「2022年7月の佐野元春」と「山下達郎feat. KinKi Kids」【月刊レコード大賞】
前々回にも書きましたが、そもそも私はメッセージソング好きなのです。その前々回は、桑田佳祐 feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎『時代遅れのRock'n'Roll Band』を取り上げ、前回取り上げたSEKAI NO OWARI『Habit』も「Jポップ批評」というメッセージソング的観点から語りました。
もとよりメッセージソング好きだったことに加えて、先月(6月)までは、主にロシアによるウクライナ侵攻の影が、私の気分を、さらにメッセージソングに向かわせたのです。
そして2022年7月は、参議院選挙(7/10投票)と、元首相が凶弾に倒れた事件(7/8)で、これからも長く記憶されるであろう1ヶ月になりました。
2022年7月、そんな騒がしくきな臭かった1ヶ月において、私のモヤモヤした気分を癒やし・励ましてくれる、最適なBGMが佐野元春&ザ・コヨーテバンドの新譜『今、何処』だったのです。
元首相銃撃事件のあった7月8日、私はこの曲をスマホで聴いていました。スマホにつないだワイヤレスイヤフォンからは『今、何処』が、そしてスマホの画面からは、事件の詳細が流れ出してくる。
その翌日の私のツイート。
事件からの数日間、年かさの音楽好きとして思っていたのは「これだけ混迷しているのに、音楽も愛だの恋だのだけじゃないだろう」ということです。
そんな気分に、佐野元春の新譜が、とてもしっくりと来たのです。例えば、参議院選挙直前の、けたたましい演説が飛び交うターミナル駅で、この曲が――。
そして、多くの有権者にとって、選挙の本質的な争点が曖昧なまま、「投票に行こう」というかけ声だけがメディアの中で撒き散らされるときに、この曲が――。
さらに、元首相の銃撃事件について、関係したとされる宗教団体が、かつて名称変更していたという報道を見聞きしたときに、この曲が――。
この『大人のくせに』という曲は、アルバムの1つのハイライトとなっている曲で、最後はこのような歌詞で締められるのです。
私のような大人、ゴールデンタイムのドラマや、騒がしいバラエティなどが、どうにも身体に合わなくなってきて、それでも、例えばNHK『映像の世紀バタフライエフェクト』とかは、録画して何度も見て感極まったりするような大人――におすすめなアルバムだと思うのです。
「大人のくせに、ロックンロールかよ?」
「いや、大人なんだから、こういうロックンロールなんだよ」
「ロックンロールは、愛だの恋だのを歌うものだろう?」
「ロックンロールは、愛だの恋だの以外を歌ってもいいんだよ。まして、今は2022年の7月なんだから」
そしてもう1曲。こちらはまるで違ったテイストですが、KinKi Kids『Amazing Love』が良かったですね。
KinKi Kids、7月27日リリースの45枚目のシングル。まずは、発売のタイミングで、このようなライブ映像がYouTubeで見られるのが新鮮です。作り込まれたMVよりも曲の魅力が伝わりやすい。この方法論、広がっていくのではないでしょうか。
そして、山下達郎で言えば『ヘロン』(98年)、奥さんの竹内まりやで言えば『もう一度』(84年)あたりが好きな、山下達郎のオールドファンにとっては、ある意味、アルバム『Softly』の楽曲よりも、喜ばしいサウンドになっていると感じました。
あと、KinKi Kidsの2人の歌い方が、山下達郎っぽくなっているのもいいですね。余談ですが、80年代前半、佐野元春作品を歌う沢田研二の歌い方が、どこか佐野元春っぽくなっているのを思い出しました。
というわけで『Amazing Love』、言わば「山下達郎 feat. KinKi Kids」として、オールドファンにもおすすめです。
話を佐野元春に戻します。今回の参議院選挙では、この物価高の中、消費税をどう取り扱うかも1つの争点でした。ひるがえって、「愛だの恋だの以外」を歌うべき理由について佐野元春は、すでに36年前に歌っていたのです。
※掲載した佐野元春の楽曲はすべて「作詞・作曲:佐野元春」。KinKi Kids『Amazing Love』は「作詞:KinKi Kids、作曲:山下達郎」