高校野球女子マネージャーとは:おにぎり2万個と選抜クラスから普通クラスに転籍記事への賛否の理由
■夏の甲子園、がんばるマネージャー記事が注目
多くの高校野球部に女子マネージャーがいて、頑張っています。名作野球漫画「タッチ」をはじめ、多くの物語の題材になっています。それぞれの現実の部活にも、様々な女子マネージャー物語があることでしょう。
その1つ。今回の甲子園で話題になっている1人の女子マネージャー。「2万個のおにぎり」という記事と、青春一杯のさわやかな笑顔写真で、話題になっています。
■頑張る女子マネージャー記事に賛否
「すばらしい、これこそ青春だ!」という意見がある一方で、普通クラスへの転籍に疑問を投げかける意見もあります。美談として報道すべきではないとか、大人が止めるべきだったという意見もあります。
さて、高校生が部活に一生懸命になる事は、すばらしいと思います。多くの人が、高校生活の最大の思い出としてクラブ活動をあげることでしょう。
ただの思い出作りではなく、部活を通して学ぶことはとても多いことでしょう。
ただし、もちろん高校生の部活は教育の一環です。人生を犠牲にして取り組むようなことではありません。青年たちは純粋ですから、時には、この試合で勝てたら腕がちぎれてもいいと感じることもありますが、それは大人が止めるべきでしょう。
では、部活はほどほどにしてともかく勉強をしなさいという意見はいつも正しいでしょうか。そんなことはないと思います。部活に青春を燃やしていた人々が、大人になってみんな後悔しているわけではありません、部活などする暇があったら、その時間を勉強にまわして、もう1ランク上の大学に行くべきだったと悔やんでいる人は、むしろ少数ではないでしょうか。
ではなぜ、今回は疑問の声が出たのでしょうか。心理学的にちょっと考えてみましょう。
■賛否の理由:女性の特徴、女性の役割、女性の活躍
若い女性は良くも悪くも注目されます。犯人でも被害者でも、選手でも芸術家でも、その人がおじさんの場合と、若い女性の場合では、注目度が違うでしょう(監禁被害者女性が「なぜ逃げなかった」と責められるように)。特に「かわいい」と世間が評価した場合はなおさらです。注目されれば、様々な意見が集まるでしょう。
また、今回の女子マネージャーさんも様々な仕事をしていたことでしょうが、記事では「おにぎり作り」に注目します。写真の純朴な雰囲気とも合った、上手い記事だと思います。伝統的な女性観(性役割観)を持つ人々にとっては、彼女への評価が高まり、チームを応援したくなる記事です。
しかし、伝統的な女性観に否定的な人にとっては、「おにぎり」の記事に違和感を感じた人もいるでしょう。おにぎりを握る事が悪いわけではないのですが、「素晴らしい女子マネージャーです。なぜなら、こんなに頑張っておにぎりを作り続けたからです」という記事の構成に疑問を感じた人はいるでしょう。
そこに、さらに加えて「選抜クラスから普通クラスに転籍」の記事内容です。これも、そこまでチームのために頑張ったすばらし女子マネージャーと感じる人と、せっかく進学校に入り選抜クラスに入ったのにもったいないと感じる人もいることでしょう。
単に、勉強ができるのにもったいないではなく、それを美談とされるところに、女性が好成績を上げることが軽視されているのではないかという匂いを感じた人々がいることでしょう。
さらに、クラスを転籍し、男子生徒の活躍を下から支えるおにぎり作りという記事内容に、伝統的女性観を押し付けられていると感じて反発を感じた男女の読者がいたようにも思えます。
記事が、直接そのような主張をしているわけではないのですが、その匂いを感じた人々はいるででしょう。また、記事を読み賞賛している人々にその匂いを感じて、違和感を持った人もいることでしょう。
(中には、単に健康そうで評判の良い人に対して文句を言いたくなった人もいるかもしれませんが。)
もしも彼女が何かのスポーツ選手で、全国大会優勝を目指し、「選抜クラスから普通クラスに転籍」という記事であれば、賞賛する人も、違和感を感じる人も、これほど多くはなかったかもしれません。
■がんばれ!女子マネージャー
私は、伝統的女性観、伝統的男性観に縛られるのは、反対です。女性も数学界のノーベル賞を取ります(「数学のノーベル賞」フィールズ賞に初の女性 イラン出身の米教授:2014.8.13 )。日本でも、女性の数学の先生やプロのドライバー、男性の保育士や看護師など、今では全く珍しくなく、それぞれ活躍しています。
心理学的に言えば、男女の良さを兼ね備えた人々が活躍するのが現代社会だと言えるでしょう。
<「男らしさ・女らしさの心理学:みんなで幸せになるために」>
その一方、女子マネージャーが一生懸命おにぎりを握ることを否定はしません。そしてこれは私の想像ですが、今回話題になった女子マネージャーさんは、ちゃんとわかっているのではないでしょうか。チームの選手たちもわかっていると思います(「ネットで想像や可能性を語るなら」)。
聡明な女子マネージャーさんのようですから、女性らしさを持ちつつも、きっと伝統的な女性観に縛られることなく、男子にそれを押し付けられることもなく、自分で判断したことでしょう。
おにぎり作りも、道具の準備も、グランド整備も、チームが強くなるためには必要で、とても大切な作業です。部活では、補欠の選手やマネージャーが引き受けることになると思います。それは、スポーットライトを浴びる仕事ではありませんが、大切な仕事です。高校生でも、立派な選手たちはそれを理解しています。強くなるためには、控え選手やマネージャーの力が必要だと理解し、感謝していることでしょう。
高校生活の3年間をどう過ごすかは、人それぞれです。甲子園に出場する選手でも、プロになれるのはほんの数人ですが、彼らは野球に多くの時間を捧げます。夏休みに貧乏旅行をする生徒や、ボランティアをする生徒もいるでしょう。勉強に燃える生徒ももちろんいますし、芸術にのめり込む生徒もいます。オリンピックを目指し、そして挫折する生徒もいるでしょう。
成績が良いなら一流大学を目指して勉強に専念すべし。運動能力が高いならインターハイを目指しスポーツに身を捧げろ。そう考えても良いでしょうし、別の考えがあっても良いでしょう。
親や先生と良く相談することも大切でしょうが、どんな部活に入り、どんな練習をするかなど、私も大人と相談などしませんでした。
今回の女子マネージャーさんのクラス転籍は、親や先生と話し合った結果だと想像します(1人で勝手にできる事ではないでしょう)。決して安易に決めた事ではないでしょう。その熟考と相談の結果であるとすれば、私は応援したいと思います。甲子園が終わった後は、きっと受験勉強も今まで以上に取り組むことでしょう。
選手でもマネージャーでも、1人の人ばかりが注目されると、本人もチームも戸惑うようです。どんなに有能な生徒達とはいえ、まだ高校生です。大人たちの配慮が必要です。大きく注目された上に、批判めいた声が聞こえてきたら、なおさら戸惑うでしょう。
(上記、夏の甲子園情報 @koushien_infoさんのツイート削除もそのような事情があったでしょうか。本来なら全く問題ないツイートだと思うのですが、高校野球を応援するためのツイッターアカウントですから、予想以上の反響に困ったのかもしれません)。
もちろん、記事を読んで様々な意見を表明する自由を私たちは持っていますが、それでも大会開催中の未成年には配慮が必要でしょう。1人の一生懸命な女子高生の笑顔が曇ることなど、だれも望んでいないでしょう。
もしも、私がメッセージを届けられるなら、言ってあげたいと思います。賞賛は、まあちょっと恥ずかしいかもしれないし、他の頑張っているマネージャーさんたちへの気兼ねもあるかもしれないけれど、すなおに受けちゃいましょう。あなたは、全国の頑張っている女子マネージャーを代表して賞賛されているだけです。
批判めいた意見に関しては、これは、あなたへの批判ではありません。記事への批判と考えましょう。
高校野球は巨大になりすぎて、様々なことが絡むのは理解しています。それでも、頑張っている高校生たちにみんなに、エールを送りたいと思います。
グランドの選手にも、ベンチに入れなかった選手にも、マネージャーにも応援団にも、予選敗退した学校のみんなにも。ガンバレ若者たち。みんなで応援してるぞー!
■さらにその先へ
漫画『タッチ』(1981~1986)の女子マネージャー浅倉南は、新体操部で選手としても活躍していますね。『もしドラ』(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』)の女子マネージャーさんは、洗濯や食事準備だけではなく、チームのマネージメントを行い、選手たちを成長させます。
女子マネージャーさんたちの活躍は、まだまだ広がります。
「マネジメントに必要な唯一の資質は、真摯さである」 ピーター・F・ドラッカー
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