図3)。
たとえば、私は呼吸器内科の患者さんを診ていますが、「いつもより肺の音が高め」ということで呼吸器疾患の状態を判断したり、診察室での患者さんの話し方で「息遣いがよくなった」などが分かったりすることがあります。
そのため、ちょっとした体調の変化にも気づきやすいので、病気の予防や早期発見、早期治療が可能になるというメリットがあります。
また、医師患者関係が構築されることで、日常生活で困っていることなどの話も聞いてもらえるので、症状や治療法について的確なアドバイスがもらえます。
ひいては、自分の専門分野以外の症状が出てきた場合、専門家への紹介がスムーズになるというメリットもあります。
「かかりつけ医」が制度化
これまでは明確な定義がなかったのですが、新型コロナの患者が診療を断られるケースがあったことから、「かかりつけ医」が今後制度化される見通しです。すでに厚生労働部会で了承されており、今国会での成立を目指す流れです。
普段から「かかりつけ医」として機能している医療機関ほど、多くの新型コロナ患者を診ているという事情もあり、政府としても、努力している医療機関に負荷がかかっている構図を緩和したいという考えもあります。
どのような背景があるにせよ、普段から身近に「かかりつけ医」がいることは、患者さんと医療の双方にメリットがありますので、これが当たり前になってもらいたいと願っています(図4)。
(参考)
(1) 上手な医療のかかり方.jp(厚生労働省). 「かかりつけ医」ってなに?(URL:https://kakarikata.mhlw.go.jp/kakaritsuke/motou.html)
(2) Aoki T, et al. Ann Fam Med. 2023 Jan-Feb;21(1):27-32.