「はやぶさ」「はやぶさ2」のサンプルを守った“すだれ模様”。新旧再突入カプセルを比べてみよう
2020年12月にJAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に届けた、小惑星リュウグウのサンプルが収められていた再突入カプセルが一般に公開されている。東京上野の国立科学博物館では、企画展「小惑星探査機『はやぶさ2』-小惑星リュウグウからのサンプルリターン-」3月27日から4月11日まで開催※。宇宙から帰還した再突入カプセルの各部パーツを見学することができる。
※オンラインによる事前予約が必要
はやぶさ2の再突入カプセルは、3月12日から3月16日まで神奈川県相模原市の相模原市立博物館にて公開された。展示では、「前面ヒートシールド」「背面ヒートシールド」「インスツルメントモジュール」「搭載電子機器部」「パラシュート」など分解された再突入カプセルの各パーツを見られる貴重な機会となっている。特に、大気圏再突入時の過酷な熱から再突入カプセルを守った前面ヒートシールドは、展示などのために移動させると表面が崩れて損耗してしまう可能性がある。全国での巡回展示が行われるとしても、レプリカになるとも考えられる。
展示物の撮影は禁止されているため、写真を撮影しておいて後でゆっくり……ということも難しい。JAXAは、報道向けに再突入カプセル各パーツの画像を公開している。この写真と共に、10年前の2010年6月に小惑星イトカワのサンプルを持ち帰った初代「はやぶさ」の再突入カプセル記念展示の際の写真を合わせて紹介する。
再突入カプセル、特に前面ヒートシールドは、高熱に耐えて中身の小惑星サンプルコンテナや電子機器を守る技術のかたまりでもある。技術保護のため高精細な写真をWeb上で公開することは難しい。JAXAサイトの資料画像は表面が加工されており、ディテールはわかりにくい。本記事では、JAXAの確認の元、一定以下の解像度での写真を掲載している。
小惑星サンプルを守る技術が詰まった再突入カプセルの各パーツ
はやぶさ、はやぶさ2の再突入カプセルは、直径約40センチメートルの円錐状で、中華鍋と洗面器を向かい合わせにしたような形状となっている。表面は断熱材(ヒートシールド)で覆われ、探査機本体から分離後に一体となって大気圏に再突入し、パラシュート開傘のタイミングで「前面ヒートシールド」「背面ヒートシールド」「インスツルメントモジュール」という3つのコンポーネントに分離する。サンプルを収めたコンテナはインスツルメントモジュールに入っており、この部分だけがパラシュートで減速しながら地上に降下する。他の2つのコンポーネントはそのまま地上に落ちるものの、はやぶさ、はやぶさ2の再突入のどちらの場合もすべて回収無事にされた。
前面ヒートシールド
大気圏再突入の際に前面(地上に向かう側)にあり、空力加熱によって最も強い熱に耐えなくてはならないコンポーネント。素材が分解して発生したガスによって熱を逃し、中の物体を熱から守るアブレーション技術が使われている。飛行中にアブレータが剥離してしまわないよう、10ミリメートル間隔で切れ目の入った樹脂のシートを重ねて作られている。通称「すだれアブレータ(Lattice Ablator)」と呼ばれるが、カプセル開発を担当したJAXA宇宙科学研究所の山田哲哉准教授によれば、「メロンパン」。初代はやぶさのカプセルを改修後に解析したところ、「異常な熱分解や剥離の発生は確認されなかった」といい、見事に小惑星サンプルを守りきったことがわかった。はやぶさ2では、実証された技術を踏襲し、同様のすだれアブレータが見て取れる。
背面ヒートシールド
素焼きの器のような外見の前面ヒートシールドに対し、背面ヒートシールドは表面にアルミと耐熱樹脂ポリイミドのテープが貼られている。再突入時には、500~600度の熱を受けたと考えられており、テープが溶けて剥がれ、一部だけが引っかき傷のように残っている。背面ヒートシールドが受ける熱は前面ヒートシールドに比べて小さいものの、カプセル全体が高温にさらされる再突入時の過酷な時間がうかがえる。初代はやぶさに比べ、はやぶさ2のカプセルではテープの残り方がやや少ないようだ。
インスツルメントモジュール・搭載電子機器
再突入カプセルの中身、インスツルメントモジュールは金属製の構体の中に小惑星サンプルのコンテナ(サンプル分析中のため展示なし)と、再突入時に作動する電子機器が収められている。はやぶさ2では、はやぶさの際にはなかった「再突入飛行計測モジュール(REMM)」が搭載されており、飛行時の加速度やカプセル内部の温度データを取得した。過去に小惑星や火星からのサンプルリターン技術の向上を目指し、2002年に大気圏再突入による温度や姿勢のデータを得る目的「高速再突入実験機(DASH)」という実験が行われた。しかしロケットからの分離に失敗し、実験中止となったという経緯がある。はやぶさ2再突入カプセル搭載のREMMでデータが取得できたことは、山田准教授によれば「18年ぶりの悲願達成」。熱環境のデータは解析中だが、「常温を大きく超えない程度の温度環境に維持されていた」という。また、打ち上げ前にはやぶさ2を応援するファンから寄せられた名前やメッセージが書き込まれたメモリチップも搭載された。
●パラシュート
はやぶさ2が打ち上げられた2014年から6年間、たった1回の再突入の瞬間のために出番を待っていたパラシュート。再突入カプセルのコンポーネントはどれも、探査機本体の観測機器のように電源を入れて動作を確認する、といったことができない。1度のチャンスで確実に動作することが求められ、6年間小さくたたまれていたパラシュートは、はやぶさのときと同様にしっかりと開いてインスツルメントモジュールを地上に降ろした。レーダーで発見しやすくなるよう、電波反射材のシートが取り付けられており、2010年にも、2020年にも再突入カプセルの発見を助けている。