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「G7に招かれ有頂天の韓国は口先だけなら二度と相手にされなくなる」香田元司令官インタビュー(下)

木村正人在英国際ジャーナリスト
D10タスクフォースまで立ち上げた韓国の文在寅大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]「ジョー」「ヨシ」――菅義偉首相は28日、ジョー・バイデン米大統領と約30分間にわたって電話会談し、中国を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け緊密に連携することで一致。沖縄・尖閣諸島についてアメリカの防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象を改めて確認した。

引き続き、沖縄・尖閣諸島の防衛、バイデン米政権の台湾政策、ボリス・ジョンソン英首相が先進7カ国(G7)に韓国、インド、オーストラリアを加えて民主主義10カ国(D10)に拡大しようとしている構想について、香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官にインタビューした。

――中国は海警法だけでなく、国防法も改正して公安部に所属していた武装警察隊を軍の組織に位置づけたというような動きもありました。日本はどのような備えが必要ですか

香田氏「法治国家は国際法を非常に重要視します。イギリスをはじめとする法治国家は日本も含め国際法に忠実です。仮に中国の漁船に乗った海上民兵が尖閣を占拠するとします。しかし、日本側には細部が分かりません。その場合、日本は国際法上どういうことができるのでしょうか」

「まず相手は何者かということです。どうも軍隊ではないと判断すれば、自衛隊は対応しないと考えられます。では警察対処となりそうですが、この段階で相手の正体はまだよく分からないと思われます。海上民兵は確実に尖閣諸島占領という任務を完遂しようとする場合、日本の警察を圧倒する火力の準備をして侵攻します。その場合、対処に向かった日本の警察部隊が全滅することはあり得ます。それがリスクです」

「もちろん、武装民兵は他国の漁船の操業妨害とかもやっています。そのように対応の難しい、特に国際法上の位置づけが難しい海上民兵の活動への対処に関して、2019年12月に退いたランドール・シュライバー前米国防次官補が講演で“重要なことは中国が、海洋国が国際法を尊重して判断するということを逆手にとって既成事実を作り上げようとしていることだ”と言っています」

「何を意味するかと言いますと、このような場合、相手が何者かを判断するのに時間がかかります。上陸占拠した集団を国際法上の軍隊として、あるいは警察か、さらには民間人として取り扱うのか、ということにより国際法上の取り扱いにおいて大きな幅が出てきます。情報収集を続けてその素性を見極め、素性に応じた国際法に則った対応策を決定するためには、常識的に相当の時間を要するでしょう」

「その後、こちらが対応を始めた時にはもう既成事実、つまり尖閣諸島の占領という既成事実を作り上げられてしまうということがあり得ます。もしそうなると、いったん占領された尖閣諸島を奪回するとしても、すでに中国軍が尖閣諸島防衛作戦を自国防衛という名目で実施することは確実となるため、尖閣諸島の奪還という原状回復が極めて困難になるのです。仮に奪還するとしても、自衛隊が払うコスト(人と装備両面の損害)は極めて大きく深刻なものとなる公算が大です。これが国際法を尊重して判断することを逆手に取った中国のやり口という事です」

「このことを受けて、アメリカ海軍大学の論文でも『彼ら』が誰なのかということも重要だが、最も大切なのは彼らが『何をしているか』ということである。要するに、彼らの行為が国の主権を侵害する事態と判断すれば、彼らの素性、つまり正規兵、民兵、民間人という属性に関わらず、主権侵害という事実への対応が必要という流れができつつあります」

「尖閣諸島の場合であれば、占領者が海上民兵であろうとなかろうと、上陸者の行為が国の主権を侵害しているか否かという点を判断して、もしそうであれば主権侵害に対する措置をとるということです。繰り返しになりますが、主権侵害に対してはその国が国際法上取り得る対応があります。その時の行為が主権侵害、すなわち相手の国家意思を発動したわが国領土への侵攻と政府が判断すれば、自衛隊の対応もできます」

「その際には現在、防衛出動判断の下令と密着に関係する武力行使の三原則の変更が必要になるかもしれませんが、これは国内問題ですので政府の腹次第です。重要なことは、彼らが誰なのか、何なのかではなく、彼らが何をしたかです。相手が必ずしも軍隊でなければならないということではなく、海上民兵でも海警の警備船でも、結果が主権侵害と判断できるものであれば、軍隊による侵略と同じ対応をするということです。相手の国の領土を無断で自由に占領することは、国際法や国際規範でも認められていません」

「領土を占拠するという行為は当事国にとっては明確な主権侵害です。当然それに対しては主権侵害の排除という大原則で対応策を考えないと、民兵など素性の知れない組織を多用する中国の伝統的な手段によりわが国の主権が好き勝手に扱われる恐れが大きいのです。この先、そういう論議の方向に変わっていくと思います」

――バイデン政権の台湾に対する立場を日本としてどう見るかということですが、大統領就位式にバイデン政権が駐米台北経済文化代表処の蕭美琴(しょうびきん)代表を初めて招いたということがニュースになりましたね

「台湾代表を招待したことから見ると、トランプ政権と同じ流れと思います。まだ国務省も国防省もポリティカルアポインティーも出ていない段階ですが、重要なことは日本の対応です。中国のアキレス腱は自国に接する海、つまり南シナ海と東シナ海とも日本列島からマレー半島までの列島線で囲まれていることです。その要石が台湾です」

「アメリカが中国をライバル、競争相手と捉える限りは台湾を失うことは中国のアキレス腱を解放するということになります。台湾の戦略的価値と中国のアキレス腱を、ワシントンで共和党、民主党を問わずいかに理解をさせてアメリカの台湾政策や戦略を立てさせる必要がありますが、その面での日本の役割は極めて大きいのです」

「いま述べた台湾の戦略的価値をアメリカに理解させるための働きかけが日本に求められているのです。そのことが菅政権、そして国家安全保障局や外務省さらには防衛省も含めた日本の総合的な力量が問われる問題だと思います」

――日本の台湾に対する立場というのはある程度は決まっているのでしょうか

「これはまだ定まっていないと思います。今までは日本の立場を明確にしなくても良かったのです。しかしトランプ政権の4年間、特にこの3年間の厳しい米中対立はありましたが、日本の経済界は引き続き中国に大きく依存し、期待しています。また、中国もアメリカと経済で殴り合っているからこそ、日本に秋波を送ってくる実態もあることから、経済面で日中は相思相愛の関係にあります」

「結局、トップリーダーたる総理大臣のリーダーシップとして日中問題に関して何にどのように優先順位をつけるかの整理が必要です。その中で、経済は節度を持った緊密な関係を維持するとしても、それと並立する形で台湾関係を作り上げ維持することも必要と考えます。アメリカもオバマ政権、そしてトランプ政権の1年目まで、つまり最初の2017年は中国と激しい対立はしませんでした」

「特に、中国の荒業を知っていたオバマ政権の意図した沈黙は中国に“何でも青信号”という誤解を与え、中国がアメリカを軽んずる源になったと言えます。台湾についてトランプ前大統領はどんどん肩入れしていきました。対中、対台関係は経済か、安全保障かというゼロ・イチ勝負ではないはずです」

「中国の主張はそうだとしても、日米とも自国の国益を考えた時に中台双方との関係において二律背反とはならないはずです。そこをどう切り分けて、中国問題とともに台湾政策を組み立てていくかが問われます。今の日本は中国に対する忖度(そんたく)が大き過ぎると思います。逆に言うと一部を除き台湾の戦略価値を理解できないことも含め、台湾を軽く扱い過ぎています」

――ジョンソン英首相が言い出したG7にインド、韓国、オーストラリアを加えたD10構想についはどう思われますか

「日本の立場からは、非常にひどい韓国の振る舞いがあるので、感情的に韓国を組み入れることは支持しにくいでしょう。しかし安全保障とか国家戦略は感情ではなく、計算です。日本でおそらく戦略とか情報が一番発達していたのは戦国時代、日露戦争期だと思います。戦国時代は娘を敵に嫁がせたり、お家を守るために長男を斬ったり、これは感情面からみると極悪人のすることで人道的にも許されることではありません」

「しかし、小とはいえ一国の主には自分の領国民の安寧を考え、存続を考えたときには感情よりも重視するものがあるのです。逆に、D10が実現したときに試されるのは韓国です。米韓関係を例にとりますと韓国はアメリカ、米韓同盟と口を開くと繰り返していますが、実際にやっていることは正反対の反米とは言いませんが、アメリカ無視あるいは中国と北朝鮮重視です。口でいうこととやっていることが全く異なる正反対ということです」

「特に北朝鮮についてはもう北朝鮮の属国みたいなことを韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は言っています。その韓国がG7の場にD10として出てきたときに、おそらく口では“それらしいこと”を言うかもしれません。しかし、口だけで行動が伴わない場合すぐにメッキが剥がれます。そうなればD10の中で信用を失い、次回以降、二度と呼ばれなくなるでしょう」

「韓国はD10のニュースで有頂天になっています。暗いニュースが続く中で、日本と一緒、つまり日本と対等に並ぶチャンスがD10ということです。このような背景から、韓国政府はすでにD10タスクフォースまで立ち上げました。私は想像や韓国嫌いでこのような荒唐無稽なことを言っているのではありません」

「日韓関係の歴史において、約束を破る韓国、信用できない韓国ということは日本が身にしみて感じさせられたことです。これは韓国のDNA(遺伝子)かもしれません。韓国がD10においても“お家芸のリップサービス”だけでうまく振る舞い、その後は“知らぬ顔の半兵衛”で国際社会をかわして終わる話ではないのです」

「大戦略は感情ではないということから言うと、日本としては、できれば日韓は慰安婦等の諸問題を解決し、できないとしても解決の方向に向かって歩き出した協調姿勢をとることが対中、対露を考えると大事だということです。そういう大目標に向かう際は、今の複雑な感情は押し殺してでも韓国にはD10に参加してもらうことが理想でしょう。しかしD10参加で実際に厳しいのは韓国だという理解は必要でしょう」

「韓国はD10で誤ればG7という世界をリードする民主主義先進国から相手にされなくなります。もちろんアメリカは本音としては、韓国は中国寄りだという不安を持っています。しかし韓国に中露側に寝返られると政治的なポテンシャルと物理的なパワーバランス両面でアメリカ、日米、そして自由諸国としての大きな損失になります」

「米韓同盟をアジア太平洋の安定の要だとアメリカは公式発表では言っていますが、米韓同盟は北朝鮮が攻め込んだときの韓国の防衛同盟ですから、アメリカは血を流しますが、得るもの、つまり同盟の付加価値はほとんどありません。しかも韓国はアメリカの言うことをほとんど聞かない、あるいは聞いても実施しないのですからアメリカの本心は穏やかではないでしょう」

「文在寅政権は北朝鮮にばかり良い顔をしている。挙げ句の果てには日韓両国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を打ち切るとまで言い出しました。アメリカの本音は、韓国は手に負えない“駄々っ子”です。当然、国と国との付き合いですから一切顔には出さず、口でも“米韓同盟はアジア太平洋の安定の要だ”と言っていますが……」

――北朝鮮問題はバイデン政権下でどう動くのでしょう

「われわれの物差しで測れないことが北朝鮮の本当の経済的困窮度です。相当正確な評価として北朝鮮が経済面で困窮していると言えますが、昨年と今年の2回大規模な軍事パレードをしています。民主主義の尺度で測れば、本当に困っているのであれば、軍事パレードに費やす国家資源を再配分して国民に饅頭の一つでも配るということになります。しかし、事実として困っていながら、国民の生活向上にほとんどの資源を投入できない北朝鮮のジレンマがあります。その源が対米恐怖であり不信です」

「北朝鮮としては朝鮮半島でアメリカと2回目の地上戦をしたら負けることは正確に理解していると推察できます。北朝鮮軍は米韓連合軍に負けます。仮に戦争が起きた場合には、少なくとも引き分けに持ち込まないと北朝鮮の現在の統治体制の生き残りはありません。従って主敵であるアメリカとまず戦争を起こさない、そのような中で国家生存という自分たちの目標の達成、あるいは国家統治体制を維持したい、という立場からアメリカを抑止することはどうしても必要になるのです」

「2018年の米朝首脳会談以後、国家資源を投下する割合は減っているでしょうが、核開発と弾道ミサイル開発は、研究所レベルでしょうが永々と続けています。その結果が昨年の潜水艦発射弾道ミサイルや、新型ミサイルだと思われます。この動きはアメリカに対する恐怖と警戒感の裏返しといえます。それは米朝首脳会談以前と同じレベルで残っているのです」

「それを上回る深刻な問題が国民生活の窮乏です。バイデン政権として北朝鮮とどう付き合うのか。アメリカや日本の立場からすると核廃絶の約束と実行が先決です。そこをバイデン政権がどこまで押し通せるか。ドナルド・トランプ前大統領はそれを組織的にやらず自分の個人プレーでやり、派手なパフォーマンスはあったものの、思った方には進まず、後半の米朝交渉は暗礁に乗り上げました。アメリカそしてトランプ政権は結果的にベトナムのハノイで変な約束をせずに良かったのですが……」

「バイデン政権には国務省、国防省、情報チームも総動員して北朝鮮とどう付き合うかが問われます。ただ中国が言う6カ国協議は、国を多くした場合の調整要素が多くなり過ぎることから多くは期待できません。2003~07年に行われた6カ国協議がほとんど進まなかった通りです」

「会議の停滞が北朝鮮に核とミサイル開発の時間を与えただけです。何回か部分合意で北朝鮮に兵糧を渡したものの食い逃げされるということの繰り返しでした。中国は嫌がるでしょうけれども、アメリカと北朝鮮を中心にやることが正道でしょう。そのことはアメリカ、そしてバイデン政権からすれば新たな中国カードということもできます」

「トランプ前大統領の個人プレーよりもチームとしてのアメリカとそれを外側でサポートする同盟国が協力しなければなりません。まずはチーム・ワシントンそしてチーム・アメリカとして確実に機能する北朝鮮政策を打ち出せるかどうかが鍵でしょう。大原則としての北朝鮮の核廃棄の約束と、できればですが、実際の核の破壊がない限り、この問題は動かないと私は思います」

――北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験と核実験の寸止め状態で揺さぶりをかけながら、アメリカは制裁を緩めないという膠着(こうちゃく)状態がこれからも続くということですか

「北朝鮮がやるとしたら核実験と長距離弾道ミサイルの発射実験です。弾道ミサイルの試射実験では火星12型のみ、全力に近い約3700キロメートルの距離を飛ばせました。ICBMの火星14、15は最大射程発射試験をしていませんので、正確な飛行距離さえ把握できていません。ロフティッド軌道というほぼ真上に打ち上げたものの、これだけで実戦の用に供する武器とは言えません」

「テストしていないのですから当然です。バイデン大統領が難しいのは、アメリカが北朝鮮問題で動かないと見たときに北朝鮮が実発射実験を再開するかもしれないということです。もちろん、それはアメリカにとって痛くもかゆくもありませんし、実験を実施したところでアメリカの締め付けが却って厳しくなることも考えられます」

「新たな国連制裁が出される可能性があります。国連制裁のカードは新たなカードを切れないぐらい出していますが、さらに上積みされるでしょう。アメリカと北朝鮮の間でギリギリのせめぎ合いがあります。そのような中、核実験と長距離弾道ミサイルの最大射程発射実験が今年中にあり得るということは北朝鮮のオプションの中に含めて考えておく必要があります」

――アメリカが、中国のミサイル能力が突出し始めているのでそれを均衡させる意味で日本のどこかに中距離ミサイルを配置したいという意向を持っていると言われていますが

「私は、アメリカはやらないと思っています。実はアメリカが7千億ドル、日本が500億ドルの国防費です。アメリカは日本の14倍ぐらい使っています。それでもアメリカは自分が思う兵力整備はできていません。一つだけアメリカを利したのはICBMの新型をロシアのように開発しなかったことです。ミニットマンという1970年代の弾道弾(最新のⅢ型)を今250基ぐらい持っています」

「新しいICBM開発に必要な膨大な予算をそれ以外の一般兵力の能力向上に使えたのです。今の圧倒的な米軍を作り得た貢献の一要素です。アメリカが新たに中射程としても開発するとなると、そういうメリットは崩れ、他を圧迫する要素が生まれます。恐らく、ここ10年以内に導入後半世紀を超えるミニットマンの後継機を開発することが優先されるでしょう」

「逆に、韓国程度の国内総生産(GDP)のロシアは連続的に何セットも新しいICBMを開発しています。もともと弱い経済がこのような軍事予算の使い方では疲弊することは当たり前です。アメリカも、中国をにらんで宇宙からサイバーを含めてより広範囲で高性能なハイテクを使った兵力を整備しなければならないときに新たに戦略核と中距離核にどれだけ投資をするかという問題があります」

「次に欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国との間にはニュークリア・シェアリング(核兵器の共有政策)があってドイツとかオランダの戦闘機にアメリカの核弾頭を積んで冷戦中、対旧ソ連の抑止力にしました。核をアメリカの独占物ではなく、NATO加盟国と共有し、団結の絆にしました」

「ところが今トルコにこのアメリカの戦術核がまだ残っています。引き揚げるタイミングを失ったのです。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が強権主義的な性格を強める中、アメリカは不安定な国に核爆弾を何十発も置いたままになっています」

「核装備可能な米軍の中距離ミサイル配備により日本が危なくなるという意味ではなく、外国に核を配備することの怖さです。中国もそうですし、ソ連は崩壊してロシアになってから旧ソ連諸国に核を配備していません。その中でアメリカだけが同盟国といえども核を貯蔵していますが、その管理の難しさも考えなければなりません」

「いかほど有益かというと、別に沖縄とか日本列島線に中距離ミサイルを配備しなくても、例えば原子力潜水艦とかグアムの戦略爆撃機から十分発射できますし、その代替手段というのはあると考えます」

「アメリカが中距離核ミサイル部隊を持つことはあり得ます。しかし、その地上部隊を日本に配備することについては、私はないだろうと思います。デメリットの方が大き過ぎるからです。いったん置いてしまうと戦略展開も難しくなります。アメリカは核がなくても嘉手納基地は核部隊10個分ぐらいの抑止力があります。嘉手納基地を攻撃したらTVドラマみたいに100倍返しになるわけです」

「日本としてはそこの担保は十分できています。それさえ信用できないと言うなら日米同盟も信用しないということです。これは理論上の検討材料としてはあり得ますし、検討をしておく必要はあるでしょう。しかし実際に今のわが国の政策としてやるとなると、それは賢明とは言えません」

「また、蛇足ですが、最大の即応性を細心の神経で維持しなければならない中距離ミサイルシステムで、同時に誤操作による核ミサイル発射防止を100%保証するという、まさに矛盾の権化のような世界も考えなければなりません。ペイしないと考えます」

「今はアメリカ本土配備のICBMだけですから、毎日の訓練のせいもあり誤操作はありません。爆撃機部隊では誤搭載飛行が報告されています。最高の訓練を受けた隊員でさえ人間は間違えるのです。海外に配備したときは、アメリカは24時間365日、全ての兵器ごとに誤操作の可能性はないことまでモニターしなければならないのです。もちろん、軍の業務もこのような管理面で膨大なものとなります。核兵器は誤発射であっても相手の国も即応して反撃の核発射ボタンを押してくることは確実です」

「十万人なり百万人の人が死ぬわけですから、誤操作は絶対に許されません。当然、誤操作であっても反撃は実施されます。そういうことを考えれば、常識的には配備するとしてもアメリカの息が直接かかる範囲、すなわち原子力潜水艦とか戦略爆撃機でしょう。水上艦まで含める公算はあります」

「昨年2月に米国防総省は“使える核兵器”と呼ばれる低出力の核弾頭を潜水艦に搭載しました。爆発規模をTNT火薬換算で5キロトンぐらいまで落としたものです。広島に投下された原爆(推定約15キロトン)より威力が小さい。それを戦略原潜搭載のSLBMに配備しました。アメリカは中距離ミサイルを横目に見ながら、それとは別に既配備戦力を転活用して実質的に対応を始めています。トルコの事例も考えたら軽々に外国に置くことはできないということになるのではないでしょうか」

――日本の敵基地攻撃能力の開発というのは実際どんな方向で動いているのでしょうか

「2021年度予算で12式地対艦誘導弾能の長射程化(産経新聞の報道では射程1500キロメートル)とか、ステルス戦闘機F35A(通常離着陸型)に搭載可能な射程約500キロメートルのスタンド・オフ・ミサイルをもう入れ始めています」

「この措置は、槍の長さという面での有効性はあるのですが、その長い槍をきちんと相手の心臓に突き刺すという意味での目とか耳にあたる情報とか意思決定をする脳に当たる指揮管制システムの整備には手を付けていません。つまり長槍を今までと同様に戦術的に使うものに限られています」

「それについて、私は能力を持つことは必要でしょうが、実際の配備は日本国民の多数が納得した段階でそれをやることが肝心と考えています。もちろん、仮の話ですが、南西諸島の沖縄や他の主要諸島に敵国の侵攻部隊が基地や港を出撃した途端に遠距離から撃てるのが一番良いことは戦理として当然です。戦術的な長射程化というのは着々と進めており、これは是とすべきでしょう」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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