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英アパレルSuperdryの商標権行使は理不尽か?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

「極度乾燥(しなさい)」等のめちゃくちゃ日本語でご存知の方はご存知の英国の服飾メーカーSuperdryが、サッカーのユニフォームにスポンサーであるアサヒビールのSuper ’Dry’のロゴを付けたことに対して差止と損害賠償を求めて商標権侵害訴訟を提起したというニュースがありました(参照記事)。なお、この訴訟の被告はクラブのマンチェスター・シティであり、アサヒビールではない点にご注意ください。

商標権は国ごとに発生し、かつ、Superdry社は、英国では衣服を指定商品にして"Superdry"を商標登録しています(なお、当然ながらアサヒビールは"Super ‘Dry’ "を商標登録していますがビールおよび飲食役務についてのみです)ので、この動きは法律的にはつじつまが合っています。

[追記:どうやら試合ユニフォームだけではなく公式グッズとして販売されるウェアへのロゴ使用が問題とされているようなので以下の段落の議論はあまり関係ありませんでした。どうもすみません。]

しかし、試合ユニフォームにロゴをつけることが商品「被服」についての商標の使用であるかについては議論の余地があります。日本ですと商法上の商品は独立して取引の対象となるものとされているので、試合ユニフォームにロゴを付けるのは「被服」についての商標の使用にはならない(むしろ「ビール」の広告についての使用になる)可能性もあると思います。英国の判例法はそれとは異なるのかもしれませんが正直よく知りません(ちなみに、中国ですと、商標的使用といった概念にとらわれず商品に文字が表示されていれば商標権侵害という単純な考え方が採用されることが多いようです)。ひょっとすると、商標権侵害だけではなく不正競争防止法的な権利主張もされているのかもしれませんが(海外も含めた)報道からは明らかではありません。

[追記:2024-01-14以下1段落追加しました]

商標法における商品該当性が問題ないという前提で考えると、訴訟の争点は①ユニフォームにスポンサーのロゴを表示することが商標的使用(商品の出所を表している)と言えるか、および、②"Superdry"と"Super 'Dry'"は消費者が混同するほど類似しているかという点に帰着するでしょう。①については一般には消費者はユニフォームに付いているスポンサーロゴはあくまでもスポンサーの表示であってユニフォームのブランドを表すものではないと考えるような気がしますが、英国における"Superdry"と"Super 'Dry'"の相対的知名度の違いにも関係してくるので断言はできません。②についても同様です。また、英国の判例法で何か関係あるものがあるのかもしれませんが、そこまでは私も把握しておりません。

しかし、そもそもSuperdryというアパレルブランド名は創業者が日本に来たときに発想したということなので、アサヒスーパードライの存在は認識されていたはずであり、法律的なつじつまは合っていても道義的にどうなのよという気はします。

なお、日本では、アサヒビールが指定商品「被服」についても商標権を持っています(Superdry社の商標登録はありません)。したがって、USAコンバース(関連動画)と同じ構図で、英Superdryの服の輸入や販売を差止めることもしようと思えばできます。しかし、現実にはそうはなっていないようです(Amazon等で普通に売っています)。アサヒとしては、消費者が混同することもないであろうから「黙認」という形だったのだと思いますが、今回の件はちょっと裏切られたと思っているかもしれません。

ブランドの世界では、大目に見ていると庇を貸して母屋を取られるようなケースはたまにあります。「モンスター」という言葉を含む商標登録がされると必ず異議申立を行ってくるモンスターエナジー社のように、たとえ無理目でも権利主張だけでもしておく貪欲な姿勢(少なくともそのような姿勢を見せること)が必要なケースもあるかと思います。

ところで、まったくの余談で、この記事を書くために調べていて偶然知りましたが、まさにそのモンスターエナジー社は"MONSTER ENERGY SUPER DRY"なる商標を出願しており、現在、「アサヒのスーパードライと誤認混同を招く」という理由により、拒絶理由通知が出ています(解消して登録できるかは未知)。自社の「モンスター」にはあんなにこだわるのに他人の周知商標はあまり気にしないんだなあと思ってしまいました。

さらに余談ですが、「極度乾燥(しなさい)」などのめちゃくちゃ日本語(「極度乾燥」はまだしもカッコ付きの「しなさい」は何なんでしょうか?)は機械翻訳(最近のAIを使った正確なものではなく一昔前のテクノロジー)を通したものをそのままネイティブのレビューなしに使っているものだそうです。これについては、日本企業でも英語についてこういうことをやってしまうことはありそうですけどね(まあさすがに主力商品名でそういうことはしないと思いますが)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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